119.声。
パネルについている通信ボタンを押して、オウ魔界王が持つパネルに信号を送る。
セブンティーンとナインティーンが日々改良してくれたお陰で、ボタン1つで相手と繋がる事が出来るようになったし、繋がるまで数分だ。
仕組みを説明してくれたが、さっぱり分からなかった。
とりあえず分かったのは、あの子達は凄いという事だ。
パッ。
しばらくすると、黒かった画面が明るくなりオウ魔界王の姿が映った。
「急に連絡して悪い。今、大丈夫か?」
事前に言っていなかったので、少し驚いた表情のオウ魔界王が首を縦に振る。
「構わない。何かあったのか?」
「少し確認したい事があって」
「確認?」
首を傾げるオウ魔界王に、ボルから聞いた事を話す。
そして、幻聴や仲間が魔界を否定するような事を言っていないか聞いた。
「側近や仲間から、今の魔界を否定するような言葉を聞いた事は無いし、幻聴も無いな」
「そうか」
ボルが心配したけど、大丈夫そうだな。
それにしてもボルはいったい、誰の声を聞いたんだ?
「あっ、そういえば……」
オウ魔界王の言葉に、視線を向ける。
「何か思い出した事でもあるのか?」
「あぁ、気のせいだと思っていたけど……」
「オウ魔界王?」
何を思い出したんだ?
「俺が魔界王になる前だけど、魔界に流れる魔神力を調べている時に聞こえた声があるんだ。ただ、何を言っているのか聞きとれなくて。でも、あの声を聞いたあとは、体から力が抜けるというか、やる気が無くなるというか。……不思議な感覚になったんだ。もしかしたらあの声の事かな?」
やる気が無くなったと言うなら、その可能性が高い。
ただ、ボルは魔界王にしか聞こえないと言った。
でも、オウ魔界王はその地位に就く前に聞いた。
つまり声は、魔界王以外にも聞こえるという事だな。
でもどうして、オウ魔界王は選ばれたんだ?
オウ魔界王と他の魔神達との違いは?
「魔神力か?」
オウ魔界王は、魔神力を調べている時だと言った。
魔神力は魔界に影響を与える物だ。
だからオウ魔界王のやる気を削ぐために、声を届けた?
「考え過ぎか?」
「どうした? やはりあの声が、ボルチャスリ魔神が心配している声なのか?」
「俺は聞いていないから断言できないが、その可能性は高いと思う。声は、何回ぐらい聞いたんだ?」
「そうだな、3回か4回だったと思う。魔神力より気になる物が見つかって、研究が変わってからは聞いていない」
やはり魔神力を調べさせたくなかったのか。
「他に気になる事はあるか?」
俺の言葉にオウ魔界王が神妙な表情を見せる。
「あるのか?」
「もしかしたらなんだが」
「それでもいい。話してくれ」
「今、俺達は呪界王が作ってくれた結界内で過ごしている」
「あぁ、そうだな」
そういえば、魔界は既にオウ魔界王の物だ。
結界内で過ごす必要は無いのでは?
「神国も変わったから、結界から出る準備をしようと思ったんだ。だけど」
だけど?
「何があった?」
「結界の外から戻って来た魔神達が、攻撃的になるんだ。数日結界内で過ごすと落ち着くんだけど」
攻撃的?
もともと魔界に流れる魔神力には、負の感情を刺激する力があった。
でも、今は違う。
オウ魔界王に変わってから、魔神力には守る力があると広めてもらった。
結界内で過ごしている魔神達や魔族達は、実際に経験しているからその考えはあっという間に広がって、魔界に流れる魔神力は徐々に変わっていった。
だから、結界の外に出たとしても攻撃的になる事は無いはずなのに。
「声が影響していると?」
「もしかしたらと思って。ただ、調査したが声を聞いた魔神はいなかった」
声は聞いていない、か。
でも魔神力以外の何かの影響を受けているのは間違いないよな。
声ではないとしたら、何があるだろう?
「そういえば、俺の仲間は大丈夫なのか?」
「それは大丈夫だ。結界の外に出ても、彼等は個々で呪界王の結界で守られているから」
あっ、そうだった。
魔界に行く仲間達には、俺が結界を掛けていたな。
「一度、結界の外に出て様子を見てみようかな」
オウ魔界王の言葉に、眉間に皺が寄る。
「危険だ」
魔神であるオウ魔界王には、影響があるはずだ。
「そうかもしれないが、結界の外で起こってる事は確かめないと。それが声なら、何処から聞こえてくるのか確かめる必要もある。魔神が攻撃的になると分かってから、結界の外に出ないように言ったけど、このままでは駄目だからな」
確かに、調べる必要はあるけど。
「影響を及ぼしているのがもし声なら、早急に手を打たないと」
オウ魔界王の言葉に、小さく息を吐き出す。
分かっている。
ボルのように知らない間に、影響を受ける可能性があるからな。
「俺が結界の外で確かめるのが一番だ」
まぁ、その通りなんだけど。
声が何処から届いているのか調べるためには、その声に含まれている力を捕らえないと駄目だ。
そのためには、声が聞こえる存在がいた方がいい。
でも、オウ魔界王が声に影響を受けたら?
「大丈夫だ。そうやすやすと影響を受けたりはしない」
「……分かった」
オウ魔界王の言葉を、信じよう。
というか、魔界の事に口を挟む権利なんて俺には無い。
オウ魔界王が優しいから、俺に話してくれているけど。
「本当に気を付けてくれ」
「もちろんだ。調べるのは早い方がいいよな。明日にでも結界の外に出てみるよ。サブリーダーも傍にいてくれるから、安心していい」
オウ魔界王の視線がすっと横にそれると、画面からいなくなった。
そして代わりに、画面にはサブリーダーが映った。
「オウ魔界王は、しっかり守るので安心して下さい。影響を受けて何か問題を起こしそうになったら、殴ってでも止めます」
「いや、殴ったら駄目だろう」
サブリーダーの言葉に、慌てて止める。
問題を起こしたとしても、魔界の王だから!
「今、オウ魔界王から殴る許可を貰いました」
「オウ魔界王! そんな事を許可しないでくれ。本当に殴ったら、魔界にいる魔神達や魔族達に仲間が攻撃されるかもしれないだろう?」
「それは、無い」
姿は見えないが、オウ魔界王の否定する声が聞こえた。
「いや、自分達の王が攻撃されるんだから、不快な気持ちになるだろう?」
画面に映っていたサブリーダーを抱き上げて膝に乗せるオウ魔界王。
画面には、オウ魔界王とサブリーダーが映った。
というか、サブリーダー。
オウ魔界王の膝の上に座っているのか?
それは……いいのか?
「サブリーダーが俺に攻撃をしても、周りの者は俺に問題があったと思うだろう」
「いや、そんな事は無いと思うが?」
「あはははっ。魔界での呪界王人気を甘く見たら駄目だ。本当に凄いからな」
えっ?
……そんなに凄いのか?
「だから呪界王に仕える彼等が俺に攻撃をしても、すぐに呪界王に対して不信感を持つことはない。逆に俺に対して、何をしたのかと問い詰めて来るだろうな」
……マジ?
「本当だからな」
俺の表情を見て笑うオウ魔界王。
嘘をついている様には見えないし、膝の上のサブリーダーも頷いている。
つまり、魔界で俺は人気者?
「はははっ」
知りたくなかったよ。




