105.神が高潔?
困った。
何から話をするべきかな?
「あっ、創造神に答えを聞きたいんだけどいいかな?」
「はい。何のでしょうか?」
緊張した面持ちの創造神が、パネルの向こうから俺の様子を窺うように見ている。
それに苦笑してしまう。
「創造神。我々は同じ立場なので、そんな風にかしこまる必要は無いと思う。もっと気軽に話をしよう」
俺の言葉に戸惑った表情を見せる創造神。
神国の代表なのだから、もっと大きく構えて欲しいんだけどな。
「世界の王として、2柱はしっかりと世界を導いています。ですが、私は全く出来ていません。だから同じでは無いかと思います」
創造神の言葉に、オウ魔界王と顔を見合わせる。
「導いているかな?」
オウ魔界王の言葉に首を横に振る。
「いや、全く。俺は、流れに身を任せているな」
「俺も似たようなものだな」
オウ魔界王の言葉に笑みが浮かぶ。
同士だ。
「えっ? 流れ?」
創造神が困惑した表情で俺達を見る。
「そもそも魔界王になったのも、なぁ?」
オウ魔界王がチラリと俺を見る。
そっと視線を外すと、溜め息が聞こえた。
俺は知らないよ。
「呪界王の部下に誘導されて、気付いたら魔界王と言う地位から逃げられなくなっていたからな」
はははっ。
オウ魔神を選んだサブリーダーは、偉い。
「えっ? えっ?」
オウ魔界王の言葉に、目を見開く創造神。
「呪界王だって、なぁ?」
「まぁ、成り行きで……かな?」
守りたい。
ただその思いだけを貫いていたら、この地位だったからな。
周りも当然という雰囲気だったから、まぁいいかと思ったけど。
今思えば「本当に俺でよかったのか?」と思ったりもする。
「あの、魔界や呪界をこうしたいという思いでその地位に就いたのでは無いのですか?」
創造神の言葉に、オウ魔界王が首を横に振る。
「無い! 全く無い! 俺は研究がしたいと今でも思っているからな」
「魔界も落ち着いて来たんだし、空いた時間に好きな研究ぐらいは出来るだろう?」
俺の言葉に、オウ魔界王が俺を睨む。
えっ?
睨まれた理由が、思いつかないんだけど?
「魔界は今大きく変わってきている」
そう言っていたな。
「日々変わる魔界の対処に追われているんだ。空いた時間は疲れ切って寝ているから、研究する時間は全く無い」
あ~、その大きく変わっていく魔界を作りだしているのは、サブリーダー達だな。
うん、家とか池とか畑とか。
色々計画を立てて、魔神達や魔族達と一緒に頑張っているみたいだ。
「まぁ、それも終われば。そう、きっと思う存分研究が出来ると思うぞ」
俺の言葉に、疑わしそうな視線を向けるオウ魔界王。
うわ~、視線で震えそう。
「いつ終わるんだ?」
「さぁ?」
そんな事は、分かるわけが無い。
「誰かに、この地位を譲りたい」
「どうしても無理なら、次を探したらどうだ?」
創造神をチラッと見る。
俺とオウ魔界王の会話に、さっきから驚いている。
きっと、想像してきた魔界王と呪界王では無かったんだろうな。
「そう簡単に次はいない。俺だって探したんだ」
「だったら、有能な魔神を魔界王にするために、オウ魔界王が導けばいい」
俺の言葉に、オウ魔界王が考え込む。
「俺が導く?」
「そう。強さが足りないなら、鍛えればいいし。考え方が未熟なら、色々と経験させればいい。何もせずに次を待つより、自分の手で成長させた方が早く代替わり出来ると思うぞ」
「そうだな。なるほど」
どうやら、次の魔界王をオウ魔界王が育てる事になりそうだな。
俺も次の呪界王になれる存在を見つけたいけど、今の状態では無理だよな。
俺は呪界で神になったと言うか、受け入れたから呪神だ。
そしてこの世界に、呪神は俺1人……1柱と言う言い方だな。
つまり次がいない!
やっぱり早急にこの世界でも、新しい魂が生まれる環境にしたいな。
「あの……」
ずっと俺達の事を驚きの表情で見ていた創造神が、そっと俺達に声を掛ける。
「何?」
「どうしたんだ?」
オウ魔界王と俺に見られて少し躊躇したみたいだが、ぐっと目に力を籠めて俺達を見た。
「神国では、創造神は特別な存在として認識されています。魔界や呪界では、どうなんですか?」
「一緒だ。魔界でも魔界王と言う存在は特別だ。誰でもなれるわけではない」
オウ魔界王の言葉に、創造神は頷くと俺を見た。
「呪界でも、特別な存在だとは思う。ただ、呪界王と言う存在が特別視されているかは疑問だな」
飛びトカゲやコア。
親玉さんやシュリ達の様子を見る限り、俺を特別に見ている事は分かる。
でもあれは、呪界王になる前からなんだよな。
だから、彼等が呪界王と言う地位を特別に見ているかは不明だ。
「大丈夫か?」
オウ魔界王が創造神を心配そうに見る。
彼を見ると、少し顔色が悪いような気がするな。
「はい。大丈夫です。私の中で、世界の王は、その、高潔のイメージがあって」
高潔?
たしか、人柄が立派で、私欲のために心を動かさないという意味だったよな。
「ん~、王とはいえ、欲望はある。だから高潔に生きるのは無理だろう」
まぁ、自分の利益だけを追い求めるのは、世界に影響を与える王である以上は駄目だけど。
少しぐらいなら、自分の利益を求めても許されると思う。
「神国で求められるのは、高潔で無敵な創造神です。ずっと、そうでした」
創造神の言葉に、オウ魔界王の顔が歪む。
「あのさ、歴代の創造神は高潔とは程遠い存在だと思うぞ」
その通りだと頷くが、創造神は理解出来ない様子を見せた。
「神だけの利益を追い求めて魔神を虐げてきた創造神達が、高潔なわけが無いだろう」
その通り。
「それに、呪いを生んだのは神が起した行動の結果だ。そしてその行動を許したのは創造神だろう? どこが高潔で無敵なんだ。いや、これまでは無敵だったか?」
「…………」
オウ魔界王の言葉に考え込む創造神。
どうも創造神は、これまでの創造神像に振り回されているな。
これを壊さないと駄目だな。
でも、どうやって壊す?
「どんな創造神になりたいんだ?」
俺の言葉に、微妙な表情を見せる創造神。
「頼れる存在に」
「頼れる、か」
確かに、頼られると自分が立派になったと感じられるよな。
「『頼る』は、別の言い方をすると『面倒事を押し付ける』だよな」
「あはははっ。身も蓋もない」
「そんな!」
オウ魔界王の言葉に笑っていると、創造神が眉間に皺を寄せた。
「俺は元々神だ。だから言える事だけど、神達は『自分勝手な正義』を振り上げて色々やった。そしてその結果、神達だけでは対応できない事が起きた。その解決に頼ったのが創造神だ。創造神は確かにかなりの力を持っていた。だから解決出来る事も多かった」
自分勝手な正義か。
「ずっと不思議だったんだ。頼られる前に解決できるのに、なぜしないのか」
「あっそうだな。確かに、酷い結果を生む前に止める事は出来るんだ」
「そう。でも俺の知る限り創造神は頼られるまで手を出さなかった。ただ見ていただけ。創造神になったら、何か力に制御でもかかるのか?」
止めたくても、止められなかったという可能性か。
創造神は、困惑した表情で首を横に振る。
つまり、酷い結果を生むと分かっていても、創造神の意志で止めなかった。
「つまり創造神は、頼られるまで神国にどんな被害が出たとしても放置したと」




