95.見えない存在。
アイオン神が、話があると呪界に来た。
俺は魔界に落ちた神族の事だと思ったけど、アイオン神の様子を見る限り違うようだ。
「どうしたんだ?」
アイオン神の神妙な表情に、魔族達と保護している神族の子供達と親達が、キッチンからリビングを覗いている。
少しは遠慮をして欲しいが、彼等の足元には一つ目達までいる。
全く、しょうがないなぁ。
「神国は終わりかもしれない」
アイオン神の言葉に、聞いていた魔族達と神族達が驚いている。
そしてなぜか、神族が嬉しそうな表情になった。
おかしい、普通は不安そうにするのでは?
あっ、こら。
勝手に呪界に移住する計画を立てない。
魔族も一つ目達も、楽しそうにしない!
というか、なんで魔族が神族を魔界に誘っているんだ?
神族も旅行ならって、おかしいだろう。
「翔?」
「悪い。どうして終わりなんだ?」
「神国にとって、異常な事が続いているのは知っているよな?」
「あぁ、そうだな」
魂の生まれる場所で見つかった呪いを籠められた魔石。
それに、神国を守る結界が破壊され、修復されない事だよな。
おそらく俺が知らない事も多くあるだろう。
「それで、創造神に疑いが掛けられた」
まぁ、そうなるだろうな。
特に結界が壊された後、すぐに修復しなかったことが問題だ。
あれは創造神の管轄だろうからな。
というか、未だに結界は修復されていないんだよな。
創造神は何をしているんだ?
「落ち神の処理は後回しにして、神国の現状と創造神を調査する事になったんだ。これは創造神の主導ではなく、カルアタ神が属してる組織が主導して行った」
まぁ、調査される者が主導する事は出来ないよな。
「それで?」
「それが……創造神の力が失われているという事が分かったんだ」
「んっ? それはどういう意味だ?」
「神や神族の調整は出来た。でも創造神は、神国の制御は出来なかった」
調整? 制御?
調整については、今は考えないようにして、制御とは自分の思うままに支配することだよな?
「創造神は何をしようとしたんだ?」
「世界を短時間止めてもらおうとしたそうだ。これが一番分かりやすいらしい」
世界を短時間止めてもらおうとした?
「呪界、ストップ」とか?
カチン。
「えっ、出来た? いやいや、解除」
動いて!
カチン。
「あれ?」
アイオン神が不思議そうに周りを見る。
「気にしなくていいよ」
焦った。
あんな簡単な一言で止まるなんて思わなかった。
「マジかよ」
俺の言葉に、頷くアイオン神。
あっ、誤解された。
俺は自分の力の事を言ったんだけど、えっと……創造神が神国を制御出来なかったんだな。
つまり結界が破壊されたまま修復しないのは、創造神が制御出来ていないからなのか。
「いつからだ?」
「おそらく、前創造神の時からだと思う。ただ落ち神が創造神を利用していたから、記録があやふやな部分もあって正確には分からないんだ。でも、その前の創造神の時代には色々と記録が残っていたので、問題ない事が確認できている。力も一気に失ったわけでは無く、徐々に弱まっていたようだ。2月前に出来た星の移動が、今は出来なくなっていたそうだ」
「星の移動?」
「問題を抱えている星の近くに別の星があると影響を受けるので、創造神が安全な距離まで離すんだ。それが出来なかったと聞いた」
そんな事も出来るのか。
呪界には、ここ以外に星が無いから知らなかったな。
それにしても失った力、か。
ん~、失ったというか、奪われたかな?
俺は、この世界には見えない存在がいて。
その存在が、ぎりぎりのところで全ての世界を守っていると思っている。
それに意志があるのかないのかは、分からない。
でも、神達が強くなると同時に魔神達も強くなった。
まるで、どちらの世界も滅びないように調整されたみたいに。
そして呪界が出来た時も、なぜかどの世界も同じ大きさに調整された。
だから失われた創造神の力も、その存在が世界を守るために奪ったような気がする。
前の創造神は落ち神に良いように利用されていたみたいだから、利用されないように力を奪った。
まぁ、全て俺の想像だけど。
「翔はどう思う?」
「ん~、そうだな」
見えない存在については俺の考えで、本当にいるという証拠はない。
だから、そんな話をして混乱させても悪いよな。
特に神は、そんな存在を認められないだろうし。
「創造神が力を失って、神国を制御できなくなったという事は分かった。結界も修復されてないからな」
「創造神は、何度も修復しようとしているが無理みたいだ」
「そうなのか?」
放置しているわけではなかったのか。
それが分かっただけでも良かったかも。
「修復が出来ない事から、神国の現状調査だけでなく、創造神についても調査されることが決まったんだ」
「そうか」
神国を制御できない創造神か。
あぁ、だから魂を生み出す場所に、力の弱い神が入り込めたのか。
これがずっと不思議だったんだよな。
だって、俺だったら入り込んだ瞬間に気付けるから。
同じ力を持っているはずの創造神が、気付かないはずがないと思っていたんだよな。
しかも呪いを籠めた石まで置いて行かれている。
もし、入り込んだことに気付かなかったとしても、石から呪いが溢れたら絶対に気付く。
世界の王には、それだけの力があるんだから。
「創造神の力がどうすれば戻るのか、分からないんだ」
まぁ、初めての事だからそれは仕方が無いだろう。
「このまま制御が出来なければ、神国はいずれ滅ぶと思う」
「そこまで?」
確かに、色々な面で影響が出るけど、滅ぶかな?
「特に問題なのは、結界と命を生み出せない事だ」
確かに、その2つは大きな問題だな。
まぁ、結界に関しては魔界が落ち着いているから、すぐに修復しなくても大丈夫だろう。
ただ命に関しては駄目だな。
魂はいずれ消滅を望むらしいから、生み出せないと影響が確実に出る。
でも、おそらく滅ぶことは無いだろう。
見えない存在が、それは防ぐはずだ。
まぁ、そんな存在が本当にいたらだけど。
「今、やるべき事は」
創造神の力が戻る事が重要だよな。
どうやったら戻るんだろう?
「そういえば、創造神は自分が神国を制御できない事に気付かなかったのか?」
普通は気付くよな?
「気付いてはいた。ただ、自分の力不足が原因だと思ったようで、かなり思いつめていた」
力不足か。
そう言えばロープが、「今の創造神は覚悟が足りない」と言っていたな。
でも創造神に必要なのは、覚悟ではなく相談役だな。
誰か1柱にでも相談していれば――。
「相談した神も悪かった」
相談する相手はいたのか。
「どう悪かったんだ?」
「創造神の周りにいた神達は、身の回りの世話をする神族達に『役立たず』だと噂を流させて、創造神を少しずつ追い込んでいったんだ。自分達の思い通りに動く創造神を作りあげるために。神国を制御出来ない事で悩んでいたから、つけ込まれてしまったんだな」
ん~、やっぱりちょっと頼り無いなぁ。
「なんでそんな事をしたんだ?」
「創造神を蹴落として、自分が創造神になる為だな。今の創造神を決める時に、最後まで候補に挙がった神だったらしい」
はぁ、権力争いか。
今、何が重要なのか分からない者に、創造神は無理だろう。
「追い込んだ奴らは?」
「全員、牢だ」
それは良かった。
そう言えば俺は、創造神が間違った方へ行こうとしていると思ったんだよな。
でも、それは違うみたいだ。
創造神は、自分のせいだと追い込まれるほど真面目な性格?
「今の創造神に必要なのは……」
同じ存在かな?
「会ってみようかな」




