85.ぐちゃ~。
―リーダー視点―
カルアタ神が案内した場所は地下でした。
そして、呪界で不思議な植物が育っている場所も地下です。
だから、期待しました。
もしかしたら、あれも命花なのではと。
ですが、違ったようです。
非常に残念です。
「とても可愛い花ですね」
神国で育っていた命花は、大変可愛らしい花です。
高さは30㎝ほどでしょうか。
5、6枚の葉っぱに、4枚の透明な花弁です。
その透明な花弁が光を反射して、とても綺麗です。
ただアイオン神から聞いたように、透明な花弁に黒いシミがあります。
広大な花畑の命花をよく見ると、どの花弁にも黒いシミがあるようです。
そして一部の花は完全に枯れています。
そして枯れた花の上に、黒い影が浮かんでいます。
間違いなくあれは呪いに見えますが、確かめましょう。
「あれは、呪いですか?」
肩にいるのろくろちゃんに聞きます。
「のろい、のろい」
「ぐちゃぐちゃ~」
と、教えてくれました。
今日の、のろくろちゃんもとてもいい子です。
「ありがとうございます」
ただ、「ぐちゃぐちゃ~」とは何でしょうか?
少し近づいて観察してみましょう。
のろくろちゃんの言う通り呪いですが、それほど強くはないようです。
というか、どれも消えかかっているみたいです。
「なっ! 今!」
驚いたような声が聞こえたので視線を向けると、カルアタ神でした。
どうしたのでしょうか?
「それは、喋れたのか?」
「のろくろちゃんの事ですね。はい、喋れますよ」
そう言えば、のろくろちゃんの事を紹介していませんでした。
魔石もどきや命花の事が気になって、うっかりしていました。
「この子はのろくろちゃんです。今日の子は……3人ほど呪いが集まっていると思います」
寡黙な子もいるので、分かりづらいんです。
でも、たぶん3人です。
おしゃべりな子が2人に、寡黙な子が1人。
「3人ですか?」
不思議そうにカルアタ神が、のろくろちゃんを見ていますね。
もう少し説明が必要ですね。
「のろくろちゃんは、呪いの集合体です。その日によって、集まってくる子が違うのです」
「はぁ……呪いの……不思議な存在だな。というか、どうやって神国に気付かれないようにしているんだ?」
少し唖然とのろくろちゃんを見たカルアタ神は、不思議そうな表情をしました。
ですが、そんなに不思議な事でしょうか?
「主が、神国に合わせた結界を張ってくれました。私もです」
あれ?
カルアタ神が、かなり驚いていますね。
何に驚いたんでしょうか?
「はははっ。さすが、翔だな。ゴーレムだけでなく呪いまで完全に隠す結界を張れるんだから。本当に想像を超える存在だよ」
ん~、もしかして呪いを神国から完全に隠す事は、凄い事なんでしょうか?
主が簡単にやってしまうので、どれだけ凄い事なのか分からなくなるんですよね。
「結界だけで?」
カルアタ神の言葉に頷きます。
「はい。そうです」
「そうか。かなり呪界王の結界は優れているんだな」
「その通りです!」
主の結界は、神国にも魔界にも対応可能です。
「しかしアイオン神、これは問題なのでは? もしこの世界に害を与えようとしたら――」
「翔なら簡単に出来るだろうな。ただ、彼はそんな事に全く興味はないけどな」
そうですね。
主の今の関心事は、魔界で育てる野菜を増やす事と地下で育っている不思議な植物です。
それと新たに、魔族達の衣食住にも興味が出たみたいです。
特に気にしているのは、食事ですね。
魔族達の食べ物を聞いて、かなり衝撃だったようです。
「そうなのか?」
カルアタ神の視線がこちらに向くので、頷きます。
「はい、全く興味はないです。主は神達とは違います」
神達だったら呪界にちょっかいを掛けて来るでしょうが、主は興味すらありません。
私の言葉に情けない表情をするカルアタ神。
「これまでの神の行動のせいで、それを『違う』とは言えないのがつらいな」
カルアタ神の言葉に、つい頷いてしまいました。
「まぁ、それは追々変わっていくと信じるしかないだろう。それより、リーダー。命花の呪いは、どんな呪いなのか分かるだろうか?」
アイオン神が、雰囲気を変えるために明るい声で聞いてきます。
これは乗るべきでしょうね。
「私では分からないので、のろくろちゃんの協力をお願いしたいのですが。いいですか?」
「いいよ」
「チェック~」
「……やる」
3人目が応えてくれましたね。
やはり、3人の集まりのようです。
のろくろちゃんが、黒い影の上でぐるぐる回り始めました。
何か分かるといいですが。
「よっわ~い」
やはり、弱い呪いですね。
「ここで、ぐちゃ~」
「ぐちゃ~」は何でしょう。
何か、重要な事のような気もするのですが分かりません。
それに「ここで」という事は、この場所でしょうか?
「今、ここで、発生」
この呪いは、「この場所」で「今」「生まれている」という事でいいのでしょうか?
呪界の誕生で、全ての呪いは移動しました。
それはロープが確認していますから、神国に呪いがあると聞いて不思議だったのです。
まさか、いまだに呪いを発生させるような行為を、神が行っているとは思いませんでした。
いえ、「この場所」と言いました。
もしかして命花が呪いを生んでいるのでしょうか?
「リーダー? 何か分かったのか?」
アイオン神の言葉に頷きます。
「今わかった事ですが、『この場所』で『今』呪いが『生まれている』みたいです」
「つまり、今も神国のどこかで、呪いを発生させるような行為を神が行っているという事か?」
アイオン神の言葉に、カルアタ神の顔色が悪くなりました。
かなり衝撃的だったようです。
「それは、分かりません」
私の言葉に、不安そうな表情を見せる2柱。
「どういう意味だ?」
カルアタ神の言葉に、命花を指します。
「のろくろちゃんは、『この場所』と言ったんです。つまり、この場所にあるのは命花だけなので、命花が呪いを生んでいるという事ではないでしょうか?」
のろくろちゃんの言葉を聞いたあと、この空間に少しだけ呪力を流しちゃいました。
バレたら大変なので、こっそりです。
主やロープに、方法を聞いておいてよかったです。
その結果、この空間は完全に独立していました。
つまり、外から呪いが入って来られないんです。
「まさか……命花が?」
カルアタ神は信じられないようです。
「ですがこの場所は完全に独立していますよね」
「あぁ、命の生まれる場所だから、外から影響を受けるわけには……いかない」
カルアタ神は気付きましたね。
そう、外からは影響を受けないのです。
「どうしてそれを知っているんだ?」
アイオン神が、こっそり聞いてきました。
「内緒です」
「ふふふふっ」
アイオン神の笑い声に、私も返します。
「ふふふふっ」
「まぁ、いいか」
さすがアイオン神です。
寛大な心に感謝します。
「ありがとうございます。命花の事を詳しく調べてみます」
「もしかしたら、ここでは誕生したくないのかもな」
アイオン神の言葉に、カルアタ神が唖然とします。
「みずから、ぐちゃ~」
のろくろちゃんの言葉に、ちょっと遠い目をしてしまいます。
もしかして、本当に神国では生まれたくないから、自ら呪いに変化したのですか?
もしそれなら凄いです。
そう言えば、この生まれた呪いはどうなるんでしょう?
呪界は全ての呪いを引き受ける事になっていますが、この子達も来るのでしょうか?
「もしかして呪界に来たいのですか?」
ふわっ。
あれ?
今、風が吹いたような気がしましたが……気のせいだったのでしょうか?
「今、優しい香りがしたな」
アイオン神を見ます。
気のせいではなかったみたいですね。




