68.敵対する魔神たち3。
―ギュア魔神視点―
ドンドンドン。
目の前にあるテーブルを力任せに叩きつける。
ドン。
バキッ。
叩きつけた力に耐えられず割れるテーブル。
今は、その事実すら鬱陶しい。
「忌々しい。なんなんだよ、あの結界は! なぜ消えない!」
窓から見える、巨大な結界を睨み付ける。
どうやったのかは分からないが、結界が張られてから既に20日。
結界は、消えるどころかその力を増しているような気がする。
しかも、結界を攻撃すると反撃される。
「結界は防ぐ物だろう。なぜ攻撃をしてくる!」
ドン。
バキ、バキバキバキ、ドーン。
とうとうテーブルが破壊され、床にテーブルだった物が飛び散る。
その破片を足で踏みつける。
「あ~、イライラする」
ドルハ魔神の配下が、結界に攻撃をした。
その様子をみていた俺の配下から、おかしな報告を受けた。
結界が攻撃を防ぐのは分かる。
だが、その後に反撃したというのだ。
最初は、結界の中から攻撃をされたのだろうと考えた。
だが、その現場を見た配下の魔神は必死に首を横に振る。
そして「結界が、攻撃をしました」と繰り返した。
不審に思いながらも、別の配下である魔神に結界を攻撃するよう指示を出す。
そして、その様子をマギファ魔神に確認してもらう事にした。
結果、配下が報告したように、結界が襲った者に攻撃をしていた。
そして指示を受けた魔神は、帰って来なかった。
コンコンコン。
「どうぞ」
この部屋に来るのは、今ではマギファ魔神のみ。
俺の荒れ狂う魔神力に、他の魔神では耐えられないからだ。
「陣での攻撃を試してみたが、やはり無駄だった」
マギファ魔神の言葉に、ギュッと手を握る。
あの結界にダメージを与えられる方法は無いかと、いろいろ試したが全て無駄に終わった。
最後の陣も、あの結界の前では役に立たなかったなんて。
陣。
それは、魔神力の破壊力を強化するために作られた、紋様や文字で構成された図だ。
あれを使えば、俺の攻撃力を数倍にする事が出来る。
結界に対応する切り札だったが……無駄か。
「残っている魔神達は?」
俺の下で働いていた魔神達が、結界の威力を知ると徐々に離れて行った。
魔神は強い者に、惹かれる。
だから、あの結界を張った者の所に行ったんだろう。
「20柱程かな」
はっ、150柱いたのに、たったの20柱か。
分かってはいる。
それが魔神の性質だ。
逃れられない本能と言ってもいい。
だから、理解はしているのに、許せないという気持ちが強い。
「呪いの世界と、あの結界との関係は分かったのか?」
「それについては全く分からない。ただ、オアジュ魔神とその家族が、拠点を魔界から呪いの世界に完全に変えた事と、ケルベロスの子が呪いの世界で生まれた事は確認できた」
「魔界から、呪いの世界に移り住んだのか?」
一時の事だと思ったが、違ったのか?
だが……世界を換えて生き残れるものなのか?
「オアジュ魔神は、呪いの世界でも生きていられるのか?」
神国と魔界では力が異なるため、少しぐらいなら関われるが住むなど不可能だ。
呪いの世界は、魔界の者が住める世界なのか?
「あぁ、元気みたいだ。今まで全く気にしていなかったが、あの世界はどこか……今までの神国と魔界の常識が通用しない世界のようだ」
あの世界が出来た時に、もっと注意を払っておくべきだったか。
まぁ、今となっては手遅れだな。
「分かった」
「結界と呪いの世界との関わりは分からなかったが、オウ魔神が呪いの世界を統べる王と親しいという噂が流れている」
オウ魔神と呪いの世界を統べる王か。
「あの結界が呪いの世界で作られた物とは、考えられないか?」
「ん~、その可能性が無いとは言わないが、結界からは魔神力と闇の魔力しか感じない。呪いの世界から感じる力とは明らかに異なる力だ。力を魔神力や闇の魔力に自由に変えられるなら、作る事も出来るだろうが、力の種類を自由に変えられるなど、聞いた事もない」
そうだな。
やはりあの結界は、魔界に住む者が作ったと考えた方がいいか。
「ギュア魔神、このままあの結界の中に全ての魔族が集まると、王が自然と決定する可能性がある」
そうだ。
多くの民の支持を集める事で、力が増す。
その対象が1柱なら、それは強力な力となるだろう。
このままだと、全て奪われて終わる。
「やられてたまるか」
だが、どう考えても俺とマギファ魔神。
そして残った魔神達だけでは、何も出来ない。
どうすれば?
「ドルハ魔神と手を組むか」
「えっ?」
俺の言葉に、マギファ魔神が驚いた声を出した。
そうだろうな、今まで敵対していたのだから。
でも今は、そんな事は言っていられない。
どんな手を使っても、結界を張った者を目の前に引きずり出す。
「連絡を取ってくれ。『協力し合いたい』と」
「分かった」
マギファ魔神が部屋から出て行くと、風が入ってきた。
その風に魔神力と闇の魔力を感じたが、違和感を覚え力で払いのけた。
「気持ち悪い」
―ドルハ魔神視点―
まさか今まで敵だったギュア魔神から、連絡が来るとは。
まぁ、それだけあちらも危機感を覚えているんだろう。
「どういたしますか?」
ピーリー魔神の言葉に、肩を竦める。
正直、今までの事があるので嫌だと思ってしまう。
でも、現状を打破するためには必要なのだろう。
「もちろん協力するさ」
あの結界を張った者を見たいからな。
そのためなら、ほんの少し協力してもいいだろう。
「ギュア魔神に『了解した』と伝言を頼む」
「分かりました」
ピーリー魔神が部屋から出て行くと、窓の外を見る。
結界を張った時と同じ、いや、違うな。
以前より、流れている力が強くなっている。
最初は「まさか」と思ったが、ここ数日結界に近付き観察したが、間違いなく力が強くなっていた。
「いったい、どんな化け物があの結界を張ったんだ?」
近付いたから気付いた事がある。
あの結界に流れる力は、揺れも強弱も無い。
おそらく1柱が張り、そしてその者がずっと結界を維持している。
そんなありえないほどの力を持った魔神が、この魔界にいた事に驚きだ。
「なぜ、今まで気付かなかったのか。というか、あれほどの力を持っていた魔神に、今まで気付かなかった事が不思議だ。それにあの力、ここ最近魔界に流れている魔神力と闇の魔力に影響を及ぼしている気がする」
この魔界に影響を及ぼすほどの力を持つ魔神。
……次の魔界王なのだろうか?
「認めたくは、ないんだけどな」
魔神として、それほどの力を持つ者に会ってみたい気持ちが強い。
その反面、今まで隠れていたくせにどうして今、その姿を現したという怒りもある。
最初から、姿を見せてくれていたら、こんな争いなど起きなかったとも。
「いや、違うか。この争いは起こるべくして起こったのだろうな」
ボルチャスリ魔神が治める魔界は、一見安定しているように見えた。
だが、ある程度力を持っていた魔神達は好き勝手していた。
「俺もその1柱だけどな」
彼の統治下では、いつか魔神達の暴走は抑えられないものとなっていただろう。
確かにボルチャスリ魔神の力は強い。
魔族達からの支持もある程度集まっていたからな。
でも、魔神達も徐々に強くなっていたし、ボルチャスリ魔神を支持しない魔族達も生まれてきていた。
ギュア魔神と手を組むことになれば、すぐにでも結界に攻撃をしようと言い出すだろうな。
奴は、深く考える事が苦手だ。
それをフォローするのがマギファ魔神だ。
「んっ? 話し合いなら、ギュア魔神よりマギファ魔神とすべきだったか?」
まぁ、マギファ魔神と話し合おうとしてもギュア魔神が出て来るだろうな。
マギファ魔神は、ギュア魔神に絶対的な忠誠を誓っているから。
「手を組んでも、なんとなく結果は見えているような気がするな」
そういえば、あの結界に近付いてからな~んか……気持ちが落ち着いたよな。
怒りも苛立ちも、ある。
なのに……あれ?
怒りよりも、会いたい気持ちの方が……んっ?
「今日も風が気持ちいいなぁ」




