62.ありえない。
―ゴルア魔神視点―
目の前で、纏う力がガラリと変わったゴーレム達と蜘蛛達に唖然とする。
いや、そんな事は出来ないはずなので、きっと勘違いだ。
「今、力が変わらなかったか?」
「勘違いなのでは?」
「ちがう。絶対に変わった。だって今の彼等からは、魔神力と闇の魔力しか感じない」
マルアキス魔神とカチュラ魔神の会話に、震えてきそうな手をぐっと握る。
やはり勘違いではなかった。
本当に今、目の前の存在は操る力を変えたのだ。
そのありえない事に、少し遠い目をしてしまった。
魔界にいる魔族達を守れると言った呪界王に、ほんの少し不信感を抱いた。
守れると言いながら、魔界に何かするのではないかと。
でもすぐに、その考えを否定した。
もし、魔界に何かするのなら、既に行なっている。
知らない間に、彼の配下が魔界で動き回っていたのだから。
呪界王の言葉で、すぐに彼の配下が呼ばれた。
オウ魔神のところで会った、サブリーダーと呼ばれる者と同じゴーレムらしい。
彼等は、1mほどの大きさの箱を持って来て、呪界王に説明を始めた。
どうやら、その箱を使って魔族達を守ってくれるようだ。
話が終わると、呪界王自ら説明してくれた。
箱が結界を張る道具で、魔界でも十分にその性能を活かせるだろうと。
ただ、その説明に俺は首を傾げた。
呪界王が「魔族達をある場所に集め、その場所を結界で守る」と言ったから。
確かに結界を張れば、魔族達は一時的に守られるかもしれないが、結界の維持は力の消費が激しい。
数日もすれば、力が枯渇し結界は消えてしまうだろう。
力の補充が出来ればいいが、魔族達を守るほどの大きな結界だ。
私の仲間である魔神達が協力しても、補充できる回数は1回。
力を使い切った場合、元に戻るのに時間が掛るため次は無い。
駄目だ。
結界で守るのは無理だ。
だから呪界王に、「力が切れると結界は消えてしまうため無理です」と言った。
ただ、呪界王の気持ちは嬉しいと感じた。
だが呪界王が、「力の補充は、俺の力を籠めた魔石を使うから大丈夫だ」と言い出した。
その言葉に、力の限界を知らないのかと思った。
そしてなぜか悲しくなり怒りが湧いた。
「出来るはずがない!」と叫びそうになった瞬間、オアジュ魔神にギュッと腕を掴まれた。
視線を向けると、苦笑しながら首を横に振っていた。
その意味が分からず困惑していると、呪界王が魔石に力を籠め始めた。
次の瞬間、洞窟に呪界王の力が広がった。
「これが呪界王の力。……凄い力だ」
呪界王が操る圧倒的な力に、目を閉じて体で感じる。
魔神は元来、強い者に惹かれる。
少し前に感じた怒りなど、あっという間に記憶から消えた。
ただ、呪界王が魔石に籠める魔神力と闇の魔力を全身で感じた。
しばらくして、気付いた。
呪界王の操る力が、自分の知っている魔神力や闇の魔力とは全く違う事に。
今まで触れてきた魔神力や闇の魔力は、力に比例して恐怖が増していった。
それなのに、呪界王の操る魔神力と闇の魔力では、恐怖が増えない?
違う、全く恐怖を感じない。
代わりに、温かさと不思議な安心感を覚えた。
「この力は、なんなんだ?」
「これが主の操る魔神力と闇の魔力だ。今までの概念が変わるぞ」
俺のつぶやきに、楽しそうに答えるオアジュ魔神。
そういえば、サブリーダーからも呪界王の力に似たものを感じたな。
「それと、主の力ならきっと結界は維持できるよ。というか、気付いていないのか? 主の仲間達が彼の結界でずっと守られている事に」
呪界王が、魔石に力を籠めるのを眺めていると、オアジュ魔神が俺の肩をポンと叩く。
ハッとして、彼の言った言葉を思い返して、慌てて魔界から一緒だったサブリーダーを見た。
気にしなければ分からないが、確かにサブリーダーの周りには結界が張ってあった。
だから、似たものを感じたのか。
それにしても、調べて分かったがサブリーダーを守る結界……強すぎないか?
「あんな強固な結界が、必要なのか?」
俺の言葉に、オアジュ魔神がクスっと笑う。
「ん~、あれが主の普通だからな」
「えっ?」
あの強固な結界が普通?
オアジュ魔神を信じられない気持ちで見ると、彼は周りを見るように手を動かした。
それに釣られるようにして、周りにいる呪界王の配下を見ていく。
「えっ、いやいや。全員?」
「そう。全員に結界を張っているんだよ。サブリーダーと同じぐらいの結界を。それだけじゃなくて、この世界を守るための結界も張ってるよ」
パッと上を見る。
いや、ここから見えるわけがない。
あまりの事に、馬鹿な行動をしてしまった。
「ありえない」
「そう、ありえない。でも、主の守るという気持ちがありえない力を生み出しているんだよ」
オアジュ魔神が、嬉しそうに呪界王を見る。
その表情に、彼も力に魅せられた1人だと気付く。
「完成」
呪界王の言葉に視線を向けると、魔石が黒い光に包まれていた。
それを傍にいるゴーレムに渡すと、次の魔石を手にする。
「えっ? まだ魔石に力を籠めるのか?」
ゴーレムに渡した魔石に、かなりの量の魔神力と闇の魔力を籠めていた。
それなのに、休憩なしに次?
「待って下さい。続けても、大丈夫なのですか?」
俺の言葉に、不思議そうな表情をする呪界王。
「えっと、何が?」
「その、そんな大量に力を使っても問題ないのか?」
あっ、言葉が。
「大量? それほど大量でもないから大丈夫だ」
はっ?
「それほど大量でもない」と言ったのか?
いや、魔界王でもその量の力を魔石に籠めたら、1日か2日の休憩が必要だぞ?
オアジュ魔神を見ると肩を竦められた。
「だから、主の力ならきっと結界は維持できると言っただろう?」
そう言ってはいたけれど……。
「よくわからないけど、もう少し待っててくれ。すぐに終わらせる」
「あぁ、邪魔をして申し訳ない」
もう、何を言っていいのか分からない。
呪界王が出来ると言ったら、きっと出来るんだろう。
「あれ? あの量の力をどうやって魔石に詰めたんだ?」
呪界王から流れる力の量と、俺が知っている魔石に籠められる量が合わない。
「ギュッと力を濃縮して籠めているんだって。そうしておかないと、魔石を換える頻度が高くなって手間だから、らしいぞ」
オアジュ魔神の言葉に、「ははっ」と笑ってしまう。
なるほど、力を濃縮か。
そんな事が出来るなんて初めて知ったな。
「考えるのを放棄しただろう」
オアジュ魔神の言葉に、苦笑する。
仕方ないじゃないか。
俺の知っている事が、ことごとく壊されるんだから。
「凄い王だな」
「あぁ。ここならボルチャスリ魔神も穏やかに過ごせるよ。主が守る者として認めたから」
そうか。
最期まで俺が守りたかったけど、俺では力不足だからな。
その事に悲しい気持ちもあるが、ホッとした安堵の方が大きい事に気付く。
良かった。
ボルチャスリ魔神は、きっといい最期を迎えられる。
あれから1時間、魔石の準備が終わった。
最終的に魔石の数は、10個になった。
呪界王を見るが、特に疲れた様子はない。
どうやら呪界を守る王は、かなり規格外のようだ。
準備が調ったため、呪界王から配下を紹介された。
サブリーダーと同じゴーレム達と蜘蛛達。
だが、1つ心配事があった。
それは力だ。
紹介された者達からは、神力と光の魔力も感じた。
主が結界で守るのかと思ったが、目の前で彼等の力から神力と光の魔力が消えていった。
まさか彼等も規格外だとは思わなかった。
いや、呪界王があれなのだ、配下も同じなのだろう。




