60.結界の道具。
―セブンティーン視点―
「ぐふふふっ」
俺の口から抑えられず洩れた笑い声に、隣から呆れた雰囲気が漂って来た。
「しょうがないだろう。嬉しいのだから!」
「それはそうだけど、その笑い方は気持ち悪い」
ナインティーンの言葉に、ちょっとだけ反省。
確かに、ちょっと駄目な笑い方だったかもしれない。
でも、仕方ない。
だって、とうとう主から俺達の作った道具が求められたのだ。
「セブンティーン。主が所望した道具は、まだ完成していない」
「分かっている」
確かに、主が求めた「結界を作り維持する道具」は、まだまだ開発途中の道具だ。
結界を張れる範囲は星の半分ほどなのに、魔石1個分の力が必要になってしまうからな。
しかも、結界を維持するのにも大量の力が必要となる。
毎日、主の力を籠めた魔石が5個も必要になるのは、改善が必要だ。
目標は、星を包み込むような結界が張れて、結界の維持に必要な力を最低魔石2個とする事。
今のところ、目標を達成できる目途は立っていないけど。
「まずは、主が何を守るために結界の道具を必要としているのか、確認を取らないとな」
「あっ、そうだな」
主の目的を聞くのを忘れていたな。
でも、使う場所は魔界なんだよな。
「魔界で活動している仲間達を守るためじゃないのか?」
「それなら今の状態でも十分だろう。仲間達を守っている主の結界は、魔神達でも容易には破れないみたいだから」
「あぁ、そうみたいだな。子アリが魔神に見つかって攻撃を受けたけど、かすり傷1つ無かったらしいからな。でも、サブリーダーの『記憶を消す道具が欲しい』にはビックリしたけどな」
少し焦った雰囲気で、道具を作っている工房に飛び込んで来た時は、驚いた。
しかも第一声が「記憶を消す道具はありますか?」だったから唖然としたものだ。
詳しく話を聞けば、子アリを助けるために魔神を捕まえちゃったとか。
ばっちり姿を見られたので、記憶を消したいと言われた。
「それで、記憶を消す道具は作れそうなのか?」
ナインティーンの言葉に、首を横に振る。
「記憶を司る脳は、すぐに壊れるから難しいんだ。魔法で記憶を消そうとすると、狂ってしまうみたいで」
「そうか。それならやっぱりこれか」
そう言って、ナインティーンが取り出したのはハンマー。
「それは駄目!」
サブリーダーに、道具は無いからと「これで」とハンマーを渡したナインティーンには驚いたものだ。
いまだに、その方法を諦めていないとは思わなかった。
ナインティーンは俺より冷静な判断が出来る、頼りになる相棒だ。
なのに、ときどき過激な方法を試したがる。
なぜなんだ?
「大丈夫だ。あの後、いろいろ調べてみた」
ナインティーンの言葉に、嫌な予感を覚える。
最近、脳に付いて調べているのは知っていたが、まさか殴る場所を見つけようとしていたのか?
いや、違うと思いたい。
「何を調べたんだ?」
「どの辺りに、どれくらいの衝撃を与えれば記憶を失うかだ」
「やっぱり」
ため息を吐いて、ナインティーンからハンマーを取り上げる。
「残念。まだあるぞ」
ここは道具を作る工房なので、必要な道具は壁一面に掛かっている。
ハンマーも、沢山ある。
ナインティーンは、その中でも少し大きめのハンマーを持った。
「取るな!」
全く。
「それより、結界の道具に集中するべきだろう」
「そうだな」
ナインティーンが、ハンマーを元の場所に戻すのを見て、ちょっとホッとする。
「で、今ある結界道具はそのまま使えそうなのか?」
「無理だと思う。この世界で使う事を前提に作っているから、魔神力と闇の魔力で動くように改造しないと。あと、その力に耐えられるか調べないと」
ナインティーンの質問に答えると、不思議そうな雰囲気で俺を見た。
「それは問題ないのでは?」
「えっ? どうしてだ?」
使う場所が呪界から魔界に変わるのだから、いろいろと変更が必要だと思うけど。
「元々主の力を使う予定で、結界の道具を作ったんだろう?」
「うん」
主の力は、なんにでも適応してくれるからな。
ここまで、自由になる力は他には無い。
「つまり、現状の道具でも魔神力や闇の魔力に対応できているという事だろう? 主の力に、魔神力と闇の魔力も含まれているんだから」
「あっ、そうか」
ナインティーンの言う通りだ。
主の力には、魔神力と闇の魔力もしっかり入っているんだった。
つまり、現状の道具でも魔神力と闇の魔力だけで動くはずだな。
「それに、主の魔神力と闇の魔力を使うんだから自然と適応してくれるよ。まぁ、本当に動くのか、試す必要はあるだろうけど」
ナインティーンの言葉に頷く。
「そうだな。動かなかったら改良すればいいか」
「うん。そうだ、実験するなら主の魔神力と闇の魔力だけを溜めた魔石が必要だよな。貰ってくる数は6個で良いか?」
「あぁ、結界を張るのに1個。1日結界を維持するのに5個必要だから、最低6個は必要だな」
主が持っている全ての力ではなく、魔神力と闇の魔力の力だけを使った実験。
もしかしたら、もっと力が必要になる可能性がある。
「ナインティーン、10個は貰って来て欲しい」
途中で力が切れて、実験が途中で止まってしまわないようにしないとな。
「分かった。すぐに貰ってくるから」
「ありがとう。いってらっしゃい」
ナインティーンが、工房から出ていく姿を見送る。
さて、今のうちに結界の道具を準備しておくか。
問題が無かったら、明日か明後日にはサブリーダーに渡せるな。
「それにしても魔界で使う事になるなんて、考えもしなかったな」
いったい主は、何を守ろうとしているのか。
もしかして魔界に住んでいる者達だったりして。
魔界には魔神と魔族がいたよな。
魔神達は……無いな。
となると魔族達かな?
バーン。
「貰って来たぞ!」
はっ?
早過ぎないか?
まだ工房を出て1分ほどだぞ?
「どうしたんだ?」
ナインティーンを見ていると、不思議そうに首を傾げられた。
「早すぎるだろう」
どうやったら、この短時間で魔石を持ってこられるんだ?
「あぁ、リーダーが魔神力と闇の魔力を溜めた魔石を持って来てくれていたんだ。必要になるだろうからって」
あっ、リーダーか。
それなら納得。
主のように、ナインティーンが転移魔法を使えるようになったのかと焦った。
ヒールの取得は負けたけど、転移魔法はナインティーンより早く取得したいんだよな。
ずっと負けっぱなしは絶対に嫌だから。
「さてと、魔石を入れ替えて実験を……呪界でするのは駄目じゃないか?」
俺の言葉に、ハッとした表情をしたナインティーン。
「そうだよな。魔神力と闇の魔力だけで張る結界なんだから、呪界で実験をしたら結界内でどんな影響を及ぼすか予想が出来ない」
さて、どうしようか?
「……魔界に、行く?」
言いながら、ナインティーンを窺う。
魔界で実験をするのが最も適した場所だから、行くべきだと思う。
「……行こうか」
ナインティーンも俺をチラッと見てくる。
よしっ。
「「行こう!」」
そうと決まれば、いろいろ持って行かないとな。
まずは、魔界に流れる魔神力と闇の魔力を調べる道具に、星の状態を調べる道具。
あと、魔神と魔族をちょっと調べられないかな。
こっそり眠らせて……それなら道具は――。
「結界の道具を試す実験だけです」
「「ちっ」」
リーダーの姿に、ナインティーンと舌打ちしてしまった。
それにしても、残念。
実験といういいわけ、ではなくて。
行かなければならない理由があるから、いろいろ試せるチャンスだと思ったのに!




