44.力の差。
―魔界にいる親アリ視点―
本当の事を言ったのに、全く信じてくれない。
まぁ、それは仕方ないか。
俺が誰か知らないもんね。
「とりあえず……」
地下道に案内するのは駄目だな。
信用できない者に、こちらの情報を知られる訳にはいかない。
となると……彼女に来てもらおう。
「少しここで待っていて。シルシファリアをこの場所に呼ぶから」
「本当に、シルシファリアは生きているのか?」
「本当だって。今は信じなくてもいいけど、ちょっとここで待っててよ。死のうとしたんだから、あと数分ぐらいは生きていたって問題ないだろう?」
「……そうだな」
隠れているサブリーダーの方を見ると、動く気配がした。
きっとシルシファリアを、呼びに行ってくれたんだろう。
「そういえば……魔界では見かけない姿だな」
「そうだろうね」
魔界には、俺のような姿の生き物はいないからね。
んっ?
なんだろう、ボルナックにジッと見られているんだけど。
「何?」
「いや、その姿を何処かで見たような気がして」
俺の姿を?
ボルナックを見ると、不思議そうな表情をしている。
本当に疑問に思っているみたいだ。
「たぶん、神が見守る世界で見たんじゃないかな?」
主のいる世界ではアビルフールミと呼ばれているけど、神が見守る世界では俺に似た生命体が他の呼び名で存在している。
しかも大小さまざまな大きさだった。
一番小さい大きさだと、数ミリメートルだからビックリだよね。
「つまりお前は神の作った存在か?」
「そう」
神の作った存在ではある。
だけど、今は神の手からは離れている。
「ただ今は、神の物ではないから」
神の指示に従っていると思われるのは、不本意だから。
これだけは、言っておこう。
「違うのか? 神に作られた存在なんだから、神の物だろう?」
「違う。全く違う。そう思われるのは、凄く不愉快だから言わない事! 分かった!?」
「あぁ、分かった」
なんだろう。
ボルナックが少し身を引いた。
んっ?
もしかして無意識に殺気でも送ってしまったかな?
でも、神の物とか……うわ~、やだ。
ありえない。
「あっ、来たみたいだよ」
サブリーダーの気配を感じて、地下牢の隅に視線を向ける。
そこには、サブリーダーとシルシファリアの姿があった。
「……本当に、シルシファリアは生きているんだな」
地下牢に現れた女性に、ボルナックが手を伸ばす。
シルシファリアは、ボルナックに近付く。
でも、あと数歩で触れ合えるのに止まってしまった。
それに首を傾げる。
あと3歩ぐらいの距離なのに、どうして止まるんだろう?
サブリーダーを見ると、首を横に振っている。
「良かった、生きていた」
嬉しそうなボルナックに、シルシファリアが少し戸惑う。
「はい。ここにいる方達に助けて頂きました。ボルナック様は、私を……ドルハ魔神様に私を引き渡したと聞きました」
「はっ?」
シルシファリアの言葉に、目を見開くボルナック。
その様子から、ドルハ魔神が嘘を言ったんだろう。
バチバチッ。
「きゃっ」
「ボルナック! 怒りを抑えろ。シルシファリアが苦しんでいる!」
地下牢に火花が散った瞬間、シルシファリアが地面に倒れる。
ボルナックの殺気に、彼女が耐えられなかったようだ。
すぐにシルシファリアの傍に寄って、彼女に結界を張る。
これでボルナックの力に耐えられるはずだ。
「あぁ、ごめん」
シルシファリアの様子に、ボルナックが慌てて力を抑える。
2人の距離にサブリーダーと俺は首を傾げる。
謝るなら抱きしめたらいいのに、なぜかボルナックは倒れた彼女に近寄らない。
そのため、2人の距離は今も3歩分開いたままだ。
「もしかして近付けないのか?」
俺の言葉に、ボルナックが苦痛な表情を見せる。
まさか当たり?
えっ、好きな人に触れられないの?
「力が、違い過ぎるからですか?」
確かに2人の力の差はかなりある。
でも、そのせいで触れる事も出来ないの?
「そうだ。俺が彼女に触れると、力のせいで彼女が苦しむ事になる」
悲しそうな表情のボルナックとシルシファリア。
まさか、触れる事も出来ないなんて。
魔界の力は不便だな。
「ボルナック魔神は、これからどうするおつもりですか?」
サブリーダーの言葉に、ボルナックは苦笑する。
「ドルハに裏切られていたんだ。奴にはもう協力はしない。でも、これからどうしたらいいんだろうな」
ボルナックがシルシファリアを見る。
きっと一緒に生きたいんだろうな。
でも、力が邪魔をする。
「ボルナック魔神。シルシファリアと魔珠宝を分けてみませんか?」
サブリーダーの言葉に、ボルナックが首を横に振る。
「力の差があり過ぎる。シルシファリアが、死ぬ可能性がある。だから、それは出来ない」
本当に魔界の力は不便だな。
いや、厄介か。
「ボルナック様。私はあなたと魔珠宝を試したいです。一緒に生きたいから」
シルシファリアの言葉に、驚いた表情を見せるボルナック。
そして焦った様子で、首を横に振る。
「駄目だ。魔珠宝の与える苦痛は凄絶だ。死んでしまう」
「それが……ある魔珠宝なら……」
シルシファリアが、サブリーダーを見る。
あぁ、主の作った魔珠宝なら大丈夫かもしれないと思ったんだ。
トスミラとホウシュが、魔珠宝を実際に試して「苦しくない」と言っていたから。
「なんだ?」
ボルナックが不思議そうに、シルシファリアとサブリーダーを見る。
「主の作った魔珠宝なら、大丈夫だと思うのですね」
サブリーダーの言葉に頷くシルシファリア。
「私が最初にお薦めしたので反対はしません。ただ、魔珠宝が絶対に安全な物ではないと分かった上でお使いください」
うっそだ~。
だって主が「絶対に大丈夫」な物を求めたんだから、それは絶対に大丈夫なんだよ。
だって、主はあの世界の「誰もが認める神」なんだから。
まぁその事を、主はまだわかっていないけどね。
主は、力よりももっとすごい物を手に入れているんだ。
その事に早く気付くといいなぁ。
そうしたら、呪国が、呪界として認められるのに。
「構いません。今回の事で、想い合うだけでは駄目だと知りました。だから、私たちに使わせて下さい」
シルシファリアの覚悟を決めた視線を受けて、ボルナックが戸惑う。
「シルシファリア、本気なのか?」
ボルナックがシルシファリアを、ジッと見つめる。
「はい。本気です」
それを正面から受け止めるシルシファリア。
「……分かった。ただ、君達の主の作った魔珠宝という物が、どんな物なのか説明して欲しい。それから判断したい」
ボルナックがサブリーダーを見る。
その視線を受け止めて、サブリーダーが頷く。
「分かりました、説明します」
サブリーダーが主の魔珠宝について話すと、ボルナックが驚愕の表情を見せた。
まぁ、今までの魔珠宝とは全く違うから、仕方ない。
あぁ、悩んでる、悩んでる。
ふふっ、魔珠宝3個目は彼等が使う事になりそうだな。
結果は、分かっているけど楽しみだ。




