50.オルサガス国 デルオウス王
―オルサガス国 デルオウス王視点―
報告書を置いてため息を吐く。
あと1歩が届かない。
そのせいで、オップル総隊長を今回も逃してしまった。
私は、無力だな。
叔父である前オップル総隊長は消す事が出来た。
長男はあと1歩の所で逃がしてしまったが、影響力はかなり減らす事が出来たと思った。
なのにまさか……それまでほとんど表に出ていなかった次男を総隊長に押す勢力がいるとは。
「またですか?」
宰相の言葉に、苦笑する。
「あぁ、まただ」
これで、何人目だろうか?
オップル一族のせいで死んだ者達は。
奴らを追い詰めたと思った瞬間に、別の者がその罪を背負って死んでいく。
何度も、何度もこれの繰り返し。
「私の周辺に、奴らの間諜が潜り込んでいるんだろうな」
また、私の周辺を調べる事になるのか。
これも何度目だろうか?
一時期は、宰相すら信じる事が出来なくなっていた。
まぁ、今でも本当の意味では信じ切れていないのだが。
「兄上。今、いいですか?」
扉の叩く音と共に聞こえて来た幼い声。
たった1人、無条件で私が信じられる者。
「入っていいぞ」
扉を開けて入ってきたのは、弟のデルフォス。
少し前に、前オップル総隊長に乗せられ少し暴走したが、教師達から「問題ない」と報告が上がって来た。
デルフォスは、あの経験をしっかり糧にしたようだ。
弟を見ると笑みが浮かぶ。
本当に良かった。
他の兄弟たちのように、病気で死ぬ事にならず安堵する。
「どうした?」
「えっと……」
言葉を濁すデルフォスに、宰相と共に首を傾げる。
何かあったのだろうか?
そう言えば、教師達からここ数週間何かを考えこんでいると報告が上がってきていたな。
オップル一族の事で、デルフォスの事を後回しにしてしまったが、何か問題を抱えているのだろうか?
「兄上はその……ハーフと呼ばれているエルフの事を嫌っていますか?」
ん?
ハーフ?
「まさか、嫌う訳がないだろう? 彼らもこの国の大切な民だ」
「本当に? 彼が言うには、『ハーフの家族は、ある場所に閉じ込められて自由に他の村や町に行く事が出来ない』って。だから『この国の王様はハーフが嫌いなのか?』って、聞かれて。彼が嘘を吐くはずないから。だから兄上はハーフが嫌いなのかなって……。閉じ込めてないよね?」
不安そうに俺を見るデルフォスに、真剣な面持ちで頷く。
「俺はそんな指示を出した事は無い」
安心した表情を見せるデルフォスに、気持ちを落ち着かせる。
それにしても、どういう事だ?
確かにエルフと他の種の血を引くエルフ達が、この国では少し肩身の狭い思いをしているのは知っている。
それを改善させるために、色々な法律を作って来た。
今では、少しずつ差別は無くなってきていると聞いているのだが……閉じ込められている?
「宰相、何か知っているか?」
「いえ、その問題については信頼している者に任せています。彼の周辺にも目を配っていますし」
宰相はその人物をかなり信用しているようだ。
「デル。その事は誰に聞いたんだ?」
彼とは、だれの事だ?
デルフォスの周辺にも目を光らせているが、もしかしたらまた誰かがデルフォスを操ろうとしているのかもしれない。
「えっとそれは……」
誰にも言うなと言われているのか?
やはり、誰かがデルフォスに接触をしたようだ。
誰だ?
「アビルフールミです」
……ん?
今、何か不穏な言葉が聞こえた気がする。
いや、それは無いな。
……えっと、まさかな?
「デル。悪いが、もう一度言ってくれないか?」
「だからあの……このくらいの大きさのアビルフールミです」
デルフォスは両手で20㎝ぐらいの空間を作って、不穏な言葉を言った。
「アビルフールミ」と。
「「…………」」
宰相が俺を見た事に気付いたが、反応が返せない。
少し待ってくれ。
今の衝撃を何とか、落ち着かせるまで。
「あの、兄上?」
「あぁ。大丈夫だ」
不安そうなデルフォスに、なんとか笑みを見せる。
少し引きつっている事が分かるが、今は許してもらおう。
「アビルフールミか」
まさかの存在に、正直に言えばどうしていいのか分からない。
ただ、森の神の仲間であるアビルフールミが嘘を言う事は無いだろう。
「宰相」
「はい」
「今すぐ、内密に……いや、関係者を集めてくれ」
「えっ! あっ、はい」
険しい表情で執務室を出ていく宰相。
「あの、兄上。俺はまた何か間違ったのでしょうか?」
「いや、そうではない。疑問に思った事を俺に相談してくれた事は正しい行いだ。ありがとう。そのお陰で嘘を1つ見つける事が出来た」
1つと言ったが、おそらくかなりの人数が関わった隠蔽だろうな。
いつものように、内密に調べるなんて事はしない。
今回は、アビルフールミと言う最も信頼できる目撃者がいるからな。
「デル、お願いがあるんだが」
まぁ、アビルフールミが協力してくれなければ失敗に終わるだろうが。
「うん。俺に出来る事なら何でも言って!」
嬉しそうに俺を見るデルフォスに笑みが浮かぶ。
「ハーフの事を教えてくれたアビルフールミに、会えるだろうか?」
俺の言葉に、驚いた表情を見せるデルフォス。
そして、おもむろに窓の方へ視線を向けた。
つられてそちらに視線を向け、目を見開いた。
「あそこに」
「……そう、みたいだな」
デルフォスは、窓に向かって手を振ると前脚をあげるアビルフールミ。
どうやら、弟と目の前にいるアビルフールミの間には絆のような物があるらしい。
「いつの間に仲良くなったんだ?」
「前に、森の奥の洞窟で呪われた剣が見つかったでしょ?」
「あぁ、あったな」
オップル一族を追い詰められるかと思ったが、前オップル総隊長と長く仕えていた貴族の2人が死んで終わったな。
そう言えばあの事件では、数名のエルフが行方不明になっていた。
「洞窟が気になったから、落ち着いてから見に行ったんだ」
「そうなのか?」
おかしいな。
王族の行動は全て記録されるはずなのに、デルフォスが洞窟に行ったという記録を見た事が無い。
オップル一族に狙われているから、1日に1回は必ず記録を確認しているのに。
後で確認しないとな。
「うん。その時に、アビルフールミに声を掛けられたんだ」
「そうだったのか」
「うん。『胡散臭いのが一緒にいるけど、大丈夫か』って心配してくれたんだ」
「ん? 胡散臭い?」
「そう。周りを見てもそんな人はいなかったから、大丈夫と答えたんだけど『なんだか心配だな』って、えっと……俺の部屋まで送ってくれたんだ。そう言えば、あの後に護衛騎士が消えたって騒動があったっけ」
護衛の騎士がいなくなった?
そういえば、デルフォスに付けていた2名の護衛が、急に消えたと報告があったな。
急遽、俺に付いている護衛を回した事がある。
もしかして、アビルフールミが言った「胡散臭い」と言ったのは、護衛騎士の事だったのか?
窓にいるアビルフールミを見る。
もしかして、デルフォスを守ってくれたんだろうか?
「兄上?」
「どうした?」
「アビちゃんを中に入れてもいい?」
「アビちゃん?」
まさか、アビルフールミの事か?
「うん」
デルフォスの視線の先は、やはりアビルフールミ。
まさか、アビちゃんと呼んでいるとは。
「あぁ、開けてあげなさい」
さすがに森の神の仲間を、座って出迎えるわけには行かない。
デルフォスが窓を開けているのを、立ち上がって見つめる。
やばい、ドキドキしてきた。
「アビちゃん、入っていいよ。兄上が会いたいんだって。それとね、兄上はハーフのエルフの事を嫌ってなかったよ」
「デルちゃん、ありがとう。そうなんだ。じゃあ、あの場所はなんなんだろう」
まさかのアビちゃんにデルちゃん呼びか。
ははっ。
マジか。
本日より、「異世界に落とされた」の更新を再開いたします。
2022年も、どうぞよろしくお願いいたします。
ほのぼのる500




