25.エントール国教師 ワリアン
-エントール国 教師 ワリアン視点-
「うわぁぁぁ」
なんだ?
どこだ?
「あっ、ここは……生きてるのか?」
息を整え自らの手足を見る。
どこにも怪我など無い。
いや、怪我をするような事はしていない。
なぜ、こんな事を思ったんだ?
そういえば、俺は昨日ベッドに入った記憶が無いんだが。
「あれ? 昨日……あぁぁぁ」
昨日の夜、何を見たのか思い出し真っ青になる。
「そうだ。昨日、歓迎会があって……いや、あれは本当に歓迎会だったのか? もしかして力を見せつけられたのか?」
そうかもしれない。
いや、そうなんだろう。
「だが、俺の目的はバレていないはずだ。そう、主様にバレるはずがない」
はぁ、しかしまさか神や魔神が訪れるとは、考えもしなかった。
……不快な思いをさせる事が目的だが、ばっさり切られたりしないよな?
それに、
「壊れてしまったんだよな」
極秘で連絡を取るようにと持たされた、連絡用魔道具。
起動させた瞬間に、パチンという音と共に動かなくなった。
簡単な魔道具の修理は出来るので、すぐに直そうと思ったのだが、なぜか直らない。
不思議に思っていたら、原因がまさか魔力の濃さだなんて。
この場所の魔力が、他の場所の魔力より数十倍濃いなんて知る由もない。
いや、知っていたとしても濃い魔力に耐える魔道具なんて、エントール国には無いだろう。
「騎士達の魔道具は、修理してもらったんだろうか?」
直らない原因が分かったのは、騎士の奴らが騎士団や家族と連絡を取るために持って来ていた魔道具が壊れたと、ゴーレムに相談しているのを聞いていたからだ。
その時、ゴーレムが「魔力が濃いので耐えられなかったのでしょう」と言っていたのだ。
「まさか、ゴーレムが修理をすると言うとは思わなかったがな」
どうしようかな?
俺の魔道具も修理して欲しい。
でも、連絡用魔道具を持ってきた理由を聞かれたら、どう答えるべきか。
家族との連絡は、騎士達が持ってきた魔道具を使うようにと言われている。
だから、これの存在自体が危険なのだ。
ガサッ。
なんだ?
パッと立ちあがり、音がした方へ視線を向ける。
綺麗な壁があるだけで、誰もいない。
気のせいだったのか?
「はぁ。この場所では落ち着けない。と言っても、森に行こうとするとゴーレムに追い掛け回されるし」
だいたい、なんであんなにゴーレムがいるんだよ!
恐ろしい。
あれが……襲ってきたら?
いやいや、考えない、考えない。
「まぁ、子供達は素直そうだったからな。あれなら簡単に手懐けられるだろう」
ん?
廊下が少し騒がしくなってきたな、起きる時間かもしれない。
そういえば、今日から勉強が開始されるんだったかな?
……あれ?
どうだったかな?
酒と恐怖で記憶が……。
後で他の教師に聞いておこう。
コンコン。
「おはようございます。大丈夫ですか?」
誰の声だ?
騎士達の声ではないような気がするな。
「おはようございます。心配していただきありがとうございます。大丈夫です」
首を傾げながら、部屋の扉を開ける。
目の前には誰もいない。
あれ?
「それは良かったです。主が心配していたので」
……「主」呼び?
俺達は「主様」だ。
つまり、そっと視線を下に向ける。
「ひっ……ありがとうございます。本当に大丈夫です」
あげた悲鳴を誤魔化すために、すぐに笑みを見せてお礼を言う。
なんでここにいるんだ?
なんでだ?
いや、主様が心配していると言っていた。
だから、ここにいるんだろう。
それ以外の意味は無いはずだ。
「そうですか。下に朝食を用意しておきましたので、どうぞ。では、失礼いたします」
「は、はい。ありがとうございます」
ちょうしょく?
……あぁ、朝食か。
そうか、食事か。
必要だな。
うん。
笑って部屋の扉を閉め、大きく息を吐く。
なぜかゴーレムを見ると、全てを知られているような気がしてしまう。
そんな事あるわけがないのに。
「そうだ、朝食」
ずっと部屋に籠っているわけにはいかない。
怪しまれるからな。
ん?
あっ、服が昨日のままだ。
着替えないとな。
その前にシャワーを浴びよう。
「凄い設備だよな」
服を脱ぎ、シャワー室に入る。
蛇口を上げるとお湯が勢いよく出るのだが、毎回感動してしまう。
エントール国の王都にある、高級宿泊施設でもこんな物は存在しない。
確かにシャワーはあるが、お湯が出るまでに時間がかかるし、お湯の出る勢いももっと弱い。
さすが主様が住む場所にある魔道具だよな。
「でも、これって何の素材なんだろうな」
シャワーヘッドを見るが、素材が分からない。
魔道具に使われる素材で多いのは鉄だ。
俺は素材について詳しくないが、安価で加工がしやすいと聞いた。
今、俺の手の中にある物は、鉄ではない。
軽すぎるのだ。
「こんな綺麗な曲線を出せるという事は、加工が簡単な素材のはずなんだが」
綺麗な銀色で丸い形状。
思いつく素材が1つもないんだよな。
この場所だけで取れる素材があるんだろうか?
持ち出して売ったら、金にならないかな?
「そろそろ出るか」
主様はたぶん大丈夫なんだが、騎士達がどうも怪しい気がしてしょうがないんだよな。
元々、同行する騎士達は4人と聞いていたのに、2人増えて6人もいるし。
しかも、俺達の護衛だという。
前に聞いた時は、主様と親しくなる目的で、交流があるダダビスとキミール。
それ以外は、他の騎士団から副団長が参加予定だったはずなんだ。
まぁ、これはオルトル男爵が掴んだ情報だから、間違っていた可能性もあるんだが。
だが、急な変更があったのは知っている。
「護衛か」
まぁ、この場所に来るなら護衛は必要だよな。
いてくれるだけで、ちょっと安心できるからな。
騎士達は気になるが、今のところおかしな行動は無い。
やっぱり気のせいなのかな?
「もう少し関わってみて、様子を見るか」
体を拭いて服を着る。
気を引き締めて、部屋の扉を開ける。
今日から俺は、子供達のために頑張る教師だ。
よしっ。
…………
壁の隅にいた孫蜘蛛がもぞりと動く。
危なかった。
もう少しで見つかってしまうかとドキドキした。
まさか、足を滑らせてしまうなんて。
僕の体はまだ小さいから、足の力もちょっと弱いんだよな。
気をつけよう。
それにしても、
「バレるって何がだ? それと歓迎会は気に入らなかったのだろうか?」
わざわざ、主が許可を出してくれたのに!
まぁ、俺たちは楽しかったけど。
「そういえば、壊れたと言っていたな」
テーブルの上に視線を向ける。
なんの道具なのかは分からないが、直してほしそうに見えた。
ゴーレム達にお願いすればいいのに、なぜしないんだ?
お願いできない理由でもあるのだろうか?
……なんか、怪しい。
「主が見張れと言ったのは、怪しいからなんだな」
他の仲間達にも、しっかり伝えておかないとな。
それより、気になる事を言っていたな。
「子供達を手懐けるとか……あの子達を手懐ける?」
それは絶対に無理だと思うぞ。
だって、彼らの師匠はバッチュと言うゴーレムだ。
あのゴーレム、子供達に何かしようものなら、たぶん切れる。
絶対に、間違いなくブチ切れる。
ブルリ。
考えただけでも、怖ろしい。
巻き込まれないようにしなければ。
これも、仲間達にしっかり伝えないと駄目だな。
「うん、やっぱり彼、えっと名前は……ワリカンだったかな? うん、ワリカンで合ってるはずだ。そして彼には見張りが必要だ。周囲に被害が出る可能性がある!」
こうしてはいられない。
とりあえず、次の見張り役はもういるし、俺は報告をしに行こう。
えっと、まずはゴーレムのリーダーに報告して、その後に仲間達に知らせよう。
「ワリカンは危険だ!」




