06.移住希望
説教を受けているアイオン神を見ながらお茶の続きを楽しむ。
時々縋るような視線を感じるが、もちろん無視。
あぁなった一つ目を止める事は不可能。
頑張れ、あと……1時間ぐらいで終わるはずだ。
たぶん。
「これ、うまいな」
あんパンを食べるオアジュ魔神を見る。
気に入ったのか、口元が緩んでいる。
そう言えば、甘めの果物ジャムを挟んだパンも気に入っていたな。
「オアジュ魔神は、甘党なんだな」
「いや、違うが」
えっ、違うのか?
「もう1個、いいか?」
一つ目が俺を見るので頷くと、オアジュ魔神の皿にあんパンを1個載せた。
「ありがとう」
お礼を言ってあんパンに齧り付くオアジュ魔神。
あんパンを持っていないほうの手には、蜂蜜たっぷりの果実水。
絶対に甘党だよな。
「あっ、今日は主に願いがあるんだった」
願い?
「あんパンがうますぎて忘れるところだった。ここに来ると食事がうまい」
「魔界の食事は不味いのか?」
「不味くはない、ただうまくもない。そもそも、同じ物をずっと食べてるからな」
このずっとって、いつからのずっとだろうか?
俺の感覚だと数年だけど、魔神も長生きだよな。
……数百年単位か?
「ずっととは、いつから?」
「生まれてからずっとだ」
もっとひどかった。
「オアジュ魔神は、どれくらい生きているんだ?」
「どれくらい……もう数えるのも面倒になってから久しいからな……4000? いや、もっとか?」
つまり4000年ぐらい、同じ物を食べ続けているという事だよな。
というか、同じ物って……嫌な予感がするんだが。
「同じ物ってどういう意味だ?」
「そのままの意味だが?」
オアジュ魔神が、不思議そうに俺を見る。
マジか?
本当に?
「まさかとは思うが、朝、昼、晩。4000年間ずっと同じ物を食べ続けているのか?」
「そうだ。さっきからそう言っているんだが……」
オアジュ魔神の言葉に、ため息が出る。
よく我慢できるな。
ある意味、凄いわ。
「うまい不味い以前に、飽きているんじゃないのか?」
「あぁ、それはあるかもしれないな。食事を気にした事は無いから」
魔界って、どいういう世界なんだ?
「料理の種類を増やそうとは、思わなかったのか?」
俺の言葉に不思議そうな表情をするオアジュ魔神。
何もおかしな事は聞いてないぞ。
「考えた事も無かったな。魔界では、うまい物を食べたいと考えた事も無いから」
それは……なんだか寂しいところだな。
「魔界は、どこか殺伐としている場所なんだ。何もないのに苛立ってしまったり、感情が荒ぶるというか……。だから食事なんて、体を維持できればそれでいいという考えだ。この世界に来ると、不思議な気持ちが湧き起こる。それが嫌じゃないから面白い」
そういえば、闇の魔力も魔神力も「負の感情」を起こさせやすかったな。
この2つの力が充満している世界では、食事の事などどうでもいいという事なんだろうか?
そんな世界は嫌だな。
「あのだな。今日はその、願いがあってだな……」
そう言えば、さっき「願いがあった」と言っていたな。
オアジュ魔神を見ると、少し迷っている表情をしている。
神を馬鹿にして怒り狂っていたオアジュ魔神とは、全く別人だよな。
魔界の環境が、イメージにある魔神を作るという事か。
「私の家族をこの世界に連れてきたいんだが、いいだろうか?」
私の家族?
オアジュ魔神の家族をこの世界に住まわせたいという事か?
それは別に構わないが……いや、安易に頷いたら駄目だな。
力がこれ以上増えてしまうと、この世界に掛かる負担が多くなる。
それに、核の周りにある呪いの浄化は一向に進んでいない。
なぜか地震が止まってしまって、壁のヒビが出来なくなっているからな。
あの呪いがいつ、この世界に影響を及ぼすのか分からない状態で、許可を出すのは無責任だ。
「こっちの世界に来る以上、ここでのルールに従わせるし、問題が起さないよう話をする。それに、ちゃんと仕事をさせるつもりだ。あと――」
「待った」
なんだか随分と必死だけど、何かあるのか?
「オアジュ魔神にはまだ話していないが、この世界は問題を抱えている」
俺の言葉に首を傾げるオアジュ魔神。
「1つは、この世界に力の強い者が集まり過ぎているため、許容量をオーバーしているんだ。今回、世界が広がったから少し猶予が伸びたが、解決できないとこの世界は崩壊する。そして、この世界を支える核。その周辺にある魔力が呪いによって濁っている」
「えっ、呪い? 濁って?」
オアジュ魔神がビックリした表情をする。
魔界でも、核の周辺の魔力は澄んでいるのが当たり前なのかな?
「そう。だからこの世界では起こるはずの無い地震が起こっている。最近は少し静かだけど、問題が解決したわけではない。あの呪いがこの世界にどのような影響を及ぼすのか、まだ一切分かっていない」
溢れてきた呪いは浄化すればいいが、それで解決とはいかない。
なぜ呪いが発生するのか、それを調べて解決しない事には安全にはならないだろう。
ロープや飛びトカゲ達、アイオン神に調べてもらっていはいるが、今のところ呪いに関する情報は無い。
「深刻な問題を、抱えているのだな」
やっぱり、そう思うよな。
そもそもどっちの問題も、この世界を破壊する可能性がある問題だからな。
「だから、この世界に家族を呼ぶのは少し考えた方がいいと思う」
オアジュ魔神の眉間に深い皺が寄る。
そこまで考えこむ事かな?
不安定な世界にくるより、住み慣れた魔界の方がいいと思うが。
それとも、どうしてもここに来なければならない理由でもあるのか?
「魔界は先ほども言ったように殺伐としているんだ」
「あぁ、聞いた」
それが家族の移動を、希望する理由なのか?
でも、今まで住んでいたんだからそれなりに対処は出来ているはずだよな?
「夫婦はそれほどでもないが、兄弟の関係はとても悪い。弱い兄弟は、殺される」
「……マジ?」
今、殺されると言ったよな?
えっ、弱いというだけで死ぬのか?
「俺の兄妹は170人以上いたようだが、今は24人だ。全員殺された」
兄妹が170人以上って、凄いな。
しかも、24人しか生き延びられなかった?
正直、ビビるわ。
「俺には子供が54人いたが、今は5人しかいない」
つまり49人は殺されたという事か。
どんな世界なんだよ。
殺伐としているという言葉で片付けて良い問題じゃないだろう。
「生き残っている子供達を守りたい」
「まぁ、そう考えるのは当たり前だな」
「残念ながら、魔界では当たり前じゃないんだ」
「えっ? それはどういう意味だ?」
「魔界なら、弱者は死んでもしょうがないと思われている。俺も、自分の子供が他人や兄弟姉妹に殺されても、弱いからだと思っていた」
怖っ。
闇の魔力と魔神力の「負の感情」が充満している世界だけの事はあるわ。
怖すぎる。
「今は、それが間違いだと分かっている。主が子供達を大切にしているのを見て最初は驚いたが、今は羨ましいんだ。あの関係が」
オアジュ魔神は本当に変わったんだな。
ちょっと驚きだ。
それにしても、魔界は本当にやばい世界だな。
「魔界にいると、子供たちは危険にさらされ続けるし前の俺のようだ。何とかしたいんだ。駄目だろうか?」
そう言われると、「いいよ」と答えたいが、俺にも守る者が増えたからな。
どうするべきか。
……まぁ、殺されるかもしれないと聞いて、無理とも言えないんだが……。
「家族と言ったな? 子供達以外に誰を連れて来る予定なんだ?」
「妻だ」
あぁ、そうか。
子供がいるんだから妻がいるよな。
「妻と子供5人? 全員で6人か?」
「あぁ、俺の妻は1人だから。6人だ」
俺の妻は1人?
だったら他の人は……いや、今は気にする事じゃないな。
えっと、6人ぐらいなら何とかなる気がするが……。
「とりあえず、お試しで5日間ぐらいここで過ごしてみたらどうだ?」
オアジュ魔神が良くても、奥さんや子供達が嫌がるかもしれないからな。
ここで生活している間に、飛びトカゲやふわふわ達に意見を聞こう。




