05.お揃いの服?
「おはよう」
「「「「「おはよう」」」」」
子供達の元気のいい声に、笑みが浮かぶのが分かる。
それにしても、今日はどうしたんだ?
子供達がお揃いの服を着ているんだけど……。
あっ、これ制服だ。
俺は中学、高校と学ランだったから馴染みが無いが、ブレザーだな。
子供達全員を見渡す。
ネクタイを締めて、どこか澄ました表情をした子供達に小さく笑ってしまう。
それにしても、まさかこの世界でネクタイを見るとは、不思議な感じだな。
「主、どうかな?」
月が俺の前に来ると、1回転してスカートをちょっと持ち上げ嬉しそうに笑う。
一緒に来た桜と紅葉も、ちょっと恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑っている。
「3人ともすごく似合ってて可愛いよ。雷達もかっこいいな」
月たち3人の頭を順番に撫でると、3人はこぼれるような笑顔を見せる。
「ふふっ。三つ目が作ってくれたの。勉強する時の格好なんだって」
月の言葉に首を傾げる。
勉強する時?
……あっ!
今日は何日だ?
棚に置いてある、自作のカレンダ―を見る。
「今日は、八星の12日か。あれ? 確か教師が来るのは八星の18日だったよな。……6日後!」
しまった!
一つ目達に、用意する部屋の事があるから教師の性別を知りたいと言われていたんだった。
すっかり忘れてたぁ。
今日は予定を変更して、エントール国へ行こう。
ダダビスは騎士だから……同じ格好をしている者を見かけたら、居場所を聞こう。
下手に動き回るより、聞く方がいいだろう。
初めての場所だし。
「主! ご飯食べよう」
翼が情けない表情でパンを見つめている。
きっと朝から特訓をして、お腹が空いているのだろう。
「先に食べてもいいぞ」とは言っているが、予定が詰まってない限りはこうやって待ってるんだよな。
「待たせて、ごめん。食べようか」
いつもの場所に座ると、皆が手を合わせる。
「いただきます」
「「「「「いただきます」」」」」
一斉にパンのカゴに手を伸ばす子供達。
それぞれお気に入りのパンがあるらしく、それを手にするまではちょっと表情が怖い。
一つ目達の事だから、きっと全員が希望のパンを手にできるようにしてくれていると思うのだが……。
そして相変わらず、俺の前にあるカゴには誰も手を付けないんだよな。
まぁ、一つ目達も分かっているから、1人分しか入ってないけど。
カゴから、少し横に広がった丸いパンを出す。
あっ、思っていたより少し重い。
これは中に甘いジャムか?
それとも、野菜や肉を入れた総菜パンか?
一口、パンにかぶりつく。
「えっ!」
口に広がる味は、あんこ?
慌てて、飲み込みパンの中身を確認する。
「わおっ」
小豆色をイメージしていたが、パンの間には鮮やかなオレンジ色。
前の世界のあんことはかなり違うため、ちょっと驚いてしまった。
もう一口食べる。
味は間違いなくあんこだ。
まさか、あんパンが食べられるとは……ちょっと感動だな。
それにしても、一つ目達には味覚が無いのに、よくあんパンが作れたよな。
相変わらず、不思議な存在だ。
「主、おいしいですか?」
ん?
少し視線を下げて隣を見ると、一つ目のリーダーが不安そうにこちらを見ていた。
表情は変わっていないのに、そう感じるから不思議だよな。
「凄くおいしいよ。この味をもう一度食べられるとは思っていなかったから嬉しい。ありがとう」
「よかったです。おかわりが、いりますか?」
そうだな。
久しぶりに食べたから、もう1つ欲しいかな。
「あぁ、まだあるのか?」
子供達を見る。
太陽、翼、月、紅葉は気に入ったようで、2個目を食べている。
というか、太陽は3個目を一つ目にお願いしているようだ。
逆に雷は苦手なのか、一口食べてから首を横に振って翼に残りをお願いしていた。
風太と桜は、1個食べたら満足したようで他のパンを食べている。
「大丈夫です。十分ありますから」
「そうか。だったらおかわりを頼む」
「はい、すぐにお持ちします」
一つ目のリーダーがあんパンを取りに行くのを見送ると、パン以外の朝食を食べる。
今日は、サラダにちょっと厚めに切った燻製ベーコンか。
「あっ、うまっ」
サラダに掛かっているドレッシングがまた進化したようだ。
うま過ぎる。
「どうぞ」
一つ目が木の皿にあんパンを載せて持ってきてくれた。
「ありがとう」
他の料理を食べきってから、あんパンに手を伸ばす。
一口食べると、優しい味にほっこりする。
本当に懐かしいなぁ。
子供達全員が食べ終わるのを待ちながら、お茶を楽しむ。
ふと、ウッドデッキを見てため息を吐いた。
視線の先には、オアジュ魔神とアイオン神。
タイミング悪く、庭で鉢合わせしてしまったらしい。
何を言い合っているのかは知りたくもないが、お互いに罵りあっているんだろう。
「今日も元気だね」
桜の言葉に苦笑する。
一応、魔神と神で偉いんだが……。
2人を見る。
貫禄も威厳もどこかに置いてきたらしい。
昨日、テフォルテが「オアジュ魔神は、新しく出来た大地を命を育める場所に整えている」と、話してくれた。
なんでも、出来たばかりの大地は魔力の流れがかなり悪く、命が生まれてもすぐに死んでしまうらしい。
それを、命が育める場所になるよう魔力の流れを整えるのが、神や魔神の役目だそうだ。
テフォルテ曰く、「今日か、明日には整え終わる。こんなに早く大地が落ち着くのはすごい」という事らしい。
バーン。
「はぁ……」
ウッドデッキとリビングを繋ぐ引き戸を勢いよく開けたアイオン神に、ため息が出る。
アイオン神の後ろにいるオアジュ魔神は、彼女の行動に唖然とした表情を見せた。
どうやら、この行動を初めて見たらしい。
そう言えば、鉢合わせしないようにオアジュ魔神がかなり気を使っていたな。
彼は最初の頃と、かなり性格が変わった。
なんでも、この世界に来ると、気持ちが落ち着くらしい。
「前にあれをして、アイオン神は一つ目に2時間追い掛け回されたのに……」
ウサの言葉にクウヒが、一つ目に視線を向ける。
そしてすぐに視線を逸らした。
うん、正解。
なぜか一つ目達の後ろに鬼が見える。
それになんで、ただのトレーが武器に見えるんだ?
不思議だ。
「翔!」
アイオン神がリビングに1歩足を入れようとするが、何かに気付いて固まった。
もう少し早く気付いてほしかったよ。
オアジュ魔神も、アイオン神が見た方向を見て、彼女からそっと離れた。
「あっ、いや……今日は壊してないし」
確かに、以前のように扉が傾いたりはしていない。
でも、「扉の開閉は静かにします」とみんなの前で宣言したよな?
させられたとも言うが。
「ふふっ。ふふふふふふふふっ」
こわっ。
えっ、一つ目の怖さがレベルアップしてないか?
あ~、オアジュ魔神の顔色が一気に悪くなったな。
彼は関係ないと思うのだが。
「えっと、今日は用事が……さよ――」
ガシッ。
「「「ふふっ。ふふふふふふふふっ」」」
一つ目が3体に増えた!
あれは、怖い。
子供達は大丈夫か?
……なんで、そんな楽しそうなんだ?
想像と違った子供たちの表情に、びっくりしてクウヒとウサを見る。
光はちょっと「仕方ないな」という表情をしている。
「主! あれがバッチュが言っていた、物理攻撃の前に行う、見えない攻撃ですね!」
太陽の言葉に、ヒーローごっこの悪役に嵌っているバッチュを探す。
一体、何を教えたんだ?
リビングを見渡すと、子供達から少し離れた場所に黒いスカーフを首に巻いたバッチュを見つけた。
バッチュは太陽と視線が合うと、親指を立てた。
その様子にため息が出る。
見えない攻撃か……見事にアイオン神はやられているな。
まぁ、ちょっと自業自得なところがあるから、あれは仕方ない。
それより、攻撃している一つ目達を、期待を込めた目で見る子供たちの将来が心配だ。




