98.必要ない!
親玉さんの影から完全に出ると、庭を見渡す。
仲間達の戸惑った様子から、彼らも誰の声だったのか判断できなかったようだ。
「親玉さん、あの声に聞き覚えはあるか?」
「無いと思う。それと、あの声には何らかの力が混ざり込んでいた」
何らかの力?
あぁ、だから声と同時に火花が散ったのか。
「何らかの力って、光か闇の魔力という事か?」
「いや、どちらかの魔力であれば、絶対に気付ける。あの力は、私の知っている力では無かった」
親玉さんが知らない力?
そうなると神力も除外だな。
闇や光の魔力では無くて、神力でもないととなると後は……。
「あれ?」
何となく視線をオアジュ魔神に向けると、彼の正面に立っている光が目に入った。
「光? なぜ、あんな所に?」
なぜ光がオアジュ魔神の前にいるのかは分からないが、危険だ。
彼は何をしでかすか分からない。
急いで光に移動するように声を掛けようとした瞬間、光の周りに力の揺れを感じた。
「いい加減にしてくれませんか?」
不思議に思い光を見つめていると、光の口が動いた。
そして、先ほどと似た声が耳に届いた。
「えっ!」
光から聞こえた声に、驚愕する。
コアやふわふわ、チャイやアイも驚いた表情で光を凝視している。
「言わせておけば、好き勝手ピーピーと。煩いんですよ」
ピーピーはどうなんだろう。
いや、そうじゃなくて。
「そこにいる神が言いましたよね。この世界には神は関わっていないと。なのに調べもせずに攻撃するなんて」
光を見ていると、彼が不思議な力を纏っている事に気付く。
何だろう。
闇の魔力でも、光の魔力でもない。
神力とも違うし……感じた事がない力だ。
これが、親玉さんが言っていた『何らかの力』なんだろう。
でも、この力……オアジュ魔神の力に似てないか?
「いい歳した大人が、人の話も聞かずに馬鹿の一つ覚えのように自分だけが正しいとほざいて、ガキですか?」
光の話す内容や態度に少し驚いて、そして嬉しくなって笑みが浮かぶ。
これまで光の態度には、いつも遠慮があった。
それがずっと気になっていたのだ。
もっと甘えて欲しい。
もっと我儘を言って欲しいと。
今のは我儘とは違うが、はっきりとモノを言う光を見ているとやはり嬉しくなってしまう。
これからが楽しみだ。
「な、なんだと! この世界は神力で動いているだろうが!」
「神力とそれ以外の力を見分ける事も出来ないんですか? いったい、今まで何を見て何を学んできたんです? 主の素晴らしい力と神力の区別も付けられないなんて。愚かの極みですね」
俺の力の前に、何かおかしな物がついたよね。
それ、要らないから。
ん?
コア達も頷くな!
「違う力?」
「本当に区別がついていないんですね。はっ、まさかその程度の力でこの世界でデカい顔をするつもりだったんですか?」
その程度って、俺の結界が2つも破壊されたんだが……。
ん~、もっと力を強化しないと駄目かな。
でも、世界に負担が……あっ、この世界は完成したんだ。
いや、完成してもオアジュ魔神と協力しないと駄目と言うのがな……。
「なっ、俺の力がこの世界には必要だろうが!」
そうなんだよな。
それが問題なんだよ。
「必要ありません」
えっ?
必要ないのか?
「何?」
「本当に愚かですね。こんなに傍にいるのに、俺の力に気付かないんですか? 魔神も大したことないですね」
「きさま、言わせておけば!」
「怒鳴れば、相手が委縮するなんて思っているなら大きな間違いです。あなた程度の力でしたら、俺がねじ伏せられますからね。分かりにくいなら……これでわかるでしょう?」
光が纏っていた力がふわりと大きくなり、庭中に広がっていく。
「これが光の力なんだ」
光の力が俺の中をスーッと流れると、ピリピリとした電気が流れたような気がした。
攻撃されている感じは受けない。
なんだか、不思議な力だな。
そしてこの力、やっぱりオアジュ魔神の力と似ている。
いや、オアジュ魔神の力は攻撃的で嫌な感じを受けたから似ているというのはおかしいのかもしれないが、それでも似ていると感じてしまう。
受ける印象は全然違うのに、なんでだろう?
「お前のその力は何だ? どうして俺の力と似ているんだ?!」
オアジュ魔神の驚いた声が庭に響く。
「ようやく気付いたんですか? 鈍いですね。それと似ているのではなく、一緒です。この力は魔神力です」
光の言葉に、フィオ神とアイオン神が戸惑っているのが視界の隅に入った。
彼らを見ると、顔色が悪くなっている。
何か知っているのか?
「ちっ、どうなっているんだ! なぜこの世界にいる者がその力を……認めない! 殺す!」
あぁもう、切れやすいな。
それにしても大丈夫かな?
オアジュ魔神の魔神力がかなり周りに溢れている。
光の様子を見る限りは、影響を受けているようには見えないけど。
「煩い。もういいです。話しても無駄のようなので。とりあえず、この世界の核からあなたの力を消します」
「はっ、出来るわけがないだろうが」
「それはどうでしょうね。頑張って阻止したらどうですか?」
オアジュ魔神が馬鹿にしたように光を睨むと、光はニコリと笑顔を見せる。
あれ?
もしかして光は、オアジュ魔神を煽っているのか?
「まさかね?」
あの優しい光が?
いや、結構毒舌か。
「このガキ、いい気になりやがって」
オアジュ魔神が一気に魔神力を高めていくのを感じる。
彼の周りが力によって黒く光り出す。
これは流石にやばいだろう。
「ありがとう。それだけあれば十分だ」
光の手がオアジュ魔神に伸ばされる。
そして次の瞬間、オアジュ魔神がぐらりと地面に倒れ込んだ。
えっ?
「ぐっ」
オアジュ魔神の声が少し苦しそうだ。
大丈夫だろうか?
「ロープ、協力してください」
何が起きているのかわからず戸惑っていると、光がロープを呼ぶ声が聞こえた。
倒れたオアジュ魔神から、視線を光に戻す。
光の周りに黒い光が見える。
それは、先ほどオアジュ魔神の周りにあった物に似ている。
「どうしたの?」
「核に魔神力を注ぐので、異常な力の揺れを感じたら教えて欲しいんです」
「えっ、核と繋がれるの?」
「はい。思い出しました」
思い出した?
「ん~、それはいいけど。主はいいの?」
急に呼ばれても、何が何だが分からないんだが……。
光を見ると、緊張したような表情で俺を見つめている。
あんな表情をする必要はないのに。
「ロープ、光に協力してくれ。光、任せるな」
「ふふっ」
俺の言葉に、嬉しそうに笑う光に笑みが浮かぶ。
「光、力の揺れってどんなものに注意したらいい?」
「周りを攻撃するような、不穏な力です」
「了解」
何が始まるんだろう?
フィオ神もアイオン神も、あっ、アリアス神をすっかり忘れてた。
3柱も予測がつかないのか、かなり戸惑っているな。
「やめろ、なぜその方法を知っている!」
オアジュ魔神は光が何をしようとしているか分かるんだ。
かなり焦っているが、まだ起き上がる事が出来ないようだ。
いったい光は何をしたんだ?
「そこで指を咥えて見ていればいいよ」
あっその言葉って、オアジュ魔神がアリアス神に言った言葉だよな。
うわぁ、オアジュ魔神の視線がやばい。
「主」
「どうした?」
「……失敗したら」
失敗したら?
そんなの、何とかするしかないよな。
「大丈夫」
絶対に、どうにかする。
それに、協力してもらうし。
「アイオン神、手伝え。拒否権なしな」
俺の言葉に驚いた表情のアイオン神。
「借りを返してもらう」
子供たちを預かる時の借りを、今返してもらおう。
ここぞという時に使うつもりだったんだ。
「無理だ。何をするかも、分からないのに」
「核が覚えたオアジュ魔神の魔神力を、俺の魔神力に入れ替えるんです。徐々に変えていけば、変えられるはずです」
核が覚えた?
魔神力なら何でもいいという訳じゃないんだ。
神力とは違うんだな。




