93.魔神と「守り」
「皆、落ち着け」
俺の言葉に、不貞腐れた表情を見せる仲間達。
酔っ払いは面倒だ。
魔神……名前は忘れたけど、今も暴言を言い続けているし、どうしよう。
ぽんぽん。
ん?
腰辺りを叩かれ視線を向けると一つ目がいた。
「主、大丈夫です」
おそらく一つ目のリーダーだが、何が大丈夫なんだ?
首を傾げ一つ目を見つめる。
おもむろに一つ目が周りを見る。
「主が落ち着けと言っていますが、何をしているのです?」
特に大きな声を出したわけでも、魔力で威嚇したわけでもない。
なのに、仲間たちはぴたりと動きを止めて一つ目を見た。
「えっ?」
「何?」
アルトとキルトが周りの変化にきょろきょろとしている。
テフォルテは何かを感じたのか、何も言わずじっとしている。
その隣ではアイオン神が背を正し、フィオ神もそれに倣った。
聞こえるのは魔神の暴言のみ。
一つ目って……何者?
いや、俺が作った岩人形だけど!
「主」
「はいっ!」
「あれ以外は静かになりました」
あれって「開けろ」と叫んでいる魔神だよな。
えっと、とりあえず。
「ありがとう?」
「いえ」
えっと、この異様な雰囲気をどうしたらいいんだ?
さっきより困るような……。
「ちっ、馬鹿にしやがって」
ん?
魔神の様子がどうも嫌な方へ行っているな。
攻撃されたらどうなるんだろう?
「壊れろ!」
叫び声と同時に感じた、巨大な魔力の塊。
おそらく攻撃を仕掛けたんだろう。
やばいよな。
でも、なにかに守られているようだし。
信じるべきか?
でも、壊れる可能性も……
「オアジュ魔神! やめんか!」
テフォルテの声と何かがぶつかる音。
壊れた時は結界と決意し、上空を見つめる。
「がはっ」
「「「「「…………」」」」」
あれ?
何も起こらない。
今、確かにぶつかった音がしたよな?
その後に、あの声は魔神?
魔神の声がして……。
「主よ。この世界には、いったいどんな『守り』が施されているんだ? あの攻撃を返すなんて」
守り?
そんな物を施した記憶はない。
えっ、無いよな?
知らない間に色々やってるけど、この世界全体を守る物を作るなら、かなり魔力が必要になる。
普通、大量の魔力を使って作った物なら覚えているだろう。
でも、作った記憶はない。
「あっ、もしかしてロープか?」
「ロープ?」
「この世界の主導権を持っている……者だ」
ロープは「物」扱いなのだろうか?
それとも「者」の方なのだろうか?
「ん? どうしたんだ?」
テフォルテ達が俺を見ながら首を傾げている。
ん~、不思議だ。
怖かったはずの顔が、怖くなくなり、今ではちょっと可愛い。
怖いのに行動が可愛い……妹が言っていたギャップ萌えという奴か?
萌えが理解できなかったが、これがそうなのかな?
「主は、こんな時なのに落ち着いているな」
落ち着いて?
現実逃避のような気もするが。
でも、確かに魔神が来た時よりは落ち着いているな。
「これは、勇者のギフト特典だ。何事にも動じないだったかな? 気にしないだったかな?」
「「えっ?」」
なぜかアイオン神とフィオ神が俺を驚いた表情で見つめる。
何かおかしな事でも言ったか?
「ギフトは既に効力を無くしているはずだ」
「……えっ?」
アイオン神の言葉に、思考が止まる。
今、聞こえた言葉が理解できない、いや、したくない。
だって無くなったら困る。
「えっと……なんで?」
「あれは2年ほどで効力が消える。徐々に本来の……」
本来の自分に戻るのか?
でもそれってさ、自分のやってきた行動を理解して狂ったりしないか?
アイオン神もフィオ神もそれに気付いたな。
真っ青な顔で俺を見ている。
「いや、大丈夫。狂ってないよ」
しかし、ギフトというのは碌なものじゃないな。
とはいえ、俺にとっても命を繋ぐ大切な物なのだが。
効力は切れてるのか?
ん~、いや、切れてないよな。
俺の本来の性格だと、きっとこの世界で生きるのは無理だ。
だから、全力でありがたく頂いていたんだが。
既に俺の一部だと思ってるし。
「効力が切れているとも、弱くなっているような感じでもないんだが」
「すまない。こんな重要な事を、忘れていたなんて」
アイオン神が、頭を下げる。
フィオ神も申し訳なさそうにしている。
思うところはあるが、責めてもな。
アイオン神の性格は知っているから、ワザとではないと思うし。
ただ、気になる事がある。
アイオン神だけなのかもしれないが、記憶が連動してない。
勇者のキーワードが出たら、それに関する情報を掘り起こすように記憶装置がなっていない気がする。
そう言えば、以前「記憶装置が動き出したら、ほぼ放置」だと言っていたような。
まさか本当に放置?
「アイオン神、記憶装置のキーワードを更新してるか?」
「えっ? してないが?」
本当にただの放置だ。
どんなに記憶装置が優秀でも、それは駄目だ。
繋がっていないのに、思い出すわけがない。
「はぁ」
「翔?」
今はそれを言う時じゃないよな。
もっと時間がいる。
ギフトについて後でゆっくり聞こう。
「オアジュ魔神が静かだ」
「そうだな」
テフォルテが酒を飲みながら、ちらりと上空を見る。
彼女の様子に首を傾げる。
全く心配している様子が無い。
魔界は仲間意識が無いんだろうか?
あれ?
そう言えば、俺の周りも静かだな。
そうか、今日は魔界の酒もあったもんな。
魔界の酒、怖ろしい。
まさか仲間の半分以上を酔い潰すとは。
ばごっ。
「この野郎、ゆるさん」
あっ、復活した。
「馬鹿にしやがって」
「いやいや、1人で大騒ぎして逆ギレして自分の攻撃を返されただけだが?」
「あはははっ、確かに!」
同じ魔界の住人のはずなんだけど、テフォルテに大笑いされてるぞ、魔神。
「主、無事?」
この声はロープか。
「ロープ、ありがとうな、ロープが施した『守り』のお陰で攻撃されずに済んだよ」
それが無かったら、どれだけの被害が出たのか分からないからな。
「世界を守っている『守り』は確かに基礎は作ったけど、ここまで強化したのは主だよ」
……強化?
「でも主はさすがだね。魔神の最大攻撃を受けても、びくともしない『守り』を作りあげるんだから」
「基礎を作ったのはロープなんだろう?」
「基礎より毎日、毎日強化し続ける方が凄いよ」
なんの事だ?
毎日強化?
俺にはそんな意識はない。
「ロープ、あとで詳しく話してくれ」
「ん? 分かった。ところであれはどうする?」
どうすると言われてもな。
「我が話してくる。それよりロープと言ったか?」
「あぁ、ケルベロスたちの「かか」だね。どうしたの?」
「なぜ、魔界に住む我があの魔神を拒否している『守り』を素通り出来たんだ?」
そうだな。
なんでテフォルテは入れたんだ?
「なぜって、求めている者が子供だったからだよ。あの時のテフォルテは、子供に会う以外に何も考えていなかったじゃないか」
そうなんだ。
あっ、キルトたちが喜んでる。
「そ、そうか。それでか、わかった」
もしかしてテフォルテ、照れてるのか?
彼女を見るが、残念。
表情の変化では、分からない。
「それであれは任せて良いのか?」
「あぁ。落ち着かせて来る。どうしてここに来たのかも聞きたいしな」
あっ、それは俺も聞きたい。
「お願いするな」
「主、任せてくれ」
あれ?
テフォルテから一つ目と同じ気配を感じるんだが。
気のせいだよな?
「ケルベロスは主を自分で決めるという。翔、認められたのではないか?」
「はっ?」
フィオ神の言葉に、「まさか」と返すが先ほど感じた気配を思い出す。
えっ、マジ?
そう言えば、いつの間にかテフォルテから「主」と呼ばれていたような……。




