92.魔界の酒
「かか」にテフォルテと呼んで欲しいと言われた。
彼女たちは、3匹とも同じ名前らしい。
というか、ケルベロス達は3匹同じ名前を付ける方が圧倒的に多いそうだ。
個別で名前を付けるのは、珍しいと言われてしまった。
「仮」だと言ったが、テフォルテ達が認めたため、そのまま3匹の名前になってしまった。
「いいのか?」と思ったが、本人たちが望んでいるからいいそうだ。
テフォルテ達が寛大でよかった。
「テフォルテ、今度はこっちだ。さっきのワインとどっちがうまい?」
「そうだなぁ。さっきの方が濃厚な香りで好きだな」
ふわふわとテフォルテ達の言葉に首を傾げる。
2匹と同じ物を飲んでいるが、濃厚な香りって何?
テフォルテ達が濃厚な香りと言った方のワインを一口飲む。
……いつも飲んでいる、ワインの香りに味だよな。
もう1つ置いてある種類の違うワインを一口飲む。
……香り?
違いなんてあったか?
「主はどっちが好きだ?」
親玉さんの言葉に、周りにいる者たちの視線が俺に向く。
「俺はどれも好きだよ。特にこれっていう好みは無いから」
どれを飲んでも美味しいからね。
そう、大事なのは美味しいと感じる事だと思うから!
「そういえば主は、どのワインを飲んでも美味しそうに飲むな」
だって、美味しいからね。
ふわふわに笑って、残っているワインを飲む。
「確かにどれもうまいな」
テフォルテ達が、今年初お目見えのワインを飲みながら満足そうに頷く。
そのワインは、3種類のブドウもどきを掛け合わせたワインで、のど越しが良いらしい。
水分なんだから、不味くない限りはのど越しはいいだろうと思うけど、もちろん言わない。
「沈黙は金なり」と言うじゃないか。
それにしても増えたよな。
広場に置かれている樽は10個。
今日は、1種類につき樽を2つずつ持って来ているそうなので、5種類のワインが用意されている。
広場にある種類以外にもあるらしく、知らない間に18種類のワインが出来ていた。
そして今日はフルーツワインと言う物が登場した。
俺は知らなかったが、ブドウ以外でもワインが出来るらしい。
方法は、果汁を絞って煮詰めてはちみつを足して発酵させたらしい。
味は甘くてジューシー。
孫アリ達とラタトスク達に、大好評だ。
「これは、うまいな。アイオンもどうだ?」
「それか? 貰おう」
傍で飲んでいるアイオン神とフィオ神に視線を向ける。
彼らが飲んでいるのは、テフォルテ達が持ってきた魔界の酒。
度数がものすごく高く、味見で一口貰ったが飲んだ瞬間に喉が焼けた。
あれは、俺が手を出していいものじゃない。
「私はこちらの方が好きだな。キリッとした味が好みだ」
アイオン神が持っている酒瓶を見る。
名前は「神の堕落」。
それを手に持って、ご機嫌なアイオン神。
「今日は仕事の事は一切考えない。飲むぞ! 飛びトカゲ、飲み比べだ」
「神の堕落」。
確かに、そうかもしれない。
「そっちなのか? 俺はこっちの方が好きだな。口に残る酒の味がいい」
フィオ神が、コップに酒を並々と注ぎ、一気に煽る。
「そうか? いつまでも口の中に酒の後味が残って嫌だ。しつこい」
アイオン神が、フィオ神の持っている酒を見て首を横に振る。
「そこがいいんだろうが」
ドンと机の上に置いたの酒の名前は「魔神より愛をこめて」。
魔神のしつこい愛情?
いや、ただの酒の名前だ。
「2人ともまだまだだ。酒ならこれだ。主、これは我のお薦めだ」
テフォルテ達が魔法の力で、酒瓶を俺の前に持ってくる。
その名前が、「魔神も殺す」。
いったいどんな酒なのか、怖ろしい。
「いや、遠慮しておくよ」
「そうか? あの酒豪の魔神ですら失神させた有名な酒だ。度数もすごいが込められた魔力もすごい」
あの酒豪の魔神って誰?
と言うか、そんな魔神が失神?
お願いだから、そんな酒を薦めないでくれ。
酒は好きだが、すごい強いというわけでは無いんだ。
「あれ? 魔力?」
「ん? 何だ? 酒を造る時に、作り手が魔力を注ぐだろう?」
そうなの?
近くにいた農業隊を見る。
農業隊はじっとテフォルテ達を見つめている。
その雰囲気は、驚いている。
つまり農業隊も知らなかったのだろう。
「なるほど。魔力」
農業隊が何度か頷くと、どこかへ行ってしまう。
来年のワインは、一味違うかもしれないな。
「あっ、度数を上げ過ぎないようにお願いしておこう」
言っておかないと際限なく上げられそうだ。
この世界で一番酒に強いのは龍達だ。
「龍も殺す」なんて名前の酒はいらないからな。
「主、これうまい!」
「「おい、引っ張るな!」」
「ぐえっ」
「「「主!?」」」
急に背中に圧し掛かられ、机の角が腹に刺さる。
何か戻ってきそうになったので慌てる。
「ヒール」
落ち着いた胃にホッとしていると、背中側がうるさい。
「お前のせいだぞ!」
「主、ごめん」
「はぁ。もっと落ち着いてくれ」
後ろを振り返ると、落ち込んだ様子のカルト。
キルトとアルトは呆れた様子だ。
「大丈夫。カルト、何がうまかったんだ?」
「これ!」
……ナスのフライ。
ナスもどきだけど。
「そうか」
ケルベロスって肉食じゃないのか?
テフォルテ達を見る。
彼女の前には、ミディアムレアの肉の塊。
肉食だよな。
「アルトとキルトは、なにか好物が見つかったのか?」
まさか3匹ともが野菜好きという事も無いだろう。
「俺達もこれ」
アルトが指すのはナスのフライ。
俺達という事はキルトもか。
キルトを見ると、頷いている。
「そうか」
テフォルテ達を再度見る。
野菜には一切手をつけず、塊肉を3匹で食べ続けている。
好きなら好きでいいが、成長に影響しないだろうか?
「肉もしっかり食えよ」
3匹が頷くのでホッとした。
光の魔力の影響がどう出るか分からないため、ちょっと怖い。
ばちばちばち。
「何だ?」
火花が散るような音に、周りを見る。
だが、気のせいだったのか何も起こらない。
ばちばちばち。
いや、聞こえた。
親玉さんやシュリ達も、周りをきょろきょろと見回している。
「あそこだ」
テフォルテの視線の先を追うと、上空の一部分に歪みが見える。
あれは、テフォルテがこの世界に来た時に見たのと同じものだ。
つまり、また誰か来るのだろう。
「テフォルテ、今度は誰だ?」
テフォルテが首を傾げる。
「相手の魔力が完全に遮断されていて、分からない」
完全に遮断?
「くっ、開けられない」
えっ?
聞こえてきた、男性の声に首を傾げる。
開けられないって何を?
「おい、どうなっている。開けろ」
テフォルテが俺を見るが、首を横に振る。
何を言っているのか、全く分からない。
「その声、オアジュ魔神か」
「おい、いい加減にしないとこの世界を潰すぞ」
見えない声が許容できない言葉を吐くが、何を開ければいいのかが分からない。
なので、どうする事も出来ないんだが。
「えっ?」
後ろから感じた不穏な気配に、振り返ると仲間たちの様子がおかしい。
何だろう。
「潰す? この世界を?」
飛びトカゲの声に応える様に、魔力が高まっていくのが分かる。
なんで、こんなに怒っているんだ?
しまった。
皆酔ってるんだった!
え~、どうしよう。
「開けろやクソが」
少し黙って欲しい。




