31.ダイアウルフ チャイ
-犬に間違われているチャイ視点-
逃げ込んだ先はフェンリルの王の住処だった。
死を覚悟したが、ただ存在を確かめられただけでそこに居ることを許された。
その時からどれほどの時間がたったのか。
ただ、ただ、自分を乗っ取ろうとする魔眼の力から己を奮い立たせた。
あと幾日この意識が持つか。
立ち上がることもできない。
ほんとうに今、己の意思が己のものなのかもわからない。
そろそろ自分の終わりを選ぶ時なのだろう。
居場所をくれたフェンリルに手間をかけさせるわけにはいかない。
こんな時でなければ同じ場所になどいることはない存在。
意識が飛びそうなそんな時、不思議な気配を感じて閉じそうになる目をこじ開ける。
そこで見たのは絶望だった。
フェンリルの王がこの場所に人間を連れてきた。
その意味することは。
王の死。
生き残っていたフェンリルが威嚇する。
その声に王が答える。
答える?
飲み込まれたわけではないのか?
不思議に思っていると暖かな光が何度も部屋に広がる。
その光を受けると体から不快感が消えていく。
ここ数十年、感じ続けた忌々しい不快感。
まさかそれが消えるとは…
ようやくこの光が浄化だと気が付いた。
ただ、見たことのないかなり強力な浄化。
人間が我々のために?
人間がこの森を襲ったのではないのか?
不思議な魔力を持つ人間。
ただ、その魔力は長く苛まれていた体を包むように癒してくれる。
……
主に仕える生活を始めると主の魔力が規格外だと気が付く。
結界など常時魔力を使い続けるものを気軽に使用してしまう。
最初は正気の沙汰ではないと魔力切れを心配したが…。
主は化け物か?
何度も結界を使用して生きている。
結界を大きくしても魔力が切れる気配がない。
その魔力量が恐ろしい。
ミスリルを見て無反応な人間を初めて見た。
人間はミスリルに異様な反応を示す。
しかもオリハルコンの巨大な塊を魔法で移動?
オリハルコンは魔法が通りづらい鉱石なのだが。
目の前のあまりなことに思わず腰が引けてしまった。
主を人間のくくりに入れるのは間違いかもしれない。
魔力だけで考えても今まで見たことも聞いたこともない。
恐ろしさを感じることがたびたびある。
ただ、頭を撫でられると主から暖かな魔力が流れる。
どれほど強い力を見せられてもこの暖かさは離れがたい。




