64.囲まれました
ー農業隊フォーの視点ー
あっ、少し近づき過ぎました。
数名の獣人とばっちり目が合っています。
これは、どうしましょう。
「失敗した」
ふっ、動揺しているようですね。
言葉が乱れています。
こういう時こそ、落ち着くのです。
……駄目です。
分かっていても、獣人と目が合うとドキドキします。
ヘタレではないです。
慣れていないだけです!
いつも、問題は周りが解決してくれましたから……。
どうしよう。
隣のファイブを見ます。
焦っている様子はありません。
落ち着いていて、いいですね。
羨ましい。
不意にファイブがこちらを向きます。
「ん?」
何でしょう?
首を傾げましたね。
もしかして、私の混乱の原因がわかっていないのでしょうか?
……えっ、マジですか?
「内密に観察しないと駄目だっただろ? 着地点をまちがえたな」
どうやら、そうとう混乱中のようです。
言葉が乱れまくっています。
と言うか、誰かのせいにしようとしてしまいました。
ん?
ファイブから、すごく戸惑った気配が伝わってきます。
もしかして、私の言葉遣いのせいでしょうか?
分かります。
自分で言って、自分で戸惑いましたから。
しかし、気配だけで戸惑いを伝えるのはどうなんでしょうね。
もう少し態度に出してほしいです。
せめて一言!
いや、違いました。
私の言葉遣いより、見られた事を問題視して欲しいです。
そして、私の代わりに解決策を!
「……」
……無駄ですね。
ファイブから視線を獣人たちに向けます。
おや?
数名が私の上を見ていますね。
上にはシュリの子供たち子アリと孫アリの気配があります。
見てますね。
なぜ彼らも姿を見せているのでしょう。
ん?
森から、先ほど見た集団が来ましたね。
あらら……挟まれちゃいました。
まぁ、挟まれたからと言って脅威にはなりません。
ただ、見られない事が一番なので、少し場所を移動しましょう。
もちろんファイブもです。
どうしたんでしょう。
元々いた獣人たちが、バタバタしています。
不思議に思い見つめていると、1人の男性の手が不思議な動きをしています。
「「……」」
あっ、あれはっ!
主が以前やっていた、ジェスチャーではないでしょうか?
何故、あんなに焦っているのかは知りませんが、久しぶりに見ます。
懐かしいですね。
ほんの少し前までは、主との会話はジェスチャーでした。
正しく主の意思を理解出来た時は、最高に幸せでした。
不意にファイブに腕を引かれます。
あっ……。
「さて、見られてしまったので、どうするか……」
ですね?
忘れていませんよ?
見られた事実を、消す事は出来ません。
頭を殴っても、記憶を消すかどうかは運ですから当てになりません。
そうなると、取れる手段は……。
ん?
子アリが、木の上から降りて来たようです。
何か用事でもあるのでしょうか?
重要な話かもしれませんから、風魔法で周りに声が届かないようにしておきましょう。
「どうかしましたか?」
私の言葉に、子アリが私の肩に前足を乗せます。
「大丈夫? 上から見てたら、なんだか焦っているみたいに見えたけど」
どうやら態度に出てしまったようです。
恥ずかしい。
でも、心配されるのは嬉しいです。
「ありがとう。失敗してしまいました。内密に観察する必要があったのに、見られてしまって。……目撃者を消してしまおうかと」
最後の手段!
ちょっと人数が多いですが、出来ます!
「それは止めた方がいいと思うよ。主が知ったら悲しむから。うん、絶対に駄目!」
なぜか子アリが焦っています。
しかも、主が悲しむので駄目だと。
そうでした。
主はとても優しいので、こんな手段を取ったら悲しみますね。
「問題を解決したことはあるのかな?」
子アリの質問に、首を傾げます。
「ありませんが?」
なぜかため息を吐かれました。
何故でしょうね?
「完璧じゃない子もいるんだね」
ん?
子アリが何かを言ったようですが、聞こえません。
じっと子アリを見ましたが、首を振られてしまいました。
気になりますが、仕方ないですね。
「見られた事は、それほど気にしなくていいと思うよ。重要なのは、普通の人を多く観察することでしょ? そうだ! 『我々と遭遇した時に、どういう態度を普通の者は取るのか』を観察したらどうかな?」
なるほど。
それはいいかもしれませんね。
ただ、集まってきた獣人たちの中に普通の者がいるだろうか?
……皆、似たような感じです。
そもそも、普通を探すのが難しい。
「普通の者と、そうでない者の見極め方がわかりますか?」
私の言葉に、不思議そうな表情をする子アリ。
何かおかしな事でも、聞いただろうか?
「大丈夫~?」
上から声が聞こえますね。
視線を向けると孫蜘蛛が、森から来たようです。
「大丈夫です」
子アリが、前足をあげて挨拶をしています。
「そう? なんだかどんどん獣人が増えているけど、問題ない?」
獣人が増えている?
孫蜘蛛の言葉に、周りの気配を探ります。
確かに、ここにいる獣人より多くの獣人がこちらに向かってきてますね。
「獣人たちの邪魔になるといけないから、ちょっとこの場所から離れた方がいいかな?」
子アリが孫蜘蛛を見上げます。
「そうだね。それがいいかも」
孫蜘蛛と子アリは、どうやらここから離れるようです。
そう言えば、なぜ彼らも姿を見せているのでしょう。
「少し気になるのですが。子アリたちや孫蜘蛛たちは、姿を見せてもいいのでしょうか?」
私の言葉に、2匹はお互いに顔を見合わせる。
「特に気にした事は無いよ」
子アリの言葉に孫蜘蛛が頷く。
そうなんだ。
「ただ、姿を見せると騒がしくなるから、だいたいは隠れてるけどね。今は、音がしたからとりあえず問題が無いか確認に来たんだ。君たちがいたから、ここに来ちゃったけど」
孫蜘蛛はいいながら、少し離れた場所を指す。
そこには、他の孫蜘蛛たちの姿があった。
なぜか周りがちょっとざわついた。
「それより、観察は出来た?」
孫蜘蛛の言葉に首を横に振る。
「どの者も弱く、普通とは違いました」
私の言葉に孫蜘蛛が首を傾げます。
「弱く? 主のような強さを、獣人に求めちゃ駄目だよ」
そんな事はしていないと思いますが……いや、無意識に求めているかもしれません。
なるほど、だから普通が見つけられないんですね。
「この周辺にいる獣人たちを、普通だと思っていいと思うよ」
「えっ!」
子アリの言葉に、私だけでなくファイブも驚いています。
だって、ここにいる全員が普通ですか?
中には、クウヒやウサより弱いと思われる者たちがいるんですが……。
「本当に全員ですか?」
「うん」
「あれも?」
ん?
誰の声でしょう?
子アリと孫蜘蛛が私の横を見ています。
横ですか?
ファイブがいますね。
……もしかして、ファイブの声ですか?
初めて聞きました。
ところで、「あれ」とは何でしょう?
「あぁ、彼は」
森の中にいた獣人たちの、先頭に立っていた者ですね。
「彼は……」
心情的には、あれを観察したくないのですが。
だって、見ていると不愉快になります。
不思議ですね。
何故でしょうか?
周りの獣人と、そんなに違いは……あっ、隣の獣人を殴りましたね。
「あれ? こっちを指したよ?」
子アリの言うように、こちらを指して何か言っているようです。
かなり、苛立っていますね。
カルシウム不足でしょうか?
そうそう、この世界にはカルシウムの取れる野菜があるんですよ。
今は、必要の無い情報でしたね。
「あそこです!」
ん?
誰の声でしょうか?
あぁ、新しく集まった獣人の誰かみたいですね。
「まだまだ増えるね」
孫蜘蛛が、ちょっと感心したように集まってきている獣人たちを見ています。
本当に、どんどん集まって来ますね。
観察し放題です。
でも、ちょっと多すぎです。
完全に、獣人たちに囲まれてしまいました。
「近すぎて観察どころじゃないね」
子アリの言う通りですね。
「観察するなら、離れたところからの方が良いみたいだね」
孫蜘蛛の言葉に、子アリも私たちも頷きます。
「移動しましょう」
ファイブが私の言葉に、ホッとした雰囲気を出します。
どうやら囲まれて、困っていたようです。
「いい場所を知ってるよ」
孫アリが、頭上から声を掛けてくれました。
「では、誘導をお願いしてもいいですか?」
「もちろん」
前足をあげると、さっと孫アリが木のてっぺんに向かって走り出します。
私とファイブもその後に続きます。
ん?
子アリたちや孫蜘蛛も一緒にくるようです。
「うわっ!」
「何が始まるんだ?」
ん?
何でしょうか?
周りがざわついていますね。
孫アリは、木のてっぺんに立つと森に向かってジャンプしました。
もちろん、あとを追います。
「飛んだ!」
「どこだ?」
やはり、騒がしいです。
それにしても、いったい何の集まりだったんでしょう。
最初の険しさはなく、最後に見た獣人たちの表情はなんとも間抜け……腑抜け……。
色々な表情をしてました。
今から、観察すればなんの集まりだったのかわかるでしょうか?
とりあえず、孫アリが紹介してくれるいい場所で頑張って観察をしましょう。




