59.1人の空間は……
よしっ、設定完了。
何か、ここまで来るのに余計な事をいっぱい知ってしまった気がする。
神とか、神じゃないとか。
……気にしたら駄目だな。
うん、なるようになるだ。
「さてと、キーワードを決める必要があるんだが……細かいと面倒くさい事になるよな」
とりあえずは1年ごとに分けるのは決定だな。
ん~、1星ごとに分けるのはどうしようかな。
100年生きるなら1星ごとでもいいが、1000年生きる場合は1星ごとでは細かすぎるよな。
……1000年か。
「俺はどれくらい生きるんだろうな」
前にアイオン神に言われた。
人でなくなった時に、寿命も延びていると。
そして、存在自体が初めての事なので、俺の寿命がよく分からないと。
色々調べたが、あの後に何も言わないという事は、分からなかったからだろう。
1000年か。
長いよな。
もしかしたら、もっと長いのかもしれないんだよな。
「と言うか、実感は無いよな……」
俺が人から外れたと言われても、よく分からないのが本心だ。
見た目が変わったわけでは無い。
確かに魔力やら新しい力は使える。
でも、それだけだ。
いや、魔力や新しい力が使えるようになった事はすごい変化だと思う。
でも、だからと言って俺が培ってきた常識が変わったかと言われると、変わっていない。
「それが、怖いんだよな」
長く生きているアイオン神を見る限り、限りがあった時の感覚では駄目なような気がする。
ある意味、終わりが見えているから頑張れる事ってあるよな。
「考えても仕方ないけどな~」
なんでこんな事を考えているんだろう。
……周りを見る。
「そうか。この世界に来て初めて本当に1人なんだ」
寝室には、体の小さい孫蜘蛛たちや孫アリたちが天井に張り付いている。
最初は驚いたが、既に当たり前の光景になってしまっている。
それに一つ目たちが、いきなり部屋に飛び込んでくる事もある。
あれは本当に驚くが、それにも慣れてしまった。
毎日、誰かしらが傍にいる。
だから、本当に1人の空間にいた事は無い。
そうか。
今、1人だ。
「……ははっ、すごい違和感だ」
皆がいる事が、当たり前になっているという事か。
まさか1人だと思った瞬間に、寂しいと感じるなんて。
飛びトカゲやコアたちに比べたらかなり若いけど、俺だって一応成人した大人なんだけどな。
「よし、キーワードは明日から考えよう。焦る必要はないだろう」
俺の性格だと、細かく分けるのは止めよう。
大雑把でいいや。
えっと、このまま放置でいいのか?
ん?
画面が切り替わった。
『主の意識と繋げますか?』という事は、俺と繋がるのか?
まだキーワードは年ごとにしか分けてないが……いいか。
『繋げる』と。
『成功しました』か、よかった。
これで記憶が勝手に消えていく事はなくなるんだな。
あとは……『処理を始めます』。
「よろしく。明日どんな感じなのか見てから考えよう」
図書館から出て、皆のいるリビングに戻るとほっとした。
うん、1人の空間はたまにはいいけど、こっちの方が落ち着くな。
「どうしたのだ?」
飛びトカゲが俺の様子に首を傾げる。
「いいや。皆といると落ち着くなと思ってな」
俺の言葉に少し目を見開く飛びトカゲ。
そんなに驚く事を言っただろうか?
「落ち着くか? 騒がしくないか?」
飛びトカゲが、キッチンがある方へ視線を向ける。
ん?
「あ~、スミレ。それは僕のだ!」
大きな声が聞こえたと思ったら、キッチンからふわふわと飛んで出てくるスミレの姿が目に入った。
その両手には、パンが握られている。
まさか、キッチンから取って来たのか?
いや、一つ目たちがそれを許すことは無いな。
きっと、一つ目にお願いして貰ったんだろう。
「こら、聞いているのか?」
「う~!」
翼がスミレに向かって手を伸ばすが、残念ながら飛んでいるスミレには届かない。
それをいい事に、スミレが嬉しそうにパンに齧りついた。
「あ~」
悔しそうな翼。
パンの取り合いは、よくある光景となりつつある。
そして今日はスミレに軍配が上がったようだ。
まぁ、あとで一つ目が翼に新しいパンを渡すだろう。
「天使はまだ成長しないんだな」
アイオン神の言葉に首を傾げる。
成長はしている。
まだ、言葉を発する事は無いが体は大きくなっている。
特に羽の成長が著しい。
「成長はしているぞ?」
俺の言葉にアイオン神が、不思議そうに俺を見る。
「成長?」
「体が大きくなっているし、羽も大きくなった」
「えっ?」
俺の言葉がおかしかったのか、スミレを凝視するアイオン神。
その行動に飛びトカゲも不思議そうに、アイオン神を見る。
何かおかしいのだろうか?
「普通に大きくなってるのか?」
それはそうだろう。
他にどんな成長があると言うんだ?
「天使は大人の姿が普通なんだ。生まれた時から大人の姿なんだ」
「へぇ~……ん?」
パッとスミレを見ると、モモも一緒にふわふわと飛んでいた。
モモの方は既に食べ終わったのか、何ももっていない。
ただ、口周りにパンくずがついている。
可愛い。
いや、今はそれはどうでもいい。
「大人の姿で生まれる? 子供時代は?」
「ない。だからあの姿は、神力が少ないせいだと思った。神力が満ちれば、すぐに大人になると考えたんだが」
……スミレとモモを見る。
この家に来た当初と比べたら、ゆっくりと成長をしている。
普通の子供と同じように。
「神力が足りないから、ゆっくりと成長している可能性は?」
「翔の新しい力が2人には満ちているから、足りない状態ではないはずだ」
俺の新しい力?
「そのせいじゃないのか?」
「新しい力のせいだと言うのか? 翔のあの力は神力とほとんど変わらないから、大丈夫だと思ったんだが」
ほとんど同じは、同じではない。
なぜ大丈夫だと思ったんだ?
アイオン神も、たいがい大雑把だよな。
「なんだ?」
「いや」
「言っておくが、天使がいると知ってすぐに神力を与えたぞ」
「そうなのか?」
スミレとモモを見る。
なら、どうしてあの状態なんだ?
「神力が足りなかった?」
「いや、2人にはしっかりと神力を渡した。だから安心して帰ったんだ」
そういうことは、言っておいて欲しかったと思うのは贅沢なんだろうか?
ついジト目でアイオン神を見てしまう。
それに気付いたのかアイオン神が、少し視線をさ迷わせる。
「いつもは部下が傍にいるんだ」
部下?
アイオン神の言葉に、怒り心頭でこの世界に来て、アイオン神を引きずって帰って行った者を思い出す。
「私がやったことを、いつも完璧にフォローしてくれて」
部下の人は大変だな。
「だから。いつもの癖で説明を省いてしまうんだよな」
それって、説明はいつも部下がしていると言っているようなものなんだが。
アイオン神を見ると、肩を竦められた。
「……部下を大切にしないとな」
俺の言葉に、神妙に頷くアイオン神。
「ここで過ごすと、部下の大切さを実感するよ」
それは……いい事だな。
うん、部下の人が大切だと分かったら仕事を放置して逃げ出さないだろう。
「今日の仕事は?」
「……」
部下の大切さを実感したのではないのか?
呆れた表情でアイオン神を見ると、視線を逸らされた。
引きずられて帰る事は、これからもありそうだな。
「話を元に戻すけど。天使に神力を渡したのに大人の天使に戻らなかった原因は予測できるのか?」
「1つだけ。もしかしたらあの2人の天使は、死ぬはずだったのかもしれない」
はっ?
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次回は月曜日となります。




