30.フェンリル王 コア
-狼に間違えられているコア視点-
木を見つめている主を見る。
不快な魔眼魔法から解放され、名をもらった。
コア
フェンリルの王として初めて主を持つ。
後悔はない。
主のそばは魔力が満ちていて気持ちがよい。
……
200年ほど前に襲った森全体を覆う不快な魔眼魔法。
人が成せる魔法ではない。
だが、何らかの方法で森を襲った。
思い出しても忌々しい。
浄化の魔法は一時的にしか効果がなく、結界は常時魔力を使うため早々に枯渇する。
魔力が強く早々に飲み込まれることはなかったが、長きに渡り侵食され続けた。
弱い仲間は意思を飲み込まれ仲間を襲い死んでいった。
強い仲間は飲み込まれるのを嫌い自らその命を終わらせた。
200年、多くの仲間の最期を見続けた。
意識が飲み込まれることが多くなったそんなとき、森の中に人の気配を感じた。
怒り。
人の気配に嫌悪感と怒りが渦巻く。
意識を飲み込まれながらも人がいる場所へと急いだ。
その時の思いはただ殺すということのみ。
人の後ろ姿が見える。
警戒もせずただそこにいた。
一気に襲いかかろうとするが、体が一瞬ふらつく。
目が合った。
なんとしても殺してやろうと体に力を入れるが入らない。
悔しい、ここまで弱っていたのか。
目の前に敵がいるのに討つことすらできず終わるのか。
そんな絶望が襲うが最後まで睨みつけようと威嚇する。
次の瞬間、全身の力が抜ける。
倒れた己が恨めしい。
意識が消えるのを全身で拒否する。
意識を飲み込まれるぐらいならと考えた瞬間。
体がふっと軽くなる、そしてずっと己に纏わりついていた不快感が消える。
通常の浄化魔法では浄化はたった一瞬で効果がなくなる。
浄化切れの衝撃に備える…?
衝撃が来ないことに驚いて全身を確かめる。
何をした?
人間を見つめる…底知れない魔力。
それは人間が抱え込めるような魔力量ではない。
フェンリルのトップに立つ我にもその量が計れないなど。
目が合っていると人間から魔力が流れ込んでくる。
それが傷ついた己の体に染みわたり中から癒されていく。
そっと近づき服従。
フェンリルの王が人間を主にするのは初めてのこと。
ただこの人間は主に相応しい。
気が付くといつの間にか全身が洗われたように綺麗に。
主の魔力は見たことがないほど精密で底が知れない。
森に現れた王の上に立つもの。
……
ところで主、木がおかしなことになっているが。




