58.神なの? 神じゃないの?
目の前の一つ目のリーダーは、機嫌がいいようだ。
どことなく雰囲気がわくわくしているような気がする。
そしてじっと見てくる視線に圧を感じる。
これは「訊け」という事だろうな。
訊くけど……ちょっと怖い。
「えっと、今は何年なのか分かったんだよな? 教えてくれ」
「はい。今はリンダン847年です」
リンダン?
何か意味があるのか?
「リンダン?」
一つ目の言葉にアイオン神が反応する。
不思議に思い彼女を見ると、嫌そうな表情をしている。
「知っているのか?」
「見習いたちを誘導した上級神の名前だ」
うわ~まじ?
「あいつ、何がしたかったんだ? 自分の名前を使わせるなんて」
アイオン神の表情に嫌悪感が浮かぶ。
そうとう、気に入らないようだ。
と言っても、既にこの世界の年号として使われているのだから仕方ない。
それにしても847年。
歴史が浅い世界なんだな。
「リンダンが使われる前は、国ごとにバラバラだったそうです」
あっ、なるほど。
847年以前にも、この世界はあったのか。
1つにまとまってから、847年という事だな。
「そして今日は7星の30です。ちなみに7星は37まであります」
えっと、7星は月と同じ感覚でいいのかな?
それで、日にちが30か。
7星は37まであると。
「1年は何日あるんだ?」
この訊き方も、この世界ではおかしいのかもしれないが仕方ないよな。
「1年は365あります」
365は日本にいた頃と変わらないが、日は使わないみたいだな。
「月の呼び方は1星から10星までです」
つまりこの世界は、1年を10個に分けて星をつけているのか。
365は綺麗に分かれないよな。
日本でも月によって違ったし、ここではどうなんだろう?
「1星が37、2星が36、3星が37と交互に変わります」
なるほど、10星合わせて365だな。
分かりにくい分け方じゃなくて良かった。
これだと、慣れるのも早そうだ。
「話を聞いた者は、エンペラス国の門番で隊長をしているスリアと言う者でした」
ん?
エンペラス国?
何処かで聞いた名前だな。
……えっと……あっ、人間の国でウサとクウヒがいたところだ。
あんな所まで行って帰ってきて2時間?
最近では1日で行けるようになったけど、元々は数日掛けて行っていた場所だぞ?
それを2時間?
一つ目の能力はどうなっているんだろう?
なんだか、確認するのが怖いな。
「前王時代は祭りが全て禁止されたそうですが。5星と10星の祭りが復活したそうです」
祭り?
そうなんだ。
どんな祭りなんだろう?
「5星の祭りは暑くなる前に行われる祭りで水辺で行われるようです。10星の祭りは収穫を祝う祭りだそうです」
なるほど。
ところで、俺は何を聞いているんだろう?
「エンペラス国では、獣人達の祭りも復活しようとする動きがあり、現国王も後押ししているそうです。なので、もう1つ大きな祭りが復活するだろうと」
「そうか。えっと……」
「ん? 何ですか?」
何ですかって、それはいま必要な情報ではないような気がする。
「そうだ! 森にエンペラス国からの使者がいるそうです。『もし森の神が許してくれるなら、会っていただきたい』と言われました。会いましょう! ぜひ会うべきです!」
一つ目リーダーの迫力に、ちょっと体が引く。
「おう」
死者?
……違う、使者だな。
死んだ人に会えと言われたら、ビビる。
あれ?
今一つ目のリーダーから問題の言葉が聞こえた。
えっと……森の神……えっ?
「なるほど。そういう事か」
アイオン神が納得した表情をしている。
確認するのが嫌だ。
視線が合うと、苦笑される。
「どうやら、この世界の者たちに翔は森の神と認識されているようだ。それで神だけの特権が使えたんだろう」
やはり、そういう事なのか。
この世界の者に、なんで俺が森の神と認識されているんだ?
いつだ?
そんなに頻繁に森から出てないぞ?
この世界の事を知るために、少し森から出てエンペラス国には行ったが他の国はまだだ。
それなのに、なぜ?
「おそらくエンペラス国だけではなく、他の国の者たちにも森の神と認識されているだろう。神と認められるには、世界中の者にそう思われる必要がある。いつ、森の外の者たちと交流したんだ?」
アイオン神が首を傾げるが、俺も首を傾げる。
交流という交流をした記憶はほぼない。
獣人のダダビスたちとは少し交流したが、神とは言われていなかったよな?
あれ?
そう言えば、初めは随分と丁寧な話し方をされたような……?
いやいや、気軽に話をしてくれって頼んだし。
俺と話をして、俺が神だと思うわけないだろう。
こんな威厳の無い神なんていないだろうし。
ん?
アイオン神を見る。
これまでのアイオン神の行動を思い出す。
なるほど、
「神に威厳は要らないんだったな」
「おい。今、私を見てそう言ったよな?」
「気のせいだ」
前に来たデーメー神も威厳は無かったな。
彼の印象は駄々っ子だ。
そう言えば、彼はどうしたんだろうか?
……まぁ、いいか。
「私だって、上級神なんだ。威厳はある。私をなんだと思って――」
「はいはい」
ぶつぶつ言っているアイオン神に適当に返事を返すと睨まれた。
そういう所があるから威厳を感じないんだが。
でも上級神の1人なんだから、仕事をしている時は流石に威厳はあるだろう。
……あるよな?
時々アイオン神の部下が、仕事が溜まっている事に切れて彼女を引きずって帰っていくけど……。
威厳って何だっけ?
チラリとアイオン神を見る。
不貞腐れたような表情で、いまだにぶつぶつ何かを言っている。
神と威厳は無関係だな。
そんな事より、
「人の思い込みを修正することは出来ると思うか?」
「無理だな。不可能だ」
そんな簡単に。
「この岩人形の言葉を聞いて思い出した。そうとう稀なケースなんだが、人の強い思いが作用して神を作り出すことがあるんだ。確か、過去に1人か2人いたぐらいのはずだ。でも、かなり強く思わなければ神にはなれないんだが」
人の強い思いが作用して神に?
つまり俺はこの世界の人たちに強く神だと認識されているという事か?
「森を支配していた魔眼を押さえ込む存在を知って、救世主として縋ったんだろう。最初は半信半疑だっただろうが、森から魔眼が消えた。我々、森の王ですら手を出せなかった魔眼だ。森の王より上の存在だから神だと判断しても、それは仕方ないだろう」
飛びトカゲの言葉に、頭を抱え込みたくなる。
救世主って……そんなたいそうな者じゃない。
しかも森の復活とか、知らない間にそうなっていただけなんだが。
「森から魔眼が消えた前後に、主の姿が見られたことで森の神として認識されたのかもしれないな。まぁ、神に等しい存在なのだから当然だが」
ん?
最後の方は声が小さくて聞こえなかったが、何を言ったんだ?
飛びトカゲを見るが、首を傾げてそれ以上は何も言わない。
それにしても、森の神か。
……これって、もう俺の手に負えないよな。
「はぁ~、まじか~」
「諦めも肝心だ」
アイオン神の言葉に睨みつけるが、肩を竦められた。
確かに人の思いを変えるのは無理だろう。
飛びトカゲが言ったような状況で俺を認識したなら仕方ないのか?
「ただ、翔は神とはまた違うんだよな」
アイオン神の言葉に視線を向ける。
どう言う意味だ?
「神は神力を通して、何処にいてもやり取りができる。だが、翔には無理だった。神力を通して話しかけたが、気付かなかっただろう?」
アイオン神の言葉に頷く。
日常でアイオン神の声を聴いたことは無い。
「だから神とも違うんだよな」
相変わらず俺は中途半端な存在なんだな。
それにしても、遠くに離れていてもやり取りができるなんていいな。
あれ?
何か忘れてる?
……あっ、設定だ。




