56.答えを探して
ー一つ目リーダーの視点ー
まさか私とした事が!
森の中を疾走しながら、頭をぽかぽか叩く。
主の質問に答えられない状況を作るとは、何たる失態をしてしまったのか。
急いで、この世界の年代と月や日も調べなければいけません。
他に、主が必要とする情報は何でしょうか?
血液型でしょうか?
それとも星座でしょうか?
もしかしたら、今日の運勢が必要かもしれません。
駄目です。
あまりのショックに思考が混乱しているような気がします。
落ち着かなければ。
深呼吸です。
「スー、ハー。スー、ハー」
よしっ。
とりあえず、人間の国へ行って年代を調べましょう。
まずは、主が訊いた事を確実に調べなければ。
それにしてもうっかりしていました。
森の中で生活をしていると、今が何年なのかなど、全く気になりませんから。
気になるのは季節ですね。
収穫時期や、種まきの時期などに関係してきますから。
あれ?
農業隊に聞けば、もしかして分かったのでしょうか?
動かしていた足がピタッと止まる。
先ほどのリビングに、農業隊はいませんでした。
今日は農業隊の数体が「普通の人の観察」に行っているので、残っている農業隊は全員畑仕事をしているためです。
ん~、これは訊きに帰るべきでしょうか?
しかし、知らなかった場合は時間のロスとなります。
でも、知っていたら一番早く答えがわかります。
「難しい問題ですね。どうしたらいいんでしょうか? ん? 彼らは何でしょうか?」
視界の隅に何かが動きましたので見ると、人のようです。
そう言えば、気にせず走っていましたがこの場所は何処でしょうか?
周りを見回すが、分からないですね。
「……ちょっと上から確認しましょうか」
近くにある大木を登っていくと、すぐに一番上に到着します。
周りを見回すと、少し離れたところに広大な畑が見えました。
気付かないうちに、人の国の近くに来ていたようです。
そう言えば、風の魔法を使って追い風を作って速度を上げていました。
「さっきの者たちは……いましたね」
森の中でおかしな動きをしていた人間たちを見つめます。
人数は3人。
何か森で探している様子です。
そして、彼らの持っているバッグから森の気配を感じます。
「もしかして不届き者ですか?」
私はまだ見た事が無かったのですが、報告が来ているのでその存在は知っています。
森の物を、無断で持ち出す者たちがいると。
あれがそうなのでしょうか?
風に乗って彼らの声が聞こえますね。
「どれだ?」
「これか?」
「あぁ、それだ。これだけあれば荒稼ぎできるな」
間違いなく不届き者ですね。
これはいけません。
主の質問の答えも大事ですが、主が大切にしている森を荒らす者をゆるす事は出来ません。
間違いなく天罰が必要です。
「さて、どうしてやりましょうか」
主は、優しいので怖がらせるだけにとどめるように言っていましたね。
怖がらせる……加減が難しいと皆が話していました。
加減とは、どれくらいすればいいのでしょうか?
岩が粉々にならない程度なら、問題ないでしょうか?
それとも、マグマほど熱くなければいいのでしょうか?
「困りました。加減のほどがわかりません。間違って旅立たれては困ります」
「あった。この花だ」
彼らの言葉に視線を向けます。
白い花が揺れていますね。
その花は、主も気に入っていましたね。
「引っこ抜け。そいつの根が必要なんだ」
引っこ抜け? ですか?
ボコッ。
「ガハッ」
「うわっ」
「なんだ!」
おや?
私の足下に何かありますね。
……いつの間に!
何故でしょうか?
視線の先にいた者が、なぜか足の下で転がっています。
はて、何があったのか……。
「なんだこいつ。おい、何なんだよお前! 気持ち悪いな」
不愉快です!
私は主に作られた、主のためのゴーレム。
とても誇り高き存在です。
それを何という暴言ですか。
「うわっ。やめろ!」
「ぎゃ~!」
……2人の不届き者が私の傍で倒れています。
主が作った私を、馬鹿にする事は許しません。
なので、これは当然の報いです。
3人の息を確かめます。
良かった。
枝を折るぐらいの力でよかったのですね。
最大限の加減をして正解でした……弱すぎませんか?
まぁ、それはいいです。
「しかし困りました。この者たちはどうしましょうか」
ここに放置しては、また花を狙うかもしれません。
そうしないためにも、連れていくしかありませんね。
ちょうど人の国へ行くのです。
一緒に行けばいいでしょう。
「今の私では少し無理ですね」
3人ぐらいなら担いで行けますが、背が低いため少し不便です。
力を食うので不測の事態の時しかしませんが、大きくなりましょう。
「これぐらいでいいですね」
主と同じくらいの背になっているはずです。
さて、人の国へ行きましょう。
かなり時間をロスしてしまいました。
戻るか迷いましたが、この者たちの事もあるため人の国へ行く事にします。
さて、肩に3人を纏めて担ぎ上げ、人の国へ向かって走ります。
「やはり先ほどより速度が落ちますね」
もっと鍛えなければ駄目ですね。
それにしても、人の国に近付くと、森の雰囲気が変わりますね。
低い木が増えてきます。
おっと葉っぱが、危ないですね。
ばしっ。
「ぐっ」
こちらは枝が出てますね。
ばしっ。
「ぎゃっ」
何でしょう、先ほどから後ろが少しうるさいです。
意識が戻った様子が無いのですが……まぁ、気にしている時間はありません。
とっとと行きましょう。
「ん? あれは混ぜ物ですね」
どうも戦っている者たちがいるようですが、押されているようです。
コアが言っていましたね、混ぜ物は不要のものだと。
通り道です、少しお手伝いをしていきましょう。
ドガッ。
「えっ!」
綺麗に飛び蹴りが決まりました。
ついでに他の混ぜ物も蹴り上げていきましょう。
ドガッ。
ボコッ。
バコッ。
これで完了です。
しまった、また時間のロスです。
急ぎましょう。
「あっ、待って……」
申し訳ありません。
今は時間が無いのです。
「見えてきました」
人の国の畑が広がっています。
さて、肩に担いでいる者たちはどうしましょう。
「きゃっ」
「なに?」
叫び声が聞こえたので、そちらに視線を向けると私を見て驚いているようです。
何でしょう。
……叫ぶだけなので問題ないですね。
「あれは……」
高い壁が見えてきました。
乗り越えていいのでしょうか?
おや、その前に人がいますね。
ん?
人が増えましたね。
ちょっと豪華な服を着ている者もあらわれました。
そうだ、彼らにこの者たちを任せて年代を訊いてみましょう。
「な、何か御用ですか?」
どうしたのでしょうか?
異様に汗をかいて焦っている様子です。
病気でしょうか?
もしそうなら、肩に担いでいる者たちを渡しても大丈夫でしょうか?
せっかく加減ができたのに、病気で死んだら嫌です。
「病気ですか?」
「えっ?」
何でしょう?
言葉は通じてますよね?
主は、我々ゴーレム全員に通訳魔法を掛けてくれてますから。
「病気ですか? 顔色が悪いようですが」
もう一度訊いてみましょう。
それにしても、どんどん顔色が悪くなっていきますね。
面白い変化です。
「大丈夫です。問題ありません」
……本人が大丈夫と言うなら大丈夫なのでしょう。
青を通り越して白いですが、大丈夫と言っているので確認は止めておきましょう。
「それで――」
「こちらをお返しします」
肩に担いでいた3人を、目の前の人に放り投げます。
しまった。
彼らが森から取った物をバッグから出し忘れてしまった。
転がった1人から、バッグを取り上げ中を確認します。
ありました。
木の実を取っていたようです。
「それは!」
「これは森の物です。返してもらいます。……何か問題でも?」
「いいえ、ありません! まったく、全然ありません!」
本当に大丈夫なんでしょうか?
息が荒いですが。
「分かりました。ところで、この世界は何年で今日は何月何日ですか?」
「はっ?」
早く質問に答えてください。
一刻も早く、主に答えなければなりませんから。




