49.夜中の訪問
「主、起きて。主!」
耳元で声がする。
何だ?
眠い目をこすりながら、周りを見る。
誰もいない。
気のせいだったか、ねむい。
「主! 起きて!」
「ひっ」
声がやっぱり……あれ? この声。
「ロープか?」
「そうだよ。どうしたの?」
驚かせるつもりは無かったんだろうな。
たぶん、そうだろう。
ただ寝ていたから、起こしただけだ。
そう言えば、夕方にロープに声を掛けていたっけ。
「そうだった。俺が呼んだんだったな」
ため息を吐くと、恐怖で早くなっていた心拍が少し落ち着く。
「そうだよ? それより用事は何? 何をしたらいいの?」
寝起きでだるい体を起こしながら、窓の方を見る。
薄っすらと明るさが見えた。
おそらく、夜明け前だろう。
まだ寝ている時間だ。
いや、起きている子たちもいる。
でも俺は寝ている時間だ。
「主?」
声の調子から、テンションが高いのがわかる。
今、そのテンションはちょっとつらい。
「あぁ、えっと」
何だっけ。
なんで呼んだんだっけ?
……アイオン神だ。
「アイオン神に伝言を頼みたかったんだ。お願いしていいか?」
「アイオン神に? 分かった。すぐに送るね」
少しの間、静かになる。
おそらく伝言を送ってくれているのだろう。
それにしても、ロープの話し方がいつもと少し違うような。
……いや、分からないな。
今、俺はかなり眠い。
こんな状態で気付いた事など当てにならない。
きっと気のせいだろう。
「送った」
「ありがとう」
やばい、睡魔に負けそう。
「主、この世界の事を詳しく調べたんだけど」
調べた?
そう言えば、そんな事を言っていたような気がするな。
何か分かったのだろうか?
「そうか」
「おかしいよ。この世界」
それは、おかしいだろう。
核の周辺の魔力が呪われているのだから。
あっ、まさか……それ以外にも何か見つけたのか?
うわ~、聞きたくない。
「あと少しで、何かが掴めそうだから。もう少し待っててね」
大した事じゃないといいな、本当に。
「あれ? 主、眠いの」
そう、眠いです。
「ごめん。寝てたのに、起こしちゃって」
「いや、アイオン神には早めに連絡をしたかったから、ありがとう」
伝言を聞いてすぐ来てくれるとは限らないからな。
「主の助けになれてよかった。帰るね。お休み」
「お休み」
もう駄目、ねむい。
バタンと後ろに倒れる。
……。
「ふわぁ……眠い」
すごいな。
ベッドに倒れた後の記憶が一切ない。
あの後、瞬間的に寝たのか?
寝つきよすぎだろう。
なのに、なんでだ?
まだ眠い。
「主。起きたか?」
声に視線を向けると、一つ目が首を傾げて俺を見ている。
「あぁ、起きた。おはよう」
「おはようです。主……やはり他の魔力が。体に異常はないですか?」
他の魔力?
体に異常?
目の前の一つ目を見ると、俺の体をじっと見つめている。
何かあるのかな?
「俺の体に異常があるのか?」
俺の力に何かあるとこの世界に影響があるかもしれない。
何が起こっているのか、確認しないと。
「主の魔力で間違いないけど、何か違うものもあるような気がする」
俺の魔力に俺の魔力だけど違うもの?
……さっぱり、意味が分からない。
「あ~る~じ~。どうしたのですか?」
部屋の扉が開いたと思ったら、すごい勢いで部屋に駆けこんできた一つ目。
その迫力に体がビクンと震える。
何だ?
「主……あぁ~、本当に主の魔力に違う魔力が混ざっています。ほんの少しですが。何があったのですか? 体調は悪くないですか?」
迫力がすごいが、心配されているようだ。
この一つ目はリーダーの子だな。
「大丈夫だから、落ち着け。少し眠気が抜けないぐらいだ」
ぐっと近づく一つ目のリーダー。
いや、その迫力は怖いから。
背を反らしていると、一つ目のリーダーが後ろにグイっと引っ張られた。
見ると、最初にいた一つ目がリーダーの肩を引っ張ってくれたようだ。
それを見て体から力が抜ける。
なんか、すごい気迫? みたいなのを感じた。
「夜中に主を見に来た時は、何も問題が無かったのに!」
いつもの言葉遣いではないリーダーの一つ目に、ちょっと笑みが浮かぶ。
あれ?
今、何かおかしな事を口にしなかったか?
夜中に俺を見た時?
「……夜中に家の中の見回りでもしてるのか?」
「えっ? いえ、主――」
「そうです。見回りです!」
一つ目リーダーの言葉を遮る、もう1体の一つ目。
何か、2体が別の事を言っているような気がするんだが、気のせいか?
リーダーの一つ目を見る。
視線が合うと、頷いた。
「そうか。見回りか」
何だろう。
何か、誤魔化されているような気がするんだが……。
まぁ、今はそれよりもっと重要な事があるな。
「確認だが、俺の魔力に他の魔力が混ざっているんだな?」
俺の言葉に、頷く2体。
どういう事だ?
他の魔力……思い当たるのがあるな。
闇の魔力だ。
俺の体内ではなく、外で復元したから大丈夫だと思ったんだが。
「周りに影響があるかもしれないな」
「それはどうでしょうか? 本当に微々たる量ですから」
一つ目のリーダーの言葉に、ちょっとホッとする。
今、この世界に刺激を与えたくないからな。
「分かった。ありがとう」
一つ目たちと話をしていると、纏わりついていた眠気が消えていた。
もしかしたら、闇の魔力の影響だったのかもしれないな。
とりあえず、自分の中にある魔力を感じるために目を閉じて意識を内へと向ける。
じんわりと伝わってくる、馴染みのある魔力。
そのままどんどん、中へ中へと意識を向けるとパッと違う力強い力を感じる。
これが新しい力。
魔力と比べると、本当に力が強いと感じ取れる。
あれ?
闇の魔力は何処だろう?
意識を少し外へと向けると、馴染んだ魔力が強くなる。
微々たる量だと言っていたな。
……おかしい、何処にあるのか分からない。
……本当に見つけられないんだが、何処にあるんだ?
魔力の中を漂うように意識すると、スーッと魔力が流れていく。
「あった」
流れていく魔力の中に、確かに本当に小さい違和感を覚えた。
その違和感に意識を向けると、目の前に小さな魔力があった。
間違いなく、闇の魔力だ。
それにしても、こんな小さな魔力を感じた一つ目たちの能力の高さに感心してしまう。
俺はあると思って探したから見つけられたが、言われなかったら気付かなかっただろう。
闇の魔力を目の前にして考える。
たぶん影響を及ぼすほどの量ではない。
なので、このまま放置で大丈夫のような気がする。
……様子を見ようかな。
意識を外に向けると、ふっと体が軽くなる。
瞼を開けると、2体の一つ目がじっと俺の様子を窺っている。
「主? 問題ありましたか?」
いつも通り落ち着いた声を出すリーダーの一つ目。
ようやく落ち着いたようだ。
それにふっと笑うと、首を横に振る。
「大丈夫。いつもの魔力に混ざっているのは闇の魔力で間違いない。だが、量が少ないから様子を見る事にする」
「分かりました。何か見て変化があったら言いますね」
「あぁ、頼むよ」
本当に、一つ目たちは頼りになる。
「さて、起きるか」
そう言えば、話している間に眠気が無くなった。
良かった。




