48.ゴーレム達の反省会
ー一つ目リーダーの視点ー
「では、『今日の反省会』を行います」
リビングにあるテーブルに並ぶ仲間を見回す。
今日はいつもと違い、全員が少し緊張しているのが窺える。
それもそうだろう。
主から注意がきたのだ。
正直、衝撃だった。
だが、ここで悲しんでなどいられない。
主のために、我々は存在しているのだから、主の思いを汲まねば!
「本日、主より『自分は普通の人だ』という言葉を頂きました。我々は主を特別な存在にするべく邁進してきましたが、それは間違いだったようです。ですので、今日から方向転換をいたします。異論はありますか?」
私の言葉に、全員が背筋を伸ばす。
異論は無く、皆やる気のようです。
その姿を誇らしく思いながら、話を続けます。
「では、まず普通の人とは何かを考えたいと思います」
私の言葉に、皆が困惑した雰囲気を出します。
私も少し不安です。
普通が分からない!
「主は、『平均的な、一般的な人』と言ってました。色々考えたのですが、上手く説明できません。誰か、詳しく説明できる者はいますか?」
仲間を見回すが、どの者も首を横に振っている。
「これは、困りましたね」
さて、どうやって普通の人を理解すればいいのか?
今日はずっと考えていましたが、何も思い浮かびません。
主から出された、とても重要な事柄だというのに!
私は無力です。
挫けそうです。
ですが、ここで挫けているわけにはいきません!
主のために何がなんでも普通の人がどんなものなのか知らなければ!
「あの、よろしいですか?」
声を発した小鬼の1体に視線を向ける。
小鬼は解体のスペシャリストを目指すべく、日々いかに早く上手に解体できるかを研究しています。
最近、主が小鬼の解体作業を見つめて「すごい」と言っていました。
あの日の小鬼達の喜びようは、すごかった。
私も主から「すごい」と言われたいものです。
おっと、今はそれは関係なかったですね。
気を取り直して、
「どうぞ、何か意見がありますか?」
「はい。普通の人を観察し研究をしたらどうでしょうか?」
普通の人を観察して研究ですか。
それはいい案かもしれませんね。
普通の人が分からない我々がいくら話し合っても、答えは出ません。
「それはいい案だと思います。皆さんはどうですか?」
「我々は賛成です。ですが普通の人をどうやって探しますか?」
農業隊の代表として、農業隊のリーダーが賛成を示してくれた。
そして次の問題も。
確かに、普通の人が分からない我々が普通の人を見つけられるでしょうか?
「そうですね。まずは……色々な人を見て、平均的な人を探しましょう」
普通の人とは平均的な人です。
多くの人を見て、平均を出し、それに当てはまる人を探せばいいと思います。
「なるほど。それだと普通の人を探し出せますね」
三つ目が頷き、私を見る。
他の者たちも賛成のようです。
良かった。
とりあえずは、何をすればいいのかわかりました。
「しかし、人だけでいいのでしょうか?」
農業隊の1体が首を傾げて言います。
それに、周りの者が不思議そうな雰囲気を出します。
私も、ちょっと意味が分かりません。
「どういうことですか?」
「観察するのは人だけでいいですか?」
人だけでいいか。
それは……どうでしょうか?
主の言葉を思い出します。
「主はこの世界に来る前は普通の人」だった。
「この国の人と同じで、同じではない」
……難しいですが、しっかりと考えなければ。
つまり?
「人と同じ姿をしているが、人とは違う力があるという事だろうか?」
なるほど!
この国の人と同じ姿をしている、だがこの国の人とは違い巨大な力がある。
そういう意味だったのですね。
しかし、この世界に来る前は普通の人だったというのは、どんな意味があるのでしょうか?
「崇めるのは、止めて欲しいと言っていたんだよね」
一つ目の1体が、考え事をしながらぶつぶつ言っています。
その内容に、ちょっとだけ残念だと思いました。
主の素晴らしさをこの世界に広めたかった。
いかに主が素晴らしく、素敵で、強く、優しいか。
……本当に残念です。
こっそりと広めてしまいましょうか……いやいや、主が嫌がっているのですから駄目です。
なんて事を私は考えてしまったのでしょう。
もっと、心を強く持たなければ。
「『前の世界では普通の人』と主が言った意味ですが、前の世界でも世界全体の平均的な人だったと伝えたかったのではないでしょうか? つまり、この世界でも人だけでなく、全ての種族の平均的な人という事では?」
ん?
えっと……この世界にいる全ての者たちを調べて平均を出す必要があるという事でしょうか?
本当にそうでしょうか?
何か、違和感が……ですが他に思い当たる事はありません。
あっもしかして、主が時々我々を試す「ちょっと難しく伝えるよ」でしょうか?
きっとそれですね。
「なるほど、そういう事だったのですね」
私が納得すると、皆の視線が集まります。
「主の試練を皆で乗り越えましょう」
私の言葉に、皆が片腕をあげてやる気を見せる。
「では、まずは観察から始めましょう。日々の仕事を疎かにはできません。そのため、少し時間が掛かるでしょうが、仕方ありません。その辺りは、主も理解してくれるでしょう」
優しい方なので。
「どのような順番で行きますか?」
「そうですね。それぞれの種族を観察するのは、それなりに時間が掛かりますから手分けして観察して報告していきましょう。我々は人を、農業隊は獣人を、三つ目たちと小鬼たちは協力してエルフを観察しましょう」
私の言葉に頷いて賛同してくれるが、三つ目たちと小鬼たちを見る。
彼らは一つ目や農業隊に比べて少ない。
観察するために、日々の作業に影響は出ないだろうか?
「三つ目たちと小鬼たちは大丈夫ですか? こちらからヘルプを出しますか?」
「いえ、大丈夫です。この頃は狩ってくる魔物の数がだいたい一緒なので、問題ありません。急遽、増えても対応できます。三つ目たちはどうですか?」
小鬼たちは問題ないようですね。
「我々も問題ありません。忙しいのは季節の変わり目だけですから」
三つ目たちも問題なしと。
「では、今私が言った通りで進めましょう。観察には時間が掛かります。そうですね……5日後に『第1回目の観察報告会』を開きましょう。それまで、時間が許す限り観察して来てください」
私の言葉に全員が力強く頷きます。
その姿は頼もしいです。
これで、主が求める普通の人を理解することができます。
「では、本日はここまで。5日後に」
それぞれが持ち場に戻るのを見送ります。
「お疲れ様です」
農業隊のリーダーが野菜が入ったカゴを持って傍に来ます。
「それは?」
「品種改良したものです。皆さんが食べた時の様子を見ていて欲しいのですが、お願いできますか?」
カゴを受け取り、中から1つ取り出します。
じゃが芋系でしょうか?
「分かりました。どのように品種改良を?」
「渋みを減らして甘さが増しているはずです。ですが、料理に合うか心配なのです」
なるほど。
料理として出した時に様子を見ればいいですね。
「分かりました。煮込み料理に使っても問題ありませんか?」
「えぇ、栄養価が高いので子供たちにもとてもいいと思います」
それは、いいですね。
子供たちの健康には、食事がとても大切ですからね。
天使のモモとスミレはぷくぷくしてましたが、太陽たちはまだ痩せ気味ですからね。
「ありがとう」
「いえ、では5日後に」
新しい野菜が手に入ると、ワクワクします。
さて、どんな料理にして主に食べていただきましょうか。
おや、そろそろ主から離れて2時間ですね。
一度主の様子を見てきましょう。
ん?
……人の観察が始まったら、主から2時間以上も離れる事になるのではないですか?
どうしましょう。
それは深刻な事態です!
「こうなったら、観察カメラを――」
バコッ。
「それは駄目。絶対駄目!」
後ろを振り返ると、サブリーダーの一つ目が仁王立ちしています。
……これは、本気で怒っています。
ちょっと、行き過ぎたのでしょうか?
ですが、諦められません。
こっそり……。
「ん?」
「いえ、人の観察を速やかに終わらせます」
「ゆっくり、じっくり見てきてください」
そんな!




