46.普通の人って?
ただの人だと何度か説明したはずなんだが、どうして崇める対象になっているんだ?
困った。
どう説明したら、理解してもらえるんだ?
ん~、……本当に困ったな。
何も思い浮かばない。
仕方ない、分かってくれるまで何度も説明するしかないか。
「いいか、俺はただの人だ。確かに力はあるが、普通の人なんだ」
「主は人ではないだろう?」
水色が不思議そうに俺を見る。
あれ、いつの間にここに?
周りを見ると、他の龍達も親玉さんたちまで集まってきていた。
「主?」
あぁ、水色の質問だったな。
えっと、ん? 人ではない?
……あっ、そうだった!
俺は人じゃない、よく分からない存在になっていたんだった。
忘れてた。
そうか、説明の仕方が悪かったのか。
「そうだな。俺は今は人ではない。だが、この世界に飛ばされる前は本当に普通の人だったんだ」
毎日仕事に追われる、普通の一般人!
「「「「「普通の人」」」」」
一つ目たちが、俺を見ながら首を傾げる。
何故、不思議がる。
一緒にいたら、俺がいかに普通の人……人じゃないならなんて言えばいいんだ?
あ~、もう!
「俺は、この世界の人と同じだと思う」
俺はこの世界の人を知らないが、大丈夫か?
何か、気になるな。
あっ、駄目だ。
この世界の人は、奴隷を当たり前に酷使するんだった。
慌ててクウヒとウサを見る。
2人とも、衝撃を受けている様子は無い。
良かった。
「ごめん。えっと、この世界の人と同じという事はないかな」
俺の言葉に、不思議そうな皆の視線。
そうなるよな。
分かる。
俺が聞く側でも、同じ反応すると思う。
とりあえず、落ち着こう。
慌てて説明しようとするから、こんがらがるんだ。
「主は、人だったと前もそう言っていたな」
親玉さんの言葉に頷く。
思い出してくれたみたいだ。
親玉さん、ありがとう。
「そうだ。その時の感覚を今も持っている。だから崇められるような存在と言われると、違和感があるから止めて欲しい」
よしっ、いい感じに説明出来たんじゃないか?
皆の様子を窺うと、それぞれ考えてくれているのが分かった。
良かった。
何とか、ここでちゃんと理解してもらわないとな。
森から出て宣教されたら、最悪だ。
「そうなのですね。森の神と言われているので、崇めるのが当然だと思っていました」
一つ目のリーダーが、小さく頭を下げる。
「いや、……ん?」
気にしないように言おうとしたけど、今何か不穏な言葉が混ざってなかったか?
森の……かみ。
まさか、神!?
そっと一つ目のリーダーに視線を向けると、短い腕を組んで何やら頷いている。
聞き直したい。
俺のあずかり知らない所で、俺がどう呼ばれているのか。
だが……非常に恐ろしくて、聞けない。
ここは聞こえなかった事にしよう。
「そうか。主は森の神と呼ばれるのは嫌なのか」
ふわふわの言葉が耳に届く。
しっかり、聞いてしまった。
誰だよ、森の神なんて言い出した奴!
止めてくれ。
「あぁ、俺はそう呼ばれるのは不本意だ。だから駄目だからな」
絶対にやめてくれ。
「森の神」なんて、すごい重いものが圧し掛かった気分になる。
それに、神という言葉に拒絶反応が。
……神の実態を見せられたからな。
うん、あれにはなりたくない。
「分かりました」
飛びトカゲの言葉にホッと胸をなでおろす。
良かった。
今回は前の時と違って、皆が納得したような気がする。
「主」
一つ目のリーダーが首を傾げながら俺を見る。
「なんだ?」
「普通の人とはどんな人ですか?」
「…………」
どう答えればいいんだ?
普通は、一般的な……感覚?
あれ?
普通って、なんだ?
「主?」
何か言わないと。
「あぁ、平均的な、一般的な人かな?」
一つ目たちを見る。
頷いているけど、分かってくれたんだろうか?
飛びトカゲを見ると、何か思案している様子。
これ以上の質問は遠慮したいが、許してもらえるだろうか?
「一般的ですか」
一つ目のリーダーの質問に頷く。
「なるほど。ん? しまった! 夕飯の用意をしなければ!」
一つ目のリーダーの言葉に、他の一つ目たちが慌てて動き出す。
どうやら話し合いはここで終わるようだ。
助かった~!
ありがとう、一つ目。
君たちの勤勉なところに感謝です!
「主、分かりました。普通の人がどのような者なのかしっかり勉強して、主に尽くしたいと思います!」
あれ?
通じたんだよね?
というか、普通の人を勉強?
「なるほど、我々もしっかり学ばなければ」
飛びトカゲの言葉に、眉間に皺が寄る。
なんで皆、学ぶ話になっているんだ?
それに学ぶって、まさか普通が何か学ぶのか?
「なんか、余計な事を言ったような気がする」
意思疎通に大切な言葉が通じるようになったはずなのに、なぜだろう。
物凄い巨大な壁が立ちはだかっていると思う。
おかしい。
言葉は通じているのに……。
「はぁ。まぁ、今日はこれぐらいで、次の機会に頑張ろう」
そうだ。
俺には、まだやることがあるんだった。
リビングに戻り、ベビーベッドに近付く。
そっと中を覗くと、1匹は目を覚ましていたが、2匹は目を閉じている。
寝ているのかな。
「……癒される」
あぁ、違う。
栄養? になるはずの闇の魔力をあげて様子を見ないと。
ズボンのポケットから、復元した闇の魔力を固めた魔石を出す。
「固めたけど大丈夫かな?」
溶かす方がいいのか?
でも、あの力をここで溶かすのはちょっと恐ろしいな。
とりあえず、魔石を卵に近付けて見るか。
勝手に闇の魔力を吸収してくれるかもしれない。
「上手くいくといいが」
魔石を卵の傍に置いてみる。
……何も起こらない。
やっぱり固めた闇の魔力を溶かさないと駄目かな。
「結界を厳重に張れば大丈夫か?」
あれ?
起きている1匹が魔石に反応しているな。
ピシピシッ。
「げっ」
魔石にヒビが入ってきてる。
固めたのが溶けてきたのか?
溶けるようなイメージは付けなかったのに!
「あれ?」
固める魔法をもう一度掛けようと、魔石に手を伸ばすが途中で止まる。
既に魔石のヒビからは黒い光が溢れていた。
が、黒い光は傍に在る卵にスーッと吸収されている。
「成功?」
あっ、卵の中の子達は大丈夫か?
卵の中を覗き込むと、3匹とも目を覚ましていた。
そしてきょろきょろと首を動かしている。
やばい。
何か、問題が起きたのかもしれない。
吸収を止めた方がいいのか?
「どうしよう……あっ、尻尾が揺れてる」
3匹はきょろきょろと不思議そうに首を動かしているが、苦しんでいる様子は無い
もう少し、様子を見ようかな。
「主、闇の魔力はケルベロスに届いたか?」
飛びトカゲがそっとベビーベッドを覗く。
「たぶん、大丈夫だと思う」
魔石にヒビが入ってから少し経つが、ケルベロスたちに変化は起きていない。
最初は戸惑っていたようだが、今は落ち着いている。
「そうだな。さすが主だな。まさか闇の魔力を作り出すとは」
「再現で作ったわけではないぞ」
飛びトカゲが、感心した様子で頷くが俺は記憶の中の力を真似ただけだ。
まぁ、今回は少し手こずったが。
「これで、生まれてくるかな?」
ちょっと楽しみだな。
あっ、ケルベロスがここにいるって魔界に知らせなくていいのかな?




