45.教育なのか!
子供たちの寝顔を見る。
さすがに今日は疲れたのか、おやつの後は次々と睡魔に負けていった。
なんだろう、久しぶりに家の中が静かだ。
「そう言えば、光はどうした?」
太陽たちと一緒にいると思ったがいなかったし、今もまだ家に帰ってきていない。
「光なら、コアたちと一緒に森で特訓中ですよ」
声に視線を向けると、森から帰ってきたところなのか体に葉っぱをつけたアイがいた。
「そうか。お帰り」
「ただいま。子供たちは寝てしまったんですね」
アイが太陽たちが寝ている場所に近付き、くんくんと匂いで様子を伺う。
アイと一緒に帰ってきたネアも興味深そうだ。
「久しぶりに、静かだな」
「本当に」
俺の言葉にアイがしみじみ言う。
その声に、すごく気持ちが籠っていると感じてちょっと笑ってしまう。
でももしかして、そうとう迷惑を掛けているんだろうか?
「子供たちの面倒は大変か?」
「えっ? 大変ですが、楽しいですよ」
アイが少し考えて答えてくれると、隣にいるネアも頷く。
「そうか。何か問題があったら言ってくれ」
俺の言葉に嬉しそうに尻尾を振るアイとネア。
2匹の頭を撫でると、尻尾の振り方が遠慮がちに激しくなった。
いつもはコアたちが近くにいて遠慮しているからな。
可愛い。
部屋を見回すと、おやつの後片付けも終わったのか一つ目たちがのんびり話をしていた。
そろそろ、話をしてもいいかな?
今日の事を踏まえて、何個か一つ目たちと約束と取り付けないとな。
言い負かされないように頑張ろう。
「一つ目達、ちょっと集まってくれ。話があるんだ」
俺の言葉に、一つ目のリーダーが全員を集めてくれた。
お昼寝の邪魔にならないように、ウッドデッキへと出る。
「今日は、子供たちの面倒を見てくれてありがとう」
まずはちゃんとお礼を言わないと。
任せきりになってしまっているしな。
俺の言葉に、一つ目たちがそれぞれ首を横に振る。
「どんどん、任せてください」
一つ目のリーダーの言葉に苦笑が浮かぶ。
俺がお願い事をすると嬉しそうにするが、甘え過ぎないようにしないと。
ダメ人間が出来上がりそうだ。
「ありがとう。ただお願いしたい事があるんだ。ヒーローごっこは家の中、もしくは庭だけにしてほしい。そして声を周りに響かせないで欲しいんだ」
俺の言葉に、不思議そうな雰囲気の一つ目達。
「森の中で急にあんな声が響いてきたら、驚くだろう? 森には獣人や人が来るから」
俺の言葉に、1体の一つ目がポンと手を叩く。
「それなら問題なしです。彼らには声を届けていないですから」
ん?
風の魔法で声を広げたって……あれ? 違ったか?
「主に子供たちの成果を聞かせたくて、今日は風の魔法を使いました」
……なるほど。
それで、俺の下には鮮明に声が聞こえたのか。
皆、噛み噛みだったけど。
「そうだったのか。それよりなんで急にヒーローごっこを始めたんだ?」
ずっと疑問に思っていたんだよな。
気付いたら、子供たちがヒーローになって家の中を走り回っていたから。
一つ目たちを見ると、なぜか俺をじっと見つめ返してきた。
「主が子供たちの教育などに悩んでいたので、我々も調べたのです」
一つ目のリーダーが、声に力を入れる。
その迫力にちょっと体が反る。
「そうか。大変だったな」
えっと、つまり俺が教育に悩んでいたからヒーローごっこを始めたと?
ヒーローごっこと教育にどんな関係があるんだ?
「主が心配したように、子供たちは見た目の年齢の割に少し子供っぽいところがあります」
そうなのか?
いや、俺はそれには気付いてなかったんだが。
でも、確かに見た目は8歳ぐらいだけど、行動が子供っぽいか?
いや、でもあんなもんじゃないか?
……久しく子供と触れ合っていないから、分からん。
「なので、情緒面の成長を促そうと」
何だか、思ったよりすごい話になってきた。
「情緒面の発達にはごっこ遊びがいいそうです。それでヒーローごっこを取り入れる事にしました。空想が子供たちの成長には良いのだとか」
そうなんだ、知らなかった。
「子供たちは少し、勝手な所が強かったです。自分本位というか。なのでヒーローごっこの遊びを通して、仲間の大切さを学んでもらおうと思いました」
そう言えば、最近皆で協力しているのをよく見るな。
ちょっと前までは、すぐに他の子の物を取って喧嘩に発展してたのに。
すごい、ヒーローごっこの教育が成功してる。
「ヒーローごっこのストーリーは、子供たちが考えています。空想したモノを自分の口で話す。これもいい教育だそうです。残酷な空想をする時もありますが、それは相手にとても嫌な感情をもたらす事を教える事が出来ます」
すごいな。
ヒーローごっこって、色々勉強になるんだな。
「主の心配がこれで少し減ると思ったのですが」
ごめん。
俺の心配は、子供たちがこの世界に馴染めるかどうかだった。
「ありがとう。すごいな一つ目たちは」
いや、本当にすごい。
一番重要な事をしてくれたんだから。
「本当にありがとう」
一つ目たちの数体がぐっと手に力を入れたのが見えた。
もしかしてガッツポーズか?
可愛いな。
「後は、力加減を教育出来れば第一段階、完了です」
力加減か、確かに重要だな。
今日の子供たちの話はちょっと引いたからな。
ん? 第一段階?
次があるのか?
「第二段階があるのか?」
「もちろん! それぞれの得意分野を伸ばす事です」
得意分野を伸ばす。
まぁ、それも重要だな。
そう、重要だ。
「そのため、今我々は急いで色々な知識を詰め込んでいます。そして第三段階は子供たちの夢を実現させる事です!」
夢か。
そうだな成長したら皆それぞれの夢に向かってここを出ていくんだろうな。
まだ先の事なのに、ちょっと悲しい。
「主を支える者たちとしてしっかり教育しますので、ご安心を」
先のことまで考えて……ん?
最後、何かおかしくなかったか?
「主を支える」とか言わなかったか?
主は俺の事だよな。
俺を支える?
「森を出て各自分野で名をはせ、それぞれが主の素晴らしさを広げれば、すぐに主を信仰する――」
「ストップ!」
しんこうってなんだ?
まさか信仰か?
いやいや……えっ、何処に向かっているんだ?
そうか、俺の知らないしんこうがあるのかもしれない。
「しんこうって?」
「神仏などを信じて崇めることです。つまり、主を信じて崇めることです!」
やっぱり信仰か!
頭痛がしてきた。
「えっと、それは駄目だ。信仰はさせなくていい」
「「「「「えっ!」」」」」
一つ目たちが、驚いた声を出す。
声が出てないモノも、驚いているのがわかる。
というか、いつから信仰なんて話が出てたんだ?
「俺は、崇められたいとは思っていないから」
ため息を吐き、一つ目たちを見る。
今日、話して良かった。
知らない間に、恐ろしい事になっているところだった。
「そんな……」
一つ目達とは違うところから声が聞こえた。
視線を向けると、シュリが俺を見て固まっている。
「どうしたんだ?」
「崇めたら駄目なのか?」
嫌な予感がする。
今の訊き方は、これからというより既に崇めているように聞こえた。
えっ、まさかね。
「……」
口が開くが声が出ない。
答えを聞きたくないと本気で思ったのは初めてだな。
だが、確認しないと。
「崇めてるのか? 俺を?」
「当然です。主は森で最も尊い存在ですから」
「……」
シュリの言葉に、一つ目たちが当然と頷く。
誰か、ヘルプ。




