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異世界に落とされた…  作者: ほのぼのる500
綺麗になったら修復です!
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44.特別調査部隊ピッシェ副隊長

―エンペラス国 特別調査部隊 ピッシェ視点―


あれは、アバルとラーシか?

いつもと雰囲気が違うが、何かあったのか?


「何をしているんだ?」


テントの前で深刻そうな表情で話す2人に声を掛けたが、何があったんだ?

アバルに視線を向けると、いつもはしない表情をしている。

絶対に何かあったな。

どうするべきか。

この2人は、立場は俺の方が上だが先輩だ。

それぞれ自分たちで対応できる能力を持っている。

だが、アバルの様子が今までと少し違うような気がする。

ラーシは、普通を装っているが困惑しているようだ。

同じ隊に配属されてかなり親しくなったと思うが、どこまで食い込むべきか。

もう少しだけ話してから決めるか。


「何かあったのか?」


アバルが露骨に視線を逸らしたのは初めてだ。

こういう時は、少し様子を見るのがいいのかもしれないが……。


「ピッシェ副隊長は、何をしているんだ?」


今は、ラーシの話に乗るか。

それにもしかすると、この特別調査部隊が変われるチャンスかもしれない。

まぁ、ただの勘だけど。


「あぁ、ホルフェとマフェが働き過ぎだから、討伐する数を1人1匹までに制限しようかと思って」


「「はっ?」」


まぁ、1人1匹なんて討伐中のあの混乱の中で、出来るわけないけどな。

でも現状を変えるためなら、無理だと分かっていても言うだけ言わせてもらう。

どうせ、ここだけの話だし。


ホルフェとマフェが獣人だからと、誰もが当たり前のように仕事を押し付ける。

問題は、それをおかしいと誰も感じていない事だ。

それどころか、されている方もそれが当たり前と受け入れてしまっている。

そしてそれは隊長にも言える。

俺は、それを変えたい。

能力の関係で、仕事の量が違うのは分かる。

だが、隊長やホルフェ、マフェに回る仕事はそういう区別ではない。

ただ、獣人だからというだけで回される下っ端がする仕事だ。

そんな事は、決してあっては駄目だ。

全部を変えるのは無理だが、特別調査部隊ぐらいなら変える事が出来るはずだ。

俺は、副隊長という地位なのだから。


「もしくは1チームで2匹までとか。とにかくあの2人に少し制限してもらって、他の奴を働かせようと思って。そう言えば、体調の悪い奴はこの中にいるか?」


書類をアバルに渡すと注意深く観察する。

戸惑ってはいるが、今までとは少し違うな。

これはもしかして、期待してもいいのか?


「どういう事だ? 彼らも今日は頑張っただろ?」


ラーシも違和感を覚えていると思ったが、俺の気のせいか。

ラーシをじっと見る。

視線が合うと、気まずく感じたのかすっと視線を逸らされた。

なるほど、気付いているが認めたくないという奴か。

その態度に嘲笑(ちょうしょう)する。

甘えるなよ、そんな事が許されるわけないだろ。


「気付いてないのか? ホルフェかマフェと組ませると、この2人に自然ときつい仕事が行く事に」


正しくは本人たちの能力にあった仕事にプラス、他の隊員がすべき大量の仕事だが。

細かい説明は要らないだろう。


「「えっ?」」


ラーシとアバルの言葉は同じだが、表情は違うな。

アバルは、どうやら気付きだしたという感じか。

驚いた後に、何かに気付いたような表情を見せた。

ラーシは、まさか俺がそれを指摘するとは考えていなかったんだろうな。

2人の様子を見て、アバルに視線を向ける。


「無視をしてたわけでは無いみたいだな。気付ていなかったって感じか」


ラーシがピクリと体を揺らすのが分かった。

だが、今は無視だ。


「……わるい」


「俺に謝ってもな」


ホルフェとマフェに謝っても、きっとその思いは届かないだろうけど。

それは隊長も同じだ。

彼らをああいう風にしてしまった責任は、人にある。

俺は生まれた時から、獣人達に面倒な事は全て押し付けるのが当たり前だった。

だが、変わらなければならないんだ。

今、このエンペラス国で人が生活できるのは、獣人達が猶予をくれたからに過ぎない。

変わらなければ、人はエンペラス国から排除される事だって考えられる。


「ピッシェ副隊長は、いつ気付いたんですか?」


アバルを見ると、じっと俺を見ている。

話し方がいつもと違う。


「何を?」


アバルが何を訊いているのか分かっているが、あえて訊いてみる。

しっかりアバルの口から、聞きたい。


「隊長たちが、まだ過去に囚われていると」


アバルの表情を見る限り、向き合えたみたいだな。

経験値なのかな?

俺はすぐに向き合えなかった。

どちらかと言うと、ラーシのように悪あがきした。

ラーシを見ると、苦悶しているのがわかる。


「過去に囚われているのは、隊長たちだけじゃないだろ?」


俺の言葉に2人ともが反応を返す。


「まぁいいけど。違和感を感じたのは、混ぜ物に襲われた村に行った時だな」


俺に回されるはずの仕事を全部やられたら、嫌でもおかしいと気付く。

最初は、俺に回る仕事の少なさに疑問を持った。

そして、俺の仕事を隊長が片付けている事に違和感を持って、隊長に仕事を自分に回すように言ったんだよな。

あの時の隊長の「なぜ? いつもと変わらないだろう?」という言葉と、あまりに不思議そうに俺を見る視線に唖然とした。

いつから俺は、隊長に自分の仕事を回していたのか。

なぜそれに、気付かなかったのか。

変わったと思った今が、未だに過去に囚われていると知ってどうするか考えた。

答えは簡単だ。

間違いだと思うなら、正すしかない。

その答えに辿り着くまで、結構時間が掛かったけどな。


「現状を変えるためにどうするか考えている」


ほんの些細な切っ掛けで変われると思う。

俺のように、時間が掛かる者もいるだろうが。

でも、何もしなければいつまでたっても変われないから。


「手伝う。今まで気付かなかった俺が言うのも、間違いかもしれないが」


アバルの言葉に、笑みが浮かぶ。

彼なら色々経験しているから、いい助けになる。


「俺も手伝うよ。まぁ、俺の場合はまず自分からだろうが」


ラーシに視線を向けると、何かを決めた目をしていた。

これなら大丈夫だろう。


「何をしたらいいと思う?」


さっそくで悪いが、何かいい案は無いだろうか?

色々考えてはいるんだが、なかなか上手くいかないんだよな。


「そうだな。隊長たちに仕事の量を減らすように言ってみたらどうだ」


アバルの言葉に首を横に振る。


「隊長には既に言ったが、不思議そうに首を傾げられただけだった。今は隊長の机の上にある書類を勝手に見て、俺の分だけ確保しているよ。少し時間が遅くなると終わらせてしまうから、結構大変なんだ」


始めたのは数日前からだけどな。


「そうか」


アバルの眉間に皺が寄る。


「俺たち人の方に気付かせる方が、早く対処できるんじゃないか?」


ラーシの言葉に、確かにと頷く。

要は、仕事を回さなければいいんだもんな。

だが、どうやって気付かせればいいんだ?


「でも隊員を集めて説明しても、伝わらないかもしれないな」


ラーシの言う通り、言葉だけで伝えてもいいように解釈される可能性がある。

誰も、自分たちが仲間を奴隷のように扱っていると考えたくないはずだ。


「個別に会って、質問に答えていってもらう方法を取るか」


アバルの提案に首を傾げる。

質問に答えていく方法?


「これだと、自分の行動を振り返って考えることが出来るはずだ」


なるほど。

確かにいいかもしれない。


「そうだな、それでやってみよう」


これだけで解決するとは思わないが、まずは始めないとな。


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― 新着の感想 ―
なるほど。 単に個人の力量ではなく、これまでの積み重ねからくる問題なんですね。根深いなぁ。
[気になる点] 誤>そんな事は、けしてあったは駄目だ。 1>そんな事は、けしてあっては駄目だ。 2>そんな事は、けしてあったら駄目だ。
[一言] 班行動してる連中にちゃんとローテーションするよう指導せんと 獣人居ない班になった時獣人が居ないから戦えませんじゃ困るしな
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