表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に落とされた…  作者: ほのぼのる500
綺麗になったら修復です!
282/672

41.急に?

「あそこだよ~」


子蜘蛛の1匹が指す方向を見る。

洞窟の前に子供たちの姿がある。

だが、悪の王、バッチュの姿が無い。

悪役は誰がやっているのかと周りを見回す。


「あっはっはっは。どうだここまでは来られないだろう」


「あっ……いた」


洞窟の上に、両手を左右に広げている一つ目を見つけた。

その姿にちょっと驚く。

一つ目は黒い服に黒いマントを着ていた。

確かに、それの方が悪役っぽく見える。


「悪役が増えてる」


一つ目の左右には3匹ずつ子アリ達の姿があり、お揃いの黒い布を首に巻いている。

可愛いな。


「あれ? 一つ目の手に持っているのって、まさかメガホンか?」


いや、確かに洞窟前と洞窟の上だとちょっと距離があるけど……。

そこは拘らないのか?

メガホンを使う悪の王の姿は、正直笑える。

怖さ半減って感じだな。


そうだ。

のんびり見ていては駄目だった。


「一つ目も太陽たちも声をもう少し抑えてくれ。森に響いている」


湖からこの洞窟まで結構な距離があるのに、声が届いていた。

どうやってあれほど離れている場所に、響いてきたのか分からないが急に聞こえたらびっくりする。

そう言えば、獣人達は耳がいいんだったな。

森にも入ってきているし、急にあの声が聞こえたら怖いだろうな。

まだ森の中心部分には足を踏み入れていないから、聞こえていないとは思うが。

後でちょっと見回るか。


「主、大丈夫だ。周りにも聞こえるように風を使って広げただけだから」


待て、何が大丈夫なんだ?

風の力まで借りて森に声を響かせた理由は何だ?


「なんでそんな事をしたんだ?」


「私の存在を――」


「主! 悪の王、バッチュがなかなか倒れてくれない」


一つ目バッチュの声を遮って、風太が悔しそうに口を尖らせる。

太陽と雷と翼も悔しそうに、何度も頷く。

だがそれを、俺に言われても困る。

洞窟の上を見る。


「バッチュ、ヒーローごっこはお終い。降りておいで」


あの一つ目の名前は、バッチュでいいのか?


「……仕方ない。ヒーローの親玉が来たので、今日の所はこの辺りで引いてあげます」


いや、勝手にヒーローの親玉に配役しないでくれ。

そもそも、ヒーローに親玉っておかしくないか。


「主、ヒーローの親玉なの?」


太陽が瞳をキラキラさせて訊いてくる。

それに慌てて首を横に振る。


「違うから!」


「あっはっはっは」


まだやってる。


「いいから早く降りておいで! ついでに風の魔法で声を広げない!」


あれ?

風の力を借りているなら、あのメガホンは何のために持っているんだ?


「あのメガホンって」


「悪の王バッチュの武器だよ!」


翼が元気に答えてくれるが、その言葉にちょっと驚く。

メガホンが武器って。

いや、剣を振り回されても困るから、それでいいのか。

危なくない武器を選んでくれたという事なのかもしれないが、他にもっとなかったか?


「主、どうしたの?」


「いや、なんでもない。あれ?」


普通に話しているな。

噛んでない。


「湖の広場にいた俺にも声が届いたんだが……」


俺の言葉に頬を染めて恥ずかしそうにする子供たち。

もしかして恥ずかしかったから噛んだのか?


「皆にヒーローの存在を知ってもらおうって悪の王バッチュが急に言いだして、声を広げるから……緊張しちゃった……へへっ」


翼の言葉に、他の子達も恥ずかしそうに頷く。

可愛すぎる。


「そっか。おっ、太陽たちもヒーローの衣装なんだな」


子供たちを見ると、色は違うがお揃いのズボンを履いている事に気付いた。

太陽が赤色のズボン。

風太が青色のズボン。

雷が黄色のズボン。

翼が緑色のズボンか。

戦隊モノでよく見かける色だよな。

確か、俺が見ていた時の紅一点は桃色だった。

なんか懐かしいな。


「桃色は誰なんだ?」


「桃色は桜だよ。橙色が月で深紅が紅葉!」


5人じゃなかった。

全員でヒーロー役をしているのか。


「そうか。桜たちは何処にいるんだ?」


周りを見ても、何処にもいない。


「洞窟内で捕まっているよ」


捕まっている?


「じゃ、急いで助けに行こうか」


洞窟内か。

暗いから、怖がっているかもしれない。


「大丈夫だ」


後ろからの声に振り向くと、シュリが3人を乗せて洞窟から出てきた。

桜も月も紅葉も俺を見ると嬉しそうに手を振る。

それにほっとする。


「ありがとう。洞窟の奥にいたのか? 怖がってなかったか?」


「この洞窟はそれほど広くないから大丈夫だ。ただ、手首を縛られていた」


「バッチュ、ちょっとおいで」


「何?」


一つ目バッチュが、不思議そうに俺を見る。

本当に分かっていないのか?


「本当に縛ったら駄目だよ」


「ん~、本格的に」


「駄目!」


俺をじっと見て、頷く。

本気だと分かってくれたようだ。

それにしても……メガホンが気になる。

いや、気にしないほうがいい。


「森の案内や魔物の確認などは終わったのか?」


コアやチャイは何処にいるんだろう?

確かコアが案内していると言っていたはずだが。


「行ってきたよ! 森の境界近くは、人や獣人がいるから行かないようにって。危ないんだって」


元気に答える雷の頭を撫でる。

危ないとはどういう事だろう?


「シュリ。彼らが子供たちを見つけたら、何かしてくる可能性があるのか?」


そんな危険な人物が森に入ってきているのか?


「いや、そうではない。子供たちはまだ加減が上手くないから、遊びの攻撃でも威力が強い。それに巻き込まれて人や獣人が怪我でもしたら、子供たちが気にするかもしれない。だから近づかないように言ったんだ」


あぁ、加減か。

大切だよな加減って。

そうか、危ないのが人や獣人の方か……なるほど。


「分かった」


「魔物も見たよ! 毒があるのは気を付けないと駄目なんだって」


風太が俺の腕にぶら下がる。


「そうだな。毒は怖いから気を付けないと」


これは素直に受け取っていいのか?


「うん。だから毒のある魔物を振り回しては駄目だって。振り回すと、周りに被害が出るんだって」


……魔物を振り回しているのか?

そんな事、初めて聞いたが。

 

「シュリ。子供たちの強さは、どれぐらいなんだろう?」


話を聞く限り、結構な力を持っている様子だ。

ちょっと訊くのが怖い。

が、保護者だからな把握しておかないと。


「混ぜ物の中でもかなり特殊なもの以外は、問題なく狩れるはずだ」


混ぜ物は、確か見た目と能力が異なる魔物だ。

その魔物でも特殊な能力を持っていなかったら、勝つという事か?

それって強いのか?

分かるような、分からないような。

俺の様子を見たシュリが、少し考える。


「我が子が5匹で襲い掛かっても、子供達なら簡単に跳ねのけるだろう」


えっ?

子アリが、かなり威力の強い攻撃を繰り出しているのを見たぞ?

その子アリ5匹を簡単に跳ねのける?


「急に強くなってないか?」


一月前の特訓では、そこまで強さは感じなかった。

それなのに……。


「すごい成長なのだ」


シュリの上空に飛びトカゲが来る。


「すごい成長? 強くなるスピードが速いのか?」


「そうだ。ここ数週間であっという間に力をつけた」


飛びトカゲの言葉にシュリが頷く。

その2匹には微かに戸惑いがある。

本当に急に強くなったのかもしれない。


「そうか。ありがとう」


急成長か。

子供達は、俺のように勇者召喚の被害者だ。

元々は大人だが、様々な事が重なって子供の姿となり、記憶が消えた。

アイオン神は、俺のように新しい力を作り出すかもしれないと言っていたな。

他にも似たところがあったとしたら?

例えば、身体能力。

この世界に来て、俺の身体能力は異常なほど上がった。

子供達も同じなら……でも、急に強くなるのはおかしいよな。


「太陽、風太、雷、翼」


「「「「なに~」」」」


「どこか体がおかしいなって感じた事ないか? 体の中でもいいぞ」


俺の言葉に首を傾げる子供たち。

ごめん、説明が下手で。

でも、どうやって説明をすればいいのか分からない。


「あっ! 守らなきゃって誰かが言った!」


守らなきゃ?

翼を見ると、頷く。


「誰が言ったのか分かるか?」


それには首を横に振る翼。


「疲れた~」


太陽の言葉に、他の子達も頷く。

朝から森を見て回って、遊んで、それは疲れるだろう。

話は今でなくてもいい。


「帰って、おやつでも食べようか?」


俺の言葉に太陽たちがわっと盛り上がる。


「私たちもいい?」


シュリの上で桜たちが心配そうに訊く。


「当たり前だろ。皆でおやつにしよう」


俺の言葉に嬉しそうに笑う桜たち。

それにしても「守らなきゃ」か。

いったい何からだろう?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ