40.今日は駄目だ
かちかちかちと音を出す魔石は、空中でその震えを次第に大きくしていく。
「主、危ないのではないか?」
飛びトカゲの質問に、頷く。
「かなり危ないだろうな。魔石から離れよう」
俺と飛びトカゲは、魔石を見つめたまま少しずつ後ろに下がる。
その間も魔石の震えが大きくなり、恐怖心を煽る。
体が震えているから、足が縺れそうだ。
震える魔石を見ていると、不意に爆発しそうだと感じた。
もし爆発するなら何か対策を……楯か?
先ほど作った闇魔法の結界を楯のように俺たちの前に立てたら、被害は少なく出来るだろうか?
どうなるかは不明だが、無いよりあった方がいいだろう。
頭の中で闇の魔力を想像し、それを防ぐ結界をもう一度しっかりとイメージする。
そして、飛びトカゲと俺の前に楯のように置くイメージをプラスする。
「闇魔法の楯」
俺の前と飛びトカゲの前に巨大な楯が現れる。
よしっ。
あれ?
爆発の衝撃は楯で耐えられるものだっけ?
テレビで見た爆発シーンを思い出す。
無理じゃないか?
……どうしよう。
「主、失敗したのか?」
「作り出す事は出来た。でも、闇の魔力の威力を甘く見過ぎた」
「主が失敗するのは珍しいな」
飛びトカゲの言葉に苦笑が浮かぶ。
「今まで成功したのは奇跡だよ。俺の実力はこっちだと思うぞ」
たまたま今まで成功していただけだ。
いや、勇者のギフトに運気アップがあると言っていたから、それかもしれないな。
ん?
なら、勇者のギフトの効果が切れそうになっているのか?
それは大変困る!
ちがうちがう。
現実逃避をするな!
今は目の前の問題!
「確実にこのままではやばい」
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
落ち着け……考えろ。
何とかできるはず、と言うか何とかする!
「不安定なのはなぜだ? いや、それはどうでもいい。不安定なら安定させればいいだけだ!」
そうだ!
安定させればいい。
何かヒントが無いかと周りを見ると、3匹の子蜘蛛たちと視線が合う。
結界の外だが、この周辺は危険だ。
「危ないから、離れろ!」
俺の声が聞こえたのか、子蜘蛛たちが慌てて離れるのが見えた。
それにほっとすると、湖が視界に入った。
水……水はゆらゆらと不安定だ。
そう、不安定。
それを安定させるには?
凍らせる……固めたらいいんだ。
ゆらゆらと揺れる不安定な水を、凍らせて固め安定させるイメージを作る。
「あとは、発動するだけだ!」
魔石の1つに手を向ける。
「安定しろ」
また、体内の魔力がごっそりと抜けるのがわかる。
もう慣れてしまった感覚なので、そのまま魔石に手を向け続ける。
目の前の魔石は、徐々に黒い光を消し地面へと落下した。
「成功か?」
落ちた魔石を確認したいが、まだ4個の魔石が不安定だ。
時間が無い。
「次!」
順番に空中に浮いている魔石に向かって魔法を掛けていく。
地面に転がる4個の魔石。
「よしっ。最後の1個!」
空中に浮かんでいる最後の魔石に手を向けると、魔石からびしっと音が聞こえた。
びしっ?
非常に嫌な予感がする。
「あ~、割れた!」
最後の一つは間に合わなかった。
目の前で魔石にヒビが入っていくのが見える。
そしてヒビから黒い煙が溢れてくる。
非常にやばい。
飛びトカゲと自分に向かって、もう一度結界を張る。
「闇魔法の結界」
バリンッ。
結界を張るのとほぼ同時に、魔石の割れる音がした。
「セーフ」
魔石から、どんどん黒い煙が溢れてくる。
そのまま周辺に広がるのかと見ていると、黒い煙がおかしな動きを見せ始めた。
「なんだ?」
黒い煙はある程度が集まると、ギュッと固まりあるモノへと形を作っていく。
「……はっ? え、なにこれ」
目に映るモノが信じられず、目をこする。
もう一度見るが、消えない。
「主、あれは何だ?」
「あ~、あれは……ハエだな」
ソフトボールぐらいあるハエが、どんどん魔石の周りに生まれていく。
なんでそうなるんだ?
闇の魔力がそんな形をしているわけはないよな?
となると……俺のイメージ?
「あっ!」
広場を覆った結界を見る。
ハエ取りをイメージした。
その時に、ハエをしっかりイメージしてしまった。
でも、闇の魔力をハエにしようと思った事は一度もないぞ!
「こちらに来るぞ」
「えっと。結界にぶつけたらきっとくっつくんだろうな。なんせハエ取りだ。風の力で結界に飛ばすか」
風をハエにぶつけて弾き飛ばすイメージを作る。
「風で排除!」
結界内に突風がふき、周りを飛んでいたハエの形になった闇の魔力が結界に向かって飛んで行く。
どんどん結界から突き出している針に刺さっていくハエ。
ちょっとグロイ。
いや、イメージしたのは俺だけど!
思っていた結果と違うから!
吸収のイメージに蚊を利用したのは失敗だったな。
それを言うならハエ取りもか。
「何とかなったようだな」
「あぁ。怪我は無いか?」
飛びトカゲに視線を向ける。
「大丈夫だ」
闇の魔力の結界の中にいるので、針のついた膜で覆われているように見える。
周りを見ると、既に溢れた闇の魔力は全て結界に吸収されたようだ。
「結界解除」
広場に掛かっていた結界と、俺と飛びトカゲに掛かっていた結界が消える。
「あれ?」
何だろう?
今、体に少し違和感が……ん?
一瞬だったから気のせいか?
「主、一つ確認なんだが」
「なんだ?」
視線を飛びトカゲに向けると、首を傾げている。
何か疑問でもあるのか?
「闇魔法とはなんだ?」
闇魔法?
何だそれ?
「闇魔法の結界と言っていたであろう?」
ん?
闇魔法の結界?
結界と言ったなら、闇の魔力を抑える結界を張った時だよな。
「あっ!」
どうやら今日は本当にグダグダのようだ。
闇の魔力の結界と言うところを、闇魔法の結界と言ったような気がする。
「言い間違いをしたみたいだ……」
「……今日の主は……」
飛びトカゲが、残念な視線を送ってくる。
「あはははっ」
後で言葉を修正しておこう。
地面に転がる4個の魔石を拾う。
魔石からはじわじわと毒々しい力を感じる。
色々あり過ぎたが、成功。
「それが闇の魔力なのか?」
……だよな?
あれ?
飛びトカゲが言ったんじゃなかったか?
毒々しい力を闇の魔力だと。
でも、今の言い方では違うようだが……。
「主?」
「たぶん? でも、ケルベロスたちに必要な力だと思う」
ケルベロスたちが吸収した力を再現したのだから、これは正しいはず。
違ったら泣くぞ。
「家に戻ろう――」
「あーはっはっはっはっ」
ん?
何だ?
「見たか、私の力を!」
周りを見るが、声が森に響いているため場所がわからない。
というか、あんな笑い方をするシチュエーションが気になる。
普通はしない。
「悪の王、バッチュ。もう、お前の自由にはさせにゃい……させないぞ!」
あっ、噛んだ。
わかった、これ。
森の中でヒーローごっこしているんだ。
でも、何処だ?
「最近はずっとあの遊びが好きみたいだな」
飛びトカゲが苦笑している。
子供達に一度、悪役を頼まれて頑張っていたもんな。
「そうだな」
「今日こちょは、あれ。今日こしょは、お前をたおちゅ」
姿が見えないが、可愛い。
リビングでも、お姫様の救出劇をしていたな。
机が1つと椅子が2つ壊れて、一つ目にこっぴどく怒られていた。
だから、外でやってるのか?
「私を倒せるものなら倒してみろ! お前たちには、やられたりはしない!」
それにしても、何処でやってるんだ?
「子蜘蛛たち! この遊びはどこでやってるんだ?」
「「「黒い洞窟の傍だよ~」」」
黒い洞窟がどこなのか分からない。
「案内を、お願いしていいか?」
「任せて!」
すぐに移動を開始する子蜘蛛たち。
その後ろを追いかける。
「皆で力を合わせれば、きっと倒せる!」
「「「おぉ~」」」
それにしても、いったい何を参考にしているんだろう。
たぶん一つ目たちの誰かが教えたんだろうけど。
それにしても、声がよく響いているな。
何か道具でも使っているのか?
すみません。
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