35.木を切るのが目的だった。
「主! 驚かせるのは止めてくれ!」
戻ってきた魔力に首を傾げていると、なぜか水色に怒られた。
驚かせた?
「……あっ! 悪い」
浄化魔法で、世界が一瞬真っ白になったんだった。
説明も無く、急にあんな世界が広がれば驚くよな。
魔法を発動させる前に、しっかりと説明しておくべきだった。
「気を付けるよ」
次、同じ事する時はちゃんと説明しよう。
ただ、魔法を発動させてみないと、どんな現象が起こるのか分からないんだよな。
この場合はどう説明したらいいんだろう?
「何かが起きるから気を付けろ」で、いいのか?
「本当に気を付けてくれ!」
水色の様子を見る限り、かなり驚かせてしまったんだな。
一つ目達やフェンリル達も心配そうに俺を見ている。
「悪い。今度やる時は、ちゃんと言ってからやるから」
「ん? やる? あれ? 本当に我の言っている事を理解しているか?」
「もちろん、浄化の事だろう?」
俺の返答に首を傾げる水色。
何だろう?
ずっと浄化魔法の事を話しているよな?
「そう、世界に浄化を掛けた事だけど……」
「ちゃんとわかってるよ。ごめんな」
「あぁ、分かってくれてるなら……」
何だか納得してないような雰囲気だな。
まぁ、よく何も言わずに魔法を使うから信用できないのかもしれない。
それって、俺のせいだよな。
次は必ず言ってから魔法を使おう。
あれ?
そう言えば、ロープの声が聞こえなくなってる。
修復した所を、見に行ってくれたのかな?
そうだ。
水色だったら、この世界の形について何か知っているかもしれない。
「水色、訊きたい事があるんだが」
「ん? 訊きたい事?」
「うん。この世界の形についてなんだが。この世界は平面世界なのか?」
俺の質問に首を傾げて困った表情の水色。
「この世界が平面?」
「あぁ、浄化の魔法を使ったんだけど、なぜか魔力が戻ってきたんだ」
「戻って……」
水色の雰囲気から、困惑しているのがわかる。
やはりおかしい事なのか?
「余分な魔力は、世界が吸収して戻ることは無いはずなんだが……。それと、世界は球体のはずだ。平面の世界は作れないはずだが。我の知識に無いだけかもしれないが……」
水色の言葉に、頭を抱えたくなった。
世界が吸収しなかったという事は、何か原因があるという事だ。
これは、核の周りの魔力以外にも問題があるという事じゃないか?
調べなければならないよな?
だが、俺は器用じゃないから、同時に解決を目指すとかは止めた方がいい。
まずは核の周りの魔力を浄化して、それからこの世界の他の問題に目を向けよう。
1つ1つ解決していった方が、きっと早く問題を解消できるはずだ。
たいした問題でなければいいが……。
「主。魔力が戻ってくるのは、やはりおかしいと思う」
「うん。俺もそう思う。でもまずは、魔力の浄化を頑張るよ」
「分かった。他の者が何か知らないか訊いておこう」
「頼むな」
今度地震が起こったら、ヒビから核の周辺の魔力に浄化を掛けてみよう。
核の周りの魔力がどれほどの量なのか分からないが、まぁ何とかするしかない。
「よしっ。今回も問題は解決だな。帰ろうか」
「そうだな。あれほどの力を使ったのだ。疲れてはいないのか?」
水色の心配そうな声に、頭をぽんぽんと撫でる。
「ありがとう。でも大丈夫だ。俺の魔力は底なしだからな」
使えば無くなるが、すぐに魔力が補われるからな。
ドローンから送られる画像を見ながら、腕を上に伸ばし体を横に傾ける。
大丈夫そうだな。
このまま、魔力が漏れてこないと成功だな。
後は……他にもヒビが無いか探すんだったな。
ヒビの修復場所を見せている以外のドローンに、ヒビを探させよう。
他の画像を見ると、既にドローンが動いているのが分かった。
あれ?
命令したかな?
……まぁ、いいか。
「あの……主。森の開拓が……」
「「あっ」」
忘れてた。
ここに来た最初の目的は森の木を切って広場を作る事だったんだ。
水色を見ると、俺と同じで忘れていたんだろう。
明後日の方向を見て誤魔化している。
「悪い。えっと、木を切るんだよな?」
「はい。大丈夫ですか? 明日でもいいですよ?」
一つ目の言葉に首を横に振る。
別に疲れているわけでは無い。
魔力も既に元通り。
本当に、戻るのが早いな。
「さて、とっとと木を切って広場を作ろうか」
俺の言葉に一つ目の1体が森の中を駆けていく。
目で追うと、離れたところで旗を振るのが見えた。
あそこまで木を切るって事だな……遠いな。
「やろうか」
見ていても木は切れないからな。
頑張ろ。
旗を振る一つ目までまっすぐ木を切ったが、多い!
いや、頑張ればすぐに終わるはず。
と思ったが、切っても切っても減らないんだが……ははっ、あと半分か?
腰を反らせながら、周りを見る。
随分と広い場所の木が切り倒されている。
なのに、まだ半分ぐらい。
いったいどれだけ広大な広場を作るつもりなのか……まぁ、あの訓練に耐える広場だからな。
それにしても、まだ半分もある。
……いや、あと半分だ。
あと半分しかない、だから大丈夫。
半分なんてあっという間だ!
思い込みって大切。
「終わった~」
全然、あっという間じゃなかった。
単純作業って疲れる。
本当に疲れる。
「お疲れ様です。大丈夫ですか?」
一つ目の労わりの言葉が心に刺さるな。
報われる。
「疲れているのですか? 仕方ないですね。お茶とお菓子で休憩しましょう」
……一つ目に仕方ないって言われた。
ちょっと驚いて見ると、首を傾げられる。
この一つ目は、ちょっとずれてる子だな。
あれ、そう言えばヒビの対処の後に休憩を入れるって言っていたのに無かったよな?
「ヒビの修復の後の休憩は?」
「必要なさそうだったので、入れませんでしたが。何か?」
「……そう」
ばこっ。
ずれている一つ目の頭を無言でリーダーの一つ目が叩く。
驚いた雰囲気で、頭をさする一つ目。
「休憩を忘れていました。申し訳ありません」
ギラリと光る視線に、ちょっとビクッとしてしまう。
「……あぁ、気にしなくていいよ。ちょっと休憩して帰ろうか」
「はい。すぐに用意をしますね」
ずるずるずる。
一つ目を引きずっていく一つ目。
何だろう、リーダーの一つ目の目つきが怖いんだが。
「俺が作った岩人形……ゴーレムだったか? まぁ、なんでもいいけど岩人形だよな? 表情が出てきたのは理解してきたが、あんなこわい目つきしたか?」
1体の一つ目を視線で追うと、1体が正座をしている。
……可愛い。
って、違う。違う。
あれは止めるべきか?
だが一つ目の世界にも上下関係があるかもしれないし……あの目つきで見られるのか?
……彼らにも彼らのルールがあるだろうから、俺が口を挟むべきではないな。
うん、見守ろう。
「ん? ふわふわ?」
切り株の上に座って休憩しようとすると、近くにふわふわがいた。
いつの間に、ここに来たんだ?
「ようやく気付いてくれた~」
ふわふわは小さくなって俺の体に体を寄せてくる。
撫でると、嬉しそうに喉を鳴らしてくれる。
「ごめんな。木を切るのに必死で周りが気にならなかったみたいだ」
本数が本数だったから頑張ったもんね。
それにしても、小さい龍は本当に可愛い。
「それはいいよ。それより! 主! また無理したでしょ!」
無理?
まぁ、確かに頑張って木を切ったかな。
「ははっ、大丈夫だよ」
「笑い事じゃない! あんな膨大な魔力が必要な魔法を使うなんて! どれだけ驚いたと思う?」
膨大な魔力……浄化魔法の事か?
「あれは必要だったから」
「話は水色に聞いた。でも、普通はあんな魔法を使ったら死んでもおかしくないから!」
そうなのか?
感覚的にあれぐらいなら、何度か連続で出来そうだけど。
そう言えば、世界中に魔法を使うのは初めてか?
前までは森だけだったっけ?
「聞いてる?」
目の前にずいっと顔を寄せるふわふわ。
それにちょっとのけ反りながら、無言で頷く。
これは、怒ってる?
「はぁ。主は本当に無茶をする」
ふわふわが言うと水色が頷く。
そんなに無茶をした覚えが無いんだが……。
「あれぐらいなら数回……十回ぐらいは連続で使えそうだけど」
魔力が戻ってくる速度を考えると、もっと使えそうだけど。
もしかしたら途中で魔力の戻りが鈍くなるかもしれないしな。
絶対はないから十回ぐらいと言っておこう。
「主は本当に規格外だな」
ふわふわの言葉に苦笑が浮かぶ。
規格外か……俺の存在そのものがそんな感じみたいだからな。
「俺たちの知っている普通から、どんどん遠ざかっていくな」
えっ、そうなの?
それはちょっと考えないと駄目かもしれない。
水色の言葉に、ちょっと焦ってしまう。
「どの辺が?」
「「全部」」
……全部かぁ。
明けましておめでとうございます。
2021年も、どうぞよろしくお願いいたします。
本日6日より、更新を再開いたします。
今年も楽しんで頂けたら幸いです。




