31.見つけた!
「あ~、くそっ! 見つからない」
魔法で手を作ってみたけど、どうも失敗だな。
紐が長すぎて、上手く動かせない。
しかも見えないから手探りだし。
何かもっと他に役立つ物に変えて調べた方がいいかもしれない。
何がいいだろう?
「手で探るより、見えた方がわかりやすいよな」
ん?……そうだよな。
ヒビを探すなら、見て探すのが一番だよ。
なぜ最初にそれが思いつかなかったんだ?
くっ、手で探ってた時間が無駄だったような気が……はぁ。
「主、大丈夫か? なんだかすごく疲れた表情をしているが」
「えっ! いや、大丈夫。ははっ」
心配してくれるのはすごく嬉しいが、疲れた原因が自業自得だからな。
はぁ、何かすごく落ち込むな。
隣にいた水色にもたれ掛かると、ひんやりした体が気持ちいい。
「水色の体は気持ちいいな」
「そうか? 主が気に入ってくれたなら嬉しいな」
嬉しそうに笑う水色に、和むなぁ。
いや、和んでいる場合じゃないんだけどね。
何だか意味もなく気が滅入るというか……。
湖に視線を向けると、一定間隔で浮かぶ気泡。
まさか、あれの影響か?
……頑張ろ。
さて、どうやって地下の様子を見るかな。
ん?
既に壁まで魔力が届いているんだから、ドローンでも作ったらいいんじゃないか?
そうだよ。
ドローンを数体飛ばしてヒビを探させれば、簡単に見つかるんじゃ……。
あ~、本当に手で探っていた時間は無駄だよな。
なんであんな方法を……待て!
まただ、なんだか考え方がいつも以上に後ろ向きになりやすい。
気泡の汚れた魔力が風に乗ってこの辺りに漂っているのかもな。
「ふぅ、早くヒビを閉じないと」
ドローンは既にイメージができているから、地下に届いている魔力の先にドローンを……5体出して。
あとは、壁に沿って動くイメージを追加して、壁にヒビが入っている場所を捜索っと。
簡単だな。
森の捜索するのにドローンの使い方は完全にマスターしたもんな。
まぁ、地下でもしっかり動いてくれるかは分からないが、こればかりはやってみないとな。
「ドローン、捜索開始」
魔法の発動と共に5個の画像が目の前に浮かび上がる。
「わっ、びっくりした」
水色の言葉に、また説明を忘れた事に気付く。
「悪い、地下の様子を見たかったから。これは俺の魔法で出来ているから問題ない物だからな」
俺の言葉に一つ目たちが興味津々で画像に近付く。
「確かに主の魔力をこれに感じます。これが地下の様子ですか?」
「あぁ、たぶんそうだと思う」
画像を見ると、薄暗い空間が映し出されていた。
画像の下に見えるのが魔力を抑え込んでいる壁かな?
色は、黒?
薄暗いからそう見えるだけかな?
ドローンにライトをつけられるかな?
もしくは別にライトだけイメージして辺りを照らすか……別のライトをイメージした方が簡単そうだな。
ライト……あっ、球場のあの明るいライト。
あれだと広範囲を照らすことができるよな。
えっと、あれには何個のライトが付いていたっけ?
9個?
「テレビでちらっと見たぐらいじゃ、イメージが難しいな」
でもまぁ、結果は明るく照らせばいいんだから、なんとかなるだろう。
9個のライトを上空から壁に向かって照らすイメージを作って。
えっと、1個だと一方向しか照らせないよな……。
ポールをイメージしてそれの四方に、それぞれ9個のライトをセッティング。
後は魔法を発動。
「ライト点灯」
ドローンから送られてくる映像がぱっと明るくなる。
「「「「うわっ」」」」
あっ、またやってしまった。
「主、明るくなりました。これなら見やすいです」
一つ目が嬉しそうに、画面を指す。
驚かせたことは、気にしてないみたいだな。
「よかった。成功したんだな」
5つの画面を見る。
かなり明るくなって見やすい。
黒だと思っていた壁は少し暗めのグレーだった。
それが画面の一面に広がっている。
だが、どのドローンもヒビは見つけられていない様だ。
「無いな」
「そうですね」
俺の独り言に、返答がある。
横を見ると、腕を組んで画面を見る一つ目。
たぶんこの子、今日初めてじっくり話したちょっとずれている子だ。
「ん? 見てないと駄目ですよ?」
一つ目の言葉に苦笑が浮かぶ。
やっぱり。
「そうだな。気を付けるよ」
「気を付けてください」
何かちょいちょい上からというか……まぁ、可愛いからいいけど。
ちらりと見ると、腕を組んで画像前で首を傾げる一つ目。
可愛いいな。
「主~! 見つけた!」
水色の叫び声に、1つの画像の前に皆が集まる。
「本当だ。これだな」
画像には、ヒビが入っている壁が写しだされていた。
場所は分かった。
後はこのヒビを閉じるだけなんだが……壁からは神力を感じる。
だが、ロープは魔力で壁のヒビを直したと言っていた……はずなんだよ。
ん~、間違ってないという自信が持てないな。
もし違って、ヒビを悪化させてしまったら?
怖いな。
やっぱりここはロープを……あ~、ダメだ。
また後ろ向きだ。
これって俺だけか?
一つ目と水色を見る。
少し遠くで全体の警護をしているフェンリルたちを見ても、いつもと変わらない。
どうして俺だけこんな目に?
…………ん?
ちっ、駄目だ。
「主、どうしたのだ?」
水色と一つ目たちが俺をじっと見つめる。
「大丈夫。ちょっと考え事をしていただけだ。それよりヒビを早急に閉じないと駄目だ」
落ち着け。
どうも、勇者召喚のギフトの力が抑えられている。
このままいくと、俺の考えがどんどんやばい方向へ行きかねない。
何とか、あのヒビを塞がないと。
パシャッパシャパシャ。
激しい水音に、全員の視線が湖に向く。
「ん? あれは……」
湖から顔を出して、こちらを見る生き物の姿が目に入った。
姿はゲンゴロウを大きくしたような感じで、最初見た時はドン引きした。
その巨大なゲンゴロウの体が左右に揺れだす。
「何をしているんだ?」
「主、下がって。あれは攻撃体制だ」
攻撃?
巨大なゲンゴロウを見ると、以前と違う事に気付いた。
前に見た時は澄んだ綺麗な緑色の目をしていたのに、今目の前にいるモノの目は緑色だが濁っている。
どうやら、あの気泡の影響を受けてしまったようだ。
「水色。あの子を眠らせられるか? おそらく核の周辺にある濁った魔力の影響を受けている」
「水色、手伝ってやる」
一つ目の一体が、ゆっくりゲンゴロウに近付く。
「気を付けろ、体がかなり硬く火を跳ね返す」
「体が硬い? ふんっ。体の硬さなら負けないからな」
ん?
今そんな事を気にしている時ではないと思うんだが。
パシャパシャ、パシャパシャ。
「来るぞ!」
水色の言葉に緊張感が走る。
巨大ゲンゴロウが湖からすごい速さで俺の目の前に迫ってくる。
が、そのまま俺の視界から消えた。
「とりゃ~! どうだ、俺の方が硬いんだからな! 参っただろ! あはははっ」
「「「「…………」」」」
一つ目たちは基本同じものをもとに作った。
だから、なんで色々な性格があるのかずっと疑問だった。
でも今日ほど疑問に感じた事はない。
いったいあの子に、何があったんだ?
「そう言えば、最近子供たちとヒーローごっこをしてましたね」
なるほど。
えっ、つまりあの一つ目はヒーローになりたいの?
「あれ? まだ起きてる?」
一つ目の言葉に、巨大ゲンゴロウが飛んで行った方を見る。
確かに、起きてはいる。
だが、震えながら一つ目を見ているので、もう襲ってくることは無いだろう。
「あと一発」
一つ目の言葉に、慌てて止めに入る。
「待て。もう、戦う気は無いみたいだから」
「残念」




