26.マニュアル本?
皆の雰囲気がよくなってきたな。
良かった。
これからみんなで協力して、この世界の継続方法を考えないとな。
「ん?」
庭の隅に光が集まりだしているのが見えた。
あれは……。
「アイオン神が来たみたいだな」
ロープにお願いしてからそれほど時間を置かずに来てくれたようだ。
アイオン神に向かって歩き出そうとすると、その横をすっと何かが飛んで行く。
「ふわふわ?」
ふわふわを視線で追うと、水の塊がアイオン神に向かってすごいスピードで飛んで行くのが見えた。
「あれ?」
何をしているんだ?
止めようと声を出そうとすると、火の玉と氷の塊が水の塊の後を追うのが見えた。
そしてアイオン神の姿が見えた次の瞬間には、水と火と氷に攻撃されていた。
「…………」
「えっ、ちょっと何? 何?」
アイオン神の叫び声が聞こえる中、攻撃は続いている。
さすが神。
全ての攻撃をぎりぎり無効化して回避している。
が、まだまだ攻撃は続いている。
雷が落ちたと思ったら、地面から土が突き出し、逃げた先に炎が襲い掛かる。
すごいな、龍たちの連携攻撃だ。
て、違う!
呑気に見てたら駄目だ!
「あっ。待った! 皆まだ待った!」
俺の叫び声に攻撃が止む。
多分、アイオン神は知っていて放置したとか思ってそうだな。
前のデーメー神のように。
ただ、数ヶ月の付き合いだがアイオン神がそんな事をするとは思えない。
俺も一瞬は、アイオン神が放置したのではと考えた。
だが、冷静になるとどうもしっくりこない。
なので、まずは話がしたいのだ。
龍たちの不安が的中したら、思う存分すればいい。
「なんなんだ? なんで攻撃されたんだ?」
ボロボロになりながら、俺の下へ来るアイオン神。
「あぁ……こんにちは」
俺の挨拶に一瞬唖然とするアイオン神。
悪い。
何を言っていいのか分からなかった。
大丈夫か?と聞きたいが、見た目が既にボロボロだし。
「こんにちは……じゃなくて、なんで攻撃されたんだ?」
不思議そうに俺を見るアイオン神。
「この世界が壊れかけているのを知りながら、言わなかったと思われているんだよ」
「あぁ、なる……ん? 壊れかけている? どういう事だ? 見習いたちの残した厄介なモノは解決しただろう?」
この反応から知らないのかもしれないな。
嘘を吐かれている可能性はあるかもしれないが。
じっとアイオン神を見る。
「まさか……また、何かあったのか?」
アイオン神が神力を動かしたのが分かった。
どうやら調べているようだ。
「本当に知らなかったのか?」
飛びトカゲに聞かれ、頷くアイオン神。
「あぁ、壊れかけていると言ったが、この世界の事か? ざっと調べてみたが、分からなかったのだが」
えっ?
分からない?
「ロープ。まだいるか?」
「いるよ」
俺の声にロープが答えてくれる。
「アイオン神には分からないみたいなんだけど」
「表面しか調べてないからだよ。壊れているのは世界の中心部分」
それって、表面が壊れているよりやばいって事だよな。
「中心……部分?」
ロープの言葉にアイオン神の顔色が悪くなる。
そうとうやばいみたいだな。
「アイオン神も知らなかったみたいだな」
コアがアイオン神の様子を見て言う。
確かにこれで知っていたら、演技がうますぎる。
というか、固まってないか?
「アイオン神!」
「……」
「アイ――」
ばきっ。
「いたっ!」
水色の頭突きを食らったアイオン神が、頭を押さえる。
すごい音がした。
それにしても龍に頭突きをされたのに、吹っ飛ばなかったな。
やはりアイオン神は強いのか。
まぁ、それでも痛そうだけど。
「水色、もっと加減してあげないと」
「翔、それは違う。やるなと言ってくれ!」
あぁ、そうだったな。
「それで……座るか」
龍たちの攻撃を止めるために、庭の真中まで出てきていたんだった。
ここで立ち話を続けるより、座ってじっくり話したい。
長くなるだろうし。
ウッドデッキを見ると、一つ目たちがお茶とお菓子の準備をしていた。
親玉さんたちは既におやつタイムのようだ。
さっきの緊迫した空気は何だったのだろうと思うぐらい、くつろいでいる。
まぁ、ギスギスするよりはいいか。
「あ~、頭も腕もずきずきする」
「腕?」
アイオン神が左の腕を押さえてため息を吐く。
もしかしたら龍たちの攻撃が当たっていたのかもしれないな。
でも、血も出てないし大丈夫だろう。
一つ目が用意したお茶とお菓子を楽しむ。
甘いお菓子が今日はいつもより美味しく感じる。
疲れているんだな。
「アイオン神、世界の中心が壊れた時の対処法を知ってるか?」
俺の質問に苦悶の表情を見せるアイオン神。
知らないのか?
無いのか?
面倒くさい事をしないと駄目なのか?
どれだろう?
「世界の中心が問題だとすると、世界の実関連の問題となる」
世界を誕生させる世界の実に、問題が起きたという事か。
つまり、かなり大事だという事だな。
「それで?」
「……マニュアル本を見ないと分からない」
「「「……はっ?」」」
飛びトカゲとコアと俺の声が合わさる。
周りで話を聞いていた仲間も、怪訝そうにアイオン神を見ている。
マニュアル本?
世界の実のマニュアル本があるのか?
マジ?
「世界の実が作られたのは本当に遥か昔なんだ。もうどれくらい前なのか分からないほど。作った神も、もう存在していない。以前は頻繁に世界が作られていたらしいが、ここ数百億年は新たに世界が作られたのなんて数えるほどだ。私も3億年ぐらい前に作ったのが最後だから、世界の実に神力を注ぐ事で世界が生まれるのは知っているが、問題の対処方法までは覚えていない」
「だからマニュアル本があるのか?」
まぁ、使わないと使い方なんて忘れていくからな。
それにしても、数億年という単位がすごいしな。
「マニュアル本は数千年前に、世界の実で世界を作ろうとした時に……なんだったかな? えっと、あぁそうだ。命を育む世界にしたはずが命が定着しない問題が起きて、それの対処がどの神も出来なかったんだ。それで、慌てて時の神が集まって何とか記録を探しだして、マニュアルを作ったんだ」
……神も大変なんだな。
「龍たちみたいに、必要な時に思い出すようには出来ないのか?」
確か、言葉をきっかけに知識を思い出すと飛びトカゲたちが話していたよな。
思い出す時は不意だから気持ち悪くなるとも言っていたが。
「神獣たちに埋め込まれる知識の量は膨大だが、世界1つ分だ。我々は1柱で数個から数十個の世界を管理している。世界が増えるたびにその知識量は増えるから、埋め込むのは無理なんだ」
埋め込む知識が多すぎるという事か。
まぁ、確かにすごい量だろうな。
「我々が覚えていればいいんだが……長く生き過ぎて、その昔の事はちょっと記憶が……」
まぁ、数億年前にしたことを思い出せと言われてもな、無理か。
「悪い。戻ってマニュアルに何か解決策があるか、探す」
数千年前に作ったマニュアル……すぐに見つかるんだろうか?
「そのマニュアル本が、どこにあるか把握しているのか?」
「えっ?」
俺の質問に首を傾げるアイオン神。
「マニュアルはすぐに見つかるのか?」
「あぁ、本棚に……」
あっ、目が泳いだ。
これはすぐには無理かな?
1年に1冊のペースで本が増えたとしても、いったいどれくらいの量の本があるのか想像もできないな。
「本は多いのか?」
コアがちょっと呆れた雰囲気で訊く。
「あぁ、各世界の1年間の管理記録をまとめた本や世界から送られてくる事件記録や色々なマニュアル本などで溢れかえっている」
マニュアル本ってそんなに多いのか?
「管理している者はいるのか?」
コアの質問に首を横に振るアイオン神。
「部下と一緒に探すから、待っててほしい。なるべく……頑張る」
「……頑張れ」
あまり期待できないかもしれないな。
マニュアルに対策が書かれてある可能性も不確かだしな。
「神が集まって何とか記録を探しだして」と言ったが、全て探し出せたのか不安だ。
俺は俺で対策を考えよう。




