24.最悪な事実
家についてしまった。
いや、家で落ち着いて話を聞くと言ったのは俺だから、当然なんだが。
何だか怖いな……いや、大丈夫だ。
皆がいるから何とかなる!
『主、2人で話したい』
2人で?
えっ、皆は?
『……分かった』
ふ~……そう言えば、なんでこんなに緊張しているんだ?
ロープが大変だと言ったから?
地震が怖いものだと知っているから?
……それとも、感覚的に何か感じているのか?
「分からない」
ただ漠然とロープから結果を聞くのが怖いと思ってしまう。
『主?』
「なんでもないよ」
そう言えば、ロープは念話でしか話ができないのかな?
皆に聞こえるように話せると便利なんだが。
「ロープ、部屋に着いたよ」
『うん、見てるから知ってる』
見てるって……まぁ、いいか。
「1つ聞きたいんだけどいいか?」
『何? どうしたの?』
「ロープの声を、皆に届けるようにする事は出来ないのか? 念話だと俺だけだろう?」
「出来るよ。こういう事だよね。ちなみに、念話でも同時に届けることができるよ」
部屋に響く俺以外の声。
出来たんだ。
それに念話でも?
何だ、だったらもっと早くお願いすればよかった。
「これからは皆にも声が届くように話してほしい。あぁただし、今日みたいに近くに関係ない者がいたら、念話でいいから」
いきなり声が聞こえたら怖いだろうからな。
俺だって、ビビるし。
まぁ、すぐにロープだと気付けるからいいけど。
「分かった」
「うん、よろしく。じゃあ、話してくれるか? 分かった事を」
何を訊いても慌てないように……。
「分かった。主、落ち着いてね」
ロープがそう言うという事は、俺にとって衝撃の内容なんだろうな。
うわ~、聞きたくない。
と言えればいいが、そうも言ってられないよな。
「大丈夫だ。教えてくれ」
「この世界は、壊れかけている事が分かったんだ」
壊れ……かけている?
…………うん、覚悟してたけど……ちょっと……。
壊れかけているのか……落ち着け、原因がわかれば対処できるはずだ。
だから、まだ大丈夫。
混乱するなよ。
「えっと地震は壊れかけていたから起こったんだな?」
違う、これが訊きたいわけじゃない!
「そう」
落ち着こう。
壊れかけているが、まだ壊れたわけではない。
だから大丈夫だ。
よしっ、とりあえず……壊れてしまう前に、この星にいる者たちの移動を……。
まて、それを考えるのはまだ早い。
壊れている原因を改善したらいいんだから。
原因……そうだ原因を聞かないと。
「どうして壊れかけているんだ?」
「……強い者が集まり過ぎたんだ。この星に」
ん?
強い者が集まり過ぎた?
……まさか。
「普通、星が生まれたら神獣が多くても2匹までなんだ。別にルールがあるわけではない。ただ、星の許容量がそうなんだ。……ここには、神獣が2匹以上いる。それに神獣以外の者たちも強い」
なるほど。
つまり強い者が集まり過ぎて、パンクしてしまったという事か。
…………マジか。
えっ、本当に?
こんなのどうやって対処したらいいんだ?
「すぐに壊れそうなのか?」
「それは大丈夫。壊れていた箇所を魔力で補強したから」
魔力が強い者が集まったため壊れたのに、魔力で補強?
よく分からない世界だな。
「でも時間稼ぎだと思った方がいいかな」
「そうか」
根本的な事を解決しないと駄目という事か。
根本的?
強い者が多いなら減らすことが解決につながる……減らす?
誰を?
……仲間を?
………………駄目だ、それは絶対に!
だが、最悪な事はこの世界が壊れてしまった時だ。
その前に、皆を移動させないと。
「なぁ、この星以外に龍たちを移動させる事は出来るのか?」
「それは無理だと思う」
無理?
「なぜ?」
「生れ落ちる世界に合わせて、調整されて生まれるんだ。だから他の世界では生きられない。もし移動したら、かなり体に負担が掛かると思う。それに数年で死ぬだろう」
調整されてって……嫌な感じだな。
それにしても移動は無理なのか。
死ぬと分かっていて移動はさせられない。
でも、この世界が壊れても死ぬ。
どうしたらいい?
壊れる原因がまさか、強い者が集まり過ぎたからだなんて……くそっ。
相談は……無理だ。
飛びトカゲたちに言えばどうなる?
彼らの事だから、きっとこの世界から出ていってしまうかもしれない。
どうしたらいい?
「ロープ、アイオン神と連絡を取れる方法は無いか?」
アイオン神には確認したい事がある。
「伝言を飛ばす事は出来る」
「なら『すぐにここに来い』と飛ばしてくれ」
「分かった」
彼女が味方なら、何か解決策を知っているかもしれない。
何とか、皆で生き延びる方法を考えないと。
「主、大丈夫?」
「正直に言えば、大丈夫ではないな。でも、何とかしないと」
はぁ、何をどうしたらいいのか、さっぱり思いつかない。
えっと、神獣たち力の強い者たちが集まり過ぎたのが問題なんだよな。
つまり、龍たちの魔力が強すぎるのが問題になるのか?
魔力は関係ないのか?
存在?
「駄目だ。考えが纏まらない」
そう言えば、龍たちが進化していたな。
……あれは恐らく、俺の新しい力が影響を及ぼしているような気がする。
龍達以外のコアたちが強くなっているのも恐らく……。
「俺の存在が皆を強くしたんだ……俺が原因か?」
「主、それは違う! 元々この世界には龍が5匹もいた。それが間違いなんだよ」
確かに龍は5匹いる。
だが、上手く回っていた。
俺が来る前は、壊れていなかったはずだ。
だって、彼らは地震を知らなかったのだから。
どうして、壊れていかなかった?
魔眼があったから? 森の結界があったから?
……頭の中がごちゃごちゃだ。
「主、アイオン神には伝言を飛ばしたから」
「あぁ、ありがとう」
コンコン。
「主、大丈夫か? なんだか魔力が随分不安定に揺れているが」
コアの声が部屋の外から聞こえ、慌てて自分の魔力を落ち着かせる。
どうやら気持ちが不安定になったせいで、魔力がそれに煽られたらしい。
魔力が多いため、少しの揺れでも大きくなってしまうのだ。
「大丈夫だ」
何度か深呼吸を繰り返していると、揺れていた魔力が落ち着くのを感じた。
大丈夫、きっと何か解決策があるはずだ。
「入ってもいいか?」
どうしよう。
今は、いつも通り振る舞える自信がない。
「主?」
不安そうなコアの声が届く。
会話ができない時は誤魔化せたが、今は無理だな。
だったら、一緒に考えた方がいいか。
「…………いいよ」
部屋の扉を開けて入ってくるコア。
どうやらチャイは一緒にはいない様だ。
「チャイは置いてきた」
コアの事だ。
きっと何かあると気付いたのだろう。
「我もいるぞ」
コアの後ろに飛びトカゲの姿もあった。
その2匹の姿に、ホッとした。
「コア、飛びトカゲ」
俺の言葉に、すっと視線を険しくするコアと飛びトカゲ。
「何があった?」
コアの言葉に、視線を落とす。
正直、まだ迷いはある。
でも、龍の知識に何か解決策があるかもしれない。
「地震の調査をロープに依頼したんだが、この世界に何が起こっているか分かったんだ」
ロープから聞いた内容をコアと飛びトカゲに伝える。
何だか無力だなと感じる。
すごい力があっても、こんな時に何もできないなんて。
「そうか」
「「「…………」」」
「我々が、この世界から出れば――」
「それは駄目だ」
飛びトカゲの言葉を遮る。
それだけは絶対に駄目だ。
それにロープは、神獣以外の者たちも強いと言った。
コアや親玉さんたちがもっと力をつけてしまったら?
今度は彼らを切り捨てるのか?
そんな事は絶対に嫌だ。
飛びトカゲたちだって、コアたちだって誰もこの世界のために切り捨てたくない。
「だが……」
飛びトカゲが困惑した雰囲気で俺を見る。
その視線を受け止めて、ダダビスたちの事を思い出した。
きっと、この世界で生活する人や獣人たちの事を考えるなら、飛びトカゲの提案を受け入れる必要があるのかもしれない。
でも俺の中で飛びトカゲたちと人や獣人、どちらが大切かと言えば飛びトカゲたちなんだ。
この世界に落ちてから俺を支えてくれたのは、コアたちや飛びトカゲたちだから。
「この世界が壊れたとしても、一緒にいる」
この世界が壊れたら、それはきっと俺のせいだな。
俺が選んだからだ。




