23.不意打ち駄目!
「本当にどうしようかな?」
コアたちを見て固まっている騎士たちはいまだに微動だにしない。
こちらから、声を掛けた方がいいのだろうか?
だが、彼らが何者なのか知らないしな。
まぁ、騎士の服を着ているから人の国の騎士か獣人の国の騎士なんだろうけど……。
声を掛けるべきか、このままスルーするべきか。
『主~! 大変!』
「ひっ」
いきなり聞こえた大音量の声に、体がびくりと震え足が滑る。
あれ?
これ、やばい?
「主!」
ぽふっ。
……ん?
下を見るとチャイがいた。
どうやら、滑って落ちそうになった俺をチャイが助けてくれたようだ。
はぁ~。
あっ、獣人の騎士と目が合った。
……恥ずかしい。
「チャイ、ありがとう」
「急にどうしたのだ?」
コアが心配そうに俺の下へ来る。
「どうしたって、急に声がして……」
待て。
今の声は……直接頭に響いてきたような気がする。
そうなると、コア達には聞こえてない可能性が高いな。
確かめるには声を掛けたらいいかな?
『ロープ?』
『そうだよ。ごめん、急いでいたから』
コアたちの様子を見るが、声を気にしている様子は無い。
聞こえているのは俺だけだな。
『あぁ、大丈夫だ』
「今、ロープが直接声を掛けてきたんだ。それに驚いてしまって……心配掛けたな悪い」
コアとチャイの頭を撫でる。
親蜘蛛さんたちも心配そうに俺の方を見ている。
『ロープは大丈夫なのか』
まぁ、声の感じから言って問題はないような気もするが。
『ん? 何が』
大丈夫そうだな。
なら、どうして連絡が途絶えたんだ?
『ずっと連絡が取れなかったから、心配したんだ』
『ごめん、あれ? ずっと?』
ロープの不思議そうな声に首を傾げる。
何かを感じて視線をあげると、コアと親蜘蛛さんたちも首を傾げていた。
心で話しているから、ロープと話していると分かっていても不思議だよな。
と言っても、俺だけ声を出して話すと知らない人が見たら、俺がおかしくなったように見えるだろうしな。
そう言えば、騎士たちはどうしたんだろう?
下を見ると、今度は上を見上げて固まっていた。
どうも、俺を見ているような気がする。
自意識過剰かな?
ちょっと横に移動して……見られているようだ。
何なんだ?
じっと見てくる彼らに居心地が悪くなる。
ここから移動した方がよさそうだな。
森の中で、座って話が聞ける場所を探すか?
それとも、家に帰った方がいいだろうか?
ロープはさっき大変だと言っていたよな……やっぱり家だな。
「帰りたいんだけどいいか?」
ここまで連れてきてもらって悪いんだが。
「もちろん構わない。お前たちは?」
コアがチャイと親蜘蛛さんたちに問うと、彼らは「構わない」と答えてくれた。
「悪いな。あれ、そう言えば親蜘蛛さんたちは、森へ侵入した者たちを探しに来たんじゃなかったっけ?」
親蜘蛛さんを見ると、2匹ともが頷いた。
侵入者の件はどうしたんだろう?
「問題ないようだから、放置する」
そう言って、下の騎士たちを見る。
あぁ、彼らを調べる予定だったのか。
まぁ、悪さはしているようには見えないな。
「主、ロープは大丈夫だったのか?」
「あぁ。問題なかったみたいだ」
コアには心配をかけてしまったな。
「いつもありがとうな」
コアを撫でると鼻先をぐりぐりと手に押し付けてくる。
もう少しだけ力加減が欲しいな。
そしてチャイ、お願いだからこれぐらいで睨むな!
親蜘蛛さんが、血まみれだった体をクリーン魔法で綺麗にすると俺の前に来た。
これは乗っていいという事だろうな。
「お邪魔します」
親蜘蛛さんに乗ると、すぐに家に向かって走りだす。
「あっ!」
下で慌てた声が聞こえたが、ロープの調べてきた話が気になる。
申し訳ないが、ここはスルーさせてもらおう。
また、縁があったら会えるだろうし。
『主、話しかけて大丈夫?』
ロープの心配そうな声にちょっと笑みが浮かぶ。
『大丈夫だ』
『えっと。調査をお願いされてから、どれくらいの時間がたっているのか分からないけど、遅くなってごめんね。俺の中では時間というモノが存在しないから、どれくらいたってるのか分からないんだけど……』
時間というモノがない?
そうか、ロープは魔幸石だ。
時間は無限にある存在だったな。
無限にある時間なんて気にしないか。
『ごめん。俺のお願いの仕方が悪かったんだ』
根本的な違いを初めて感じたな。
これから気を付けよう。
『そんな事ないよ。主からのお願いは何よりも嬉しいから』
そう言ってもらえると安心だな。
でも、あまり頼り過ぎるのは良くないからな。
『あっ、そうだ! それより大変なの! 地震の原因を調べたら、ちょっとこの星が危ない事が分かって!』
…………えっ?
この星が危ない?
それってどういう意味でだろう?
聞かなければならないけど聞きたくない。
俺は穏やかに平凡に暮らしたいんだ!
……この世界に飛ばされてから、なんでこう後から、後から……。
『話していい?』
すぐに聞いた方がいいんだろうが、落ち着いて聞きたい。
だって絶対にろくでもない事のような気がするから。
『ロープ、家に着くまで待ってくれ。落ち着いた状態で聞きたい』
それまでに何を訊いても慌てないように心構えをしておこう。
『それもそうか。分かった』
それにしても、アイオン神はこの星が危ない事を見逃したのか?
……デーメー神みたいに、わざと見逃したわけじゃないよな?
もし今回もそうなら、龍たちに頼んで暴れてもらおうかな。
いや、駄目か。
神に反撃されて、龍たちが怪我をするかもしれない。
どんな方法なら、確実に神に痛手を負わせられるだろう?
「主、大丈夫か? 随分神妙な顔をしているが」
「ん? 大丈夫。ちょっと神を懲らしめる方法を考えているだけだから」
「そんな事か」
「えっ?」
俺が驚いた声を出すと、コアが俺を見て「ふん」と鼻を鳴らす
「我だけでは無理だが龍たちと協力すれば、神を懲らしめるのは簡単だ」
簡単という言葉に、コアを唖然と見る。
「怪我とか……」
「問題ない」
そう言えば、飛びトカゲたちも言っていたな、似たような事を。
そうか簡単なのか。
もし、アイオン神がよからぬ事を考えているなら、お願いしようかな。
『主。俺も参加するからな! もう暴れまくってやる』
暴れるってロープは魔幸石。
つまり石だよな?
暴れられるのか?
『主? 俺の持っている力は強いからな?』
神様たちが作った石だもんな。
「頼りになるな」
「そうか。なら誰かを懲らしめたいと思ったら、すぐに言ってくれ」
ん?
コアの言葉に首を傾げる。
なんでコアが満足げに……あっ、声が出てたかも!
えっと、コアはなんて言ったかな?
怪我の心配もなく懲らしめられるだったよな。
「えっと。コア、ありがとう」
でも、神様を懲らしめていいのか?
というか、なんで既にやる気に?
「まだやらないからね」
「分かっている」
大丈夫かな?
まぁ、コアは俺の意思を汲んでくれるから大丈夫か。
それより、もし本当に何か企んでこの世界が危ない事を無視したんだったら、お願いしようかな。




