22.王城に行こう!
グラグラッグラグラッ。
「うわっ……」
揺れを感じてベッドから起き上がる。
今のは少し大きかったな。
……もう、落ち着いたか?
「ロープ? いないか?」
しばらく待つが、返答はない。
「……いないか」
どうしたんだろう?
ロープに何かあったと考えた方がいいんだろうな。
無暗に調べさせたのは失敗だった。
ロープがこの世界の主導権を持っているから、何もないと思い込んでいた。
……王城に忍び込むか。
あっ、もしかして人がロープに何かした?
いや、それは無いか?
「はぁ、ここで考えていても答えは出ないな」
よしっ、明日王城にロープの様子を見に行こう。
王城に入る方法は……何とかなるはず……たぶん。
「あるじ~」
えっ!
部屋に響く声に視線を向けると、太陽を先頭に子供たちが部屋に飛び込んでくるのが見えた。
「マジか……」
子供たちの勢いに体が引く。
そのまま来られると!
「ちょっと待て~! 強化!」
「揺れた~」
「怖い~」
「今のなに~」
子供たちが一斉に襲い掛かってきた。
「うげっ」
怖かったのは分かった。
分かるが、頼むからもう少しお手柔らかに頼む。
「ごほっごほっ」
勢いよくぶつかってきた太陽に押されてベッドに転がると、どんどん上に乗ってくる子供達。
お~も~い~。
はぁ、それにしても太陽がぶつかる前に魔法で体を強化出来てよかった。
「大丈夫だ。今ぐらいの揺れなら、それほど怖くないから」
この慰め方はあっているのか?
元日本人だと少しの揺れは慣れてしまっているんだよな。
今の揺れも震度にしたら2か3ぐらいのはずだ。
「本当に大丈夫?」
月が涙声で訊いてくる。
ここで大丈夫だと答えて、すぐに地震がきたら?
「とりあえずは大丈夫だ。地震が来ても守るからな」
原因が分からない以上、本当に大丈夫なのか分からないからな。
嘘は言わないようにしないと。
ん?
震えている子がいるのか。
上に乗っている子供たちの頭を順番に撫でる。
あぁよかった。
落ち着いてくれたみたいだ。
ところでこの子達は、いつ俺の上から降りてくれるんだ?
「あれ?」
顔をぐっと持ち上げて体に乗り上げている子供たちを見る。
……寝てる。
「マジか」
数分前まで起きていたよな?
というか、俺はこのまま下敷きなのか?
……仕方ないか。
「それにしても、体の強化魔法を作っておいて正解だったな。まさか自分の部屋で使う事になるとは思わなかったけど」
強化魔法をイメージした時に、どんな攻撃を受けても痛みを10分の1になるようにした。
そのお陰か、みぞおちに膝が入っても痛みは無かった。
これは正解だな。
ただ、まさか押しつぶされる事は想像しなかった。
強化魔法を作り直そう。
重さを10分の1になるように。
「重い……」
寝ているのに、動くと可哀そうだよな。
起きてまた不安がるかもしれないし……まぁ、重さだけだから寝られないという事も無いか?
隕石に押しつぶされる夢を見た。
……眠い。
…………
体の節々に違和感があるな。
ただヒールを掛けても、痛みではないため効かないみたいだ。
残念。
「さて、人の国に行きますか」
「主、今日はでかけるのか?」
横にいるコアが俺を見て首を傾げる。
首にギュッと抱き着くと、おぉふわふわで気持ちいい。
何かを感じて横を見ると、ジト目で俺を見るチャイ。
相変わらずコアとチャイは仲がいい。
「人の国に行って王城に忍び込もうと思ってるんだ」
「忍び込む? 堂々と正面から入ればいい」
コアの言葉に首を傾げる。
あっ、そうか!
森の王が一緒だったら、入れるかもしれない。
「コアも一緒に来てくれるか?」
コアが無理なら親玉さんか?
あとは龍たちでもいいのか。
「構わないよ。一緒に行こう」
なんだ?
コアからちょっと黒い気配を感じるんだが。
「王城にいるロープの様子を見に行くだけだからな」
「ロープ? あぁ魔幸石の事だったな。会わなくても会話ができると言っていたのではないのか?」
「そうなんだけど。地震の原因を調べるように言ったら、それから音沙汰が無くなってしまって」
何かあったのか心配なんだよな。
「そうか。では、行くか」
「あぁ、悪いな」
ウッドデッキを出ると、親蜘蛛さんが2匹近づいて来る。
「主、人の国に行くの?」
「あぁ、そうだけど。どうした?」
親蜘蛛さんが首を傾げながら訊いてくる。
成長してかなり大きくなったが、動作が可愛いよな。
「僕たちも、人の国周辺の森に用事があるんだ。一緒に行っていい?」
人の国に用事?
何だろう?
「それは、構わないが。何か問題でもあったのか?」
「人の国から森に入った者たちがいるから、調べるんだ」
人の国から森へ?
警戒しているという事は、危ない連中なのか?
「何か危険なのか?」
「まだ、分からない」
とりあえず調べるという事かな。
何も問題が無ければいいな。
「そうか。なら、一緒に行こう」
喜ぶ親蜘蛛さんたちを見て、笑みが浮かぶ。
昨日の地震から不安が消えてなかったから、こういう遣り取りはホッとする。
「主。今日は俺たちに乗って!」
親蜘蛛さんが、傍によって乗ってとアピールする。
そう言えば、最近はずっとコアに乗せてもらっているな。
久々に親蜘蛛さんに乗せてもらうのも、いいかもしれない。
「親蜘蛛さん、ありがとう。乗っていいか?」
俺の言葉にプルプルと震える親蜘蛛さん。
これは、喜んでいると思っていいんだよな?
「主、俺は糸が出せないから魔法で安定させるね」
「分かった。頼むな」
森の中を親蜘蛛さんの上に乗って疾走する。
コアより遅いが、それでも速い。
数時間走り続けていると、不意に親蜘蛛さんたちのスピードが落ちた。
疲れたのだろうか?
「人がいる」
乗っている親蜘蛛さんがある場所を前足で指す。
視線を向けると、同じ服を着た一団が見えた。
ダダビスと似たような格好だが、少し異なっているデザイン。
もしかしたら人の国の騎士だろうか?
という事はここは人の国の近くか?
「あれ? 獣人もいるな」
様子を見ていると、どうもその獣人が全体に指示を出している。
という事は獣人の国の騎士なのか?
……人の方が多いけど……。
「何かを探しているみたいだ」
コアの言葉に、もう一度一団を見る。
確かに、警戒しながらも何かを探しているように見える。
一体何を探しているんだ?
「近くに、魔物がいるな」
チャイの言葉に周りを見渡す。
が、木々が邪魔で場所が分からない。
「あそこだ」
コアの視線を追うが……何処?
もう一度コアの見ている方向を確認する。
見る方向は合っているよな?
え~何処にいるんだ?
チャイも親蜘蛛さんたちも、既に見つけたようだ。
「何匹だ?」
「全部で12匹だ」
コアの言葉に親蜘蛛さんの1匹が答える。
12匹もいるのか?
まだ、1匹も見つけられていないのだが。
あっ、魔力で探した方が見つかるかな?
森の魔力とは異なる魔力……魔力……いた!
良かった、見つけられた。
「あれ? あの魔物たち、魔力が安定していないな。それに、これって……」
魔力を探って魔物を探したが、感じ取れた魔力がおかしい。
異様に不安定だ。
しかも1つの体に異なる魔力が存在している。
俺みたいだな。
ただ、俺の魔力は安定してるけど。
「人や獣人が言っていた、混ぜ物という魔物ではないか?」
まぜもの?
コアの言葉に首を傾げる。
随分変わった名前の魔物だな。
「あれは自然に生まれた魔物ではないな。排除した方がいい」
コアが言葉と共に殺気を纏う。
こわっ、本気だ。
「主、少しこの木の上で待ってて。すぐに終わらせて来る」
親蜘蛛さんが、大木の幹に俺を下ろすと一気にまぜものに向かって飛んだ。
それにしても自然に生まれた魔物じゃないなら、何処で生まれたんだ?
下からまぜものという魔物の警戒した声と、断末魔が聞こえる。
うん。
親蜘蛛さんもコアも容赦ないな~。
あっ、そう言えば騎士の一団はどうしたんだろう?
「固まっているな……まぁ、そうなるよな」
あっ、コアたちは勝負がついたみたいだな。
早いな。
ここからあの魔物は持って帰れないよな。
あんなに魔力が不安定だとまずいのかな?
気になるな、でもここから家は遠いよな。
諦めよう。
「お待たせ!」
親蜘蛛さんが楽しそうに飛んできたけど……血まみれだね。
いつもはもっときれいに狩るのに。
何か鬱憤でも溜まっていたのかな?




