26.ある国の王様
目の前で跪く男は森に異変があるという。
おかしなことだ。
あの森はあと少しですべてこの王である我のモノ。
そうあと少し。
今更何をしても無駄というものだ。
何を焦る必要がある。
愚か者が。
「血をささげ強化しろ」
謁見の間を出ていく魔導師の後ろ姿にどうにも笑いがこぼれる。
あと少しだ、そうあと少しでこの世界が手に入る。
森には忌々しい王たちがいたがそれも昔のこと。
多くは死んだ可能性があるが生き残りもいるだろう。
我の支配下において死ぬまで使ってやろう。
栄誉のあることだ、この世界の王の力になれるのだからな。
……
……
森に異変?
遠くのことで確かなことではないというが、かすかに輝いていたと言う。
何が起きているのか。
森は…死んでしまうのか…
エンペラス国が森全土にかけた複合魔眼魔法。
このためにすべての秩序が崩れ去った。
森にいた多くの聖獣が姿をけし、意思を持たない魔物、魔獣があふれだした。
複合魔眼魔法、どうやって生み出したのか。
噂では生贄をささげたと言われているが。
ほんとうのところはわからないが、あの国は人以外には厳しい国だ。
「森がエンペラス国に支配されれば…」
……
……
目の前の報告に周りから息をのむ音が聞こえる。
エンペラス国が森を支配しようと動き出して200年近く。
少しずつ森は姿を変えてきている。
今回の異変は何を意味するのか。
エンペラス国の周辺には2つの国があった。
その国が姿を消したのが200年ほど前。
多くの国民が突然、姿を消したと言われている。
当初、森を支配するために作られたという複合魔眼魔法。
これに生贄としてささげられたのではないかと噂された。
だが、ただの噂だと誰もが思った。
当たり前だ、もしそうなら数十万の命と血が犠牲になったことになる。
そんな禁忌を犯すなど。
だが、おそらくそうなのだろう。
エンペラス国は禁忌を犯したのだ。
我々は対応を誤ったのだ。




