16.エントール国第3騎士団団長3
-エントール国 第3騎士団 団長視点-
門番に話を通して、主様の下へ戻るとなぜかキミールとカフィレットの顔色が悪い。
何があったんだ?
主様の様子は特に変化がないが。
すぐに村へは入れる事を言うと、なぜか不安な表情で俺を見た。
なんだ?
「そう言えば、上から侵入されるのはどう防ぐんだ?」
「「「えっ!」」」
上から侵入?
いったいキミールたちは何の話をしていたんだ?
2人を見ると、先ほどより顔色が悪い。
困った表情で2人を見るが、主様の前では話が出来ないのか目を合わせない。
それに小さくため息を吐く。
離れたのは失敗だったかもしれない。
しかし侵入者の心配をされるというのはどういう状況だ?
なんて答えれば正解なんだ。
「えっと、換金場所はどこにあるんだ? ここから近いのか?」
「えっ!……あぁ換金、えっと確かすぐそこです」
ここから2回右に角を曲がれば着くな。
キミールが俺の腕の部分の服を掴む。
何だ?
ちらりと見るが、戸惑った表情でよく分からない。
主様を待たせるわけにはいかない。
「こっちです」
案内をしながら、キミールを見ると獣人の騎士だけに伝わる手話で、俺がいなかった時に何があったのかを知らせてきた。
えっと、主様が門と外壁の事を気にしていた?
それと、エントール国がエンペラス国のように……森に攻撃する可能性があると思われているかもしれない?
はっ、なんだって?
キミールに考え過ぎではないかと伝えるが、国の結界について訊くのはおかしいと返ってくる。
それは……空を見上げる。
俺の目では決して見る事は出来ないが、国全体を覆うように結界がある。
その結界は、国にいる最高の魔術師達が力を合わせて作ったものだ。
かなり強固な壁になったと、魔術師達が話していた。
だが、実際にはどれほど強固な壁なのかは不明。
エンペラス国が暴走したあとの世界では、国の軍事力を隠すようになったからだ。
確かに、結界について訊いてくるという事は軍事力に興味があるという事だろう。
あっ、戦争を仕掛けるつもりなどまったくないと伝えたのだろうか?
戦争はしないと伝えたが、信じたかは不明って……確かに、この村はエンペラス国との戦争を考えて門や壁を強固にしたからな……。
あっ、待て……この村には巨大な武器庫がある。
確か換金できる魔石店の近くに……やばい。
そっと主様を窺う。
ため息を吐いている。
そっと横を見ると、武器庫が見える。
きっと、見つけられたんだ。
説明しなければ、だが下手に説明すると余計に警戒される事になるのではないか?
遠回しに……。
「あの、何か不備がありましたか?」
……俺は何を訊きたいんだ?
「いや、不備なんて無いが……」
不審がられている。
……嫌だな、憧れの存在に、敵認定をされるかもしれないなんて……。
落ち込んでいる場合ではないけど、すごい打撃だ。
「ここです」
気持ちを切り替えないと。
とりあえず、役目をはたそう。
魔石の換金が目的ではないかもしれないが。
あれ?
確かこの魔石を扱う店は……攻撃魔法を強化する魔石を主に取り扱っていたような……。
なんて店を紹介してしまったんだ!
どうしよう。
店の中には一緒に行くとして……それから?
解決策が全く思いつかない。
強固な門に外壁、巨大な武器庫に攻撃魔法を強化する魔石……誤解をされる要素しかない!
「店の主人を紹介します。その方が色々といいと思うので」
ここでぐちゃぐちゃと考えても無駄だ。
とりあえず、一緒に行って説明をしなければ。
「あっ、そうだ、魔石はどんな物でも換金できるのか?」
えっ?
どんな物でも?
……俺たちを試しているのか?
「どんな物とは、どういう意味でしょうか?」
キミールが主様の前に出る。
それに少しほっとしてしまう。
だが、キミールの態度は大丈夫か?
「これだ。赤の魔石と青の魔石」
…………はっ?
待て、なんだこれは。
「グルグルグル」
あっ、しまった。
無意識に手を伸ばしていたようだ。
しかしこれは何を試されているんだ?
あ~、魔石が気になる。
なんであんな透明感のある魔石なんだ?
しかも触れてもいないのに、あの魔石から森の魔力が溢れている。
触りたい!
うっ、やはり何か俺達は試されたのか?
主から何か禍々しい魔力を一瞬感じたんだが……。
そっと主の様子を窺う。
……大丈夫みたいだな。
「あ、あの、申し訳ないですが魔石を見せてもらえませんか?」
カフィレットー!
何をお願いしているんだ?
誤解されているんだから、態度はかなり慎重になる必要があるのに!
獣人だから、森と関わりたいという思いが強いのは分かるが我慢してほしかった。
「どうぞ」
見せてくれるのか?
カフィレットが魔石を観察しているのを横目で見る。
それにしても綺麗な魔石だ。
あれ?
魔石を換金しに来たんだよな。
換金予定の魔石を見る。
どう見ても、普通の魔石店にあれだけの魔石を買い取る力は無い。
あるとすれば、王都にある魔石店ぐらいだろう。
「この魔石は、たぶんこの村では換金できません」
俺の言葉に何か考えている主の様子を見る。
怒りだすことは無いみたいだが、どうしたらいいのか……。
正直に話そう。
それがいい。
「この魔石を買うお金を持っているのは、王都の魔石店だけだと思います」
魔石が高い?
そうではない。
主様が持っている魔石は森の魔力が膨大に含まれている、希少性の高い魔石だからだ。
カフィレットの説明に首を傾げる主様。
それにしても、カフィレットから魔石を受け取ったが、すごいな。
ただ手の上にあるだけで、この魔石の力を感じる。
というか、これを本気で換金するのか?
どこまでが本気なんだろうか。
エントール国の軍事力を調べるなら、魔石など必要ない。
本気で調べようと思えば、エンペラス国のあの結界をくぐり抜けたんだ。
どんな事でも出来るだろう。
それをわざわざ魔石を換金すると言った。
駄目だ、俺のような一般の騎士では主様の考えが読めない。
こうなれば、そのまま受け取って様子を見よう。
それにもし本気で換金するなら、あの魔石は国が管理した方がいい。
「あの、この魔石を王に売るつもりはありませんか?」
なんで俺が言う前にカフィレットが言うんだ?
そういうのは俺の役目だろう。
魔石に目がくらんで、何を優先させるべきか忘れているな。
とりあえず、カフィレットを落ち着かせよう。
「主様、申し訳ありません」
良かった、怒ってはいないようだ。
ホッとしてカフィレットを横目でにらむと、視線を逸らされた。
もしかして魔石の魔力に当てられたのか?
……全く。
「ダダビス、魔石は別のモノを用意するよ」
別のモノ?
やはりこの魔石を最初から売るつもりは無かったという事か?
「別の魔石ですか?」
どういう魔石をお持ちなんだろうか?
「あぁ、これは俺が魔力を注いで変化させたんだ。魔力が詰まっているから高くなるなら、注ぐ魔力を減らせばいいだけだろう?」
俺の魔力?
ん?
この魔石からは森の魔力しか感じない。
「主様が魔力を注いだ……」
つまり……森と主様は同じ存在という事になる。
「あぁ、これは俺の魔力で森の魔力ではないんだ。悪いな」
俺の魔力で森の魔力ではない?
どういう事だ?
「主様の……」
魔力と森から感じる魔力は同じだ。
それに間違いはない。
なんせ、主様の傍に寄ると森の気配が強くなるからな。
なのに主様はご自身の魔力と森の魔力を分けている。
ん~さっぱり分からない。
どう答えるのが正解なんだ?




