15.エントール国第3騎士団団長2
-エントール国 第3騎士団 団長視点-
えっ?
主様が魔石の換金?
お金が必要なのか?
金額を言ってくれさえすれば、用意するが……。
いや、魔石を換金することに意味があるのか?
どんな?
駄目だ、頭がこんがらがってきた。
とりあえずこの村の換金できる……あれ?
この村にあった換金場所は確か少し前に潰されたよな。
店主が犯罪に手を染めて……。
「えっと、魔石……」
待て。
魔石を使った横領の話なんていらないよな。
いや、いらないというか話しては駄目だろう。
この国の汚点をわざわざ紹介するなんて……よかった気付いて。
「確かこの村ではなく隣の村に換金できるところがあったと思います」
この村に無い事で少し残念な表情をされたが、仕方ない。
「ありがとう。行ってみるよ」
隣の村で換金している魔石店の店主は、性格がよく頭もいい。
紹介しても問題ない人物だ。
よし、案内しよう。
「あのっ!」
しまった、声がデカかった。
ほらぁ、主様も驚いている。
うっ、森の王たちの殺気が増してしまった。
「ご案内します」
「いや、コアに乗って行けばすぐだしいいよ。それにダダビスさん、すごい顔色だよ。後ろの2人も」
だってそれは、主様の左右と後ろが怖いから。
なんて言えたらいいのだが、言えないよな。
ちらりと主様の周りを見る。
……言えないな。
「大丈夫です。お気遣いありがとうございます。換金場所は知っていますから、どうぞ我々に案内をさせてください」
それに、ここで案内しなかったら王になんて言われるか。
森の王も怖いが、エントール国の王も怖い。
どっちが怖いかと言われると……どっちだろ?
森の王は怖いけど、かっこいいんだよな。
昔からずっと森の存在とかかわりを持ちたかったから。
だから、怖いけどちょっと関われる自分が誇らしいというか。
王は……最近、無茶な命令ばかりだからな。
尊敬はとりあえずしてるけど……。
「ヒール」
主様の声と同時に柔らかい光に包み込まれる。
「「「えっ!?」」」
キミールとカフィレットの声も聞こえる。
まぁ、そうなるよな。
それにしても光が消えたら体が軽くなった。
これはもしかして癒しの魔法?
体を動かしてみる。
すごい、森を歩いてきたから足が疲れていたんだが、それが綺麗さっぱり無くなっている。
体もやはり軽いし……誰かに自慢したい!
王都に戻ったら、仲間に自慢してやる!
「主の魔法はどれも強力だな」
森の王の言葉に無言で頷く。
こんな完全に体の痛みが消えて、跡が……ん?
傷跡も綺麗になっているな。
これほどの魔法を我々に施してくれるなんて、なんて優しい主様なんだ。
しかも、癒してくれたのにまだ心配してくれた。
本当に優しい方なのだな。
王に言われるとか関係なく、もっと役に立ちたい。
これは絶対に、案内をしよう。
「換金が出来ればいいのですか? それとも換金場所も探しているんですか?」
ん?
カフィレットはどうしてそんな事を聞くんだ?
換金したいから場所も聞いているんだろうが。
「場所も確認したい。次の換金の時にスムーズに出来るように」
次?
つまりまたこの国に来てくれるという事か?
今の会話から考えられる事は、そういう事だよな。
そうか。
次があるのか。
そうだ、この村と王都を繋ぐ何かが必要だな。
今は、連絡さえままならないからな。
王都に戻ったら、魔術師達に相談だな。
失敗した。
どうして馬に乗れるかなんて聞いてしまったんだ。
森の王がいるのだから、そちらに乗られるに決まっているじゃないか。
エンペラス国でお会いした時も、森の王に乗っておられたのに。
森の王からの殺気が一気に増えてしまった。
ちらりとカフィレットを見る。
うん、真っ白な顔色だな。
ここは少し離れよう、待機させている部下たちの事もあるし。
「ここで少し待っていてください」
あまり待たせるのも失礼だろうな。
急いで部下に指示を出して、馬を連れてこないと。
部下の下に駆け足で戻る。
「あの、どうなりましたらか?」
部下の1人が、興奮を抑えきれない様子で話しかけてきた。
しかし「たらか」は無いだろうけどな。
まぁ森の神、主様と呼ばせていただいている方や、森の王が目の前にいるからこの興奮状態なんだろうが。
「落ち着け。主様は少しこの国に用事があっていらしている。その用事が隣の村でしか出来ないから、我々が案内することになった。お前たちは王都に戻れ」
「えっ! 我々も共に行ってはダメですか? あれ? 主様?」
最初とは違う部下から不平と疑問が出る。
それはそうだろうな。
主様や森の王にかなり近づけるのだから。
だが、主様の様子からあまり仰々しいのは歓迎されないように感じる。
だから、全員で行くのは駄目だ。
「あぁ、今回は諦めてくれ。それと森の神直々に主様と呼ぶことを許された」
諦めてくれという言葉より、呼び方の方に皆は興奮したようで騒ぎ出した。
あれ?
主様呼びは森の神が許可してくれたんだっけ?
えっと、あの時は色々混乱中だったから記憶が……森の王が許してくれたんだったかな?
でも、主様は拒否もされてないし……許されたんだよな?
……うん、許されたはずだ。
「それと、この国にはまた来てくれるような事を言ってくれた。今回、いい印象を持ってくれたら訪れる回数も増えるかもしれない」
そのためには、俺たちが頑張らないと駄目だな。
まぁ、あの方の傍にいられるなら、頑張れる。
ちょっと周りが怖いけど。
俺の言葉にわっと盛り上がる部下たち。
「俺たちはすぐに森の神の下へ戻る。お前たちは王都に戻り休憩しておいてくれ」
部下に指示を出すと、馬に乗って森の神の下へ行く。
広場で待っていると言っていたな。
あれ?
わざわざ、広場から出てきてくれたのか?
「あれ? ダダビスさんたちだけ?」
えっ?
もしかして、部下たちも一緒の方がよかったのか?
早合点してしまったか?
「えっと、王に報告することがありましたので、先に帰るように言いました」
主様の様子を窺う。
少し何かを考えたが、特に不快に思っている様子は無い。
大丈夫だろう。
あっ、そう言えば気になる事がある。
もっと早く訂正できれば良かったんだが……。
「あの、私の事はダダビスとお呼びください。さんは必要ありませんので」
「えっ?」
えっ!
どうしてそんなに驚かれるんだ?
何か不快に思うような事があったか?
無かったよな?
大丈夫だよな?
「あの、何か問題でも」
何を言われても覚悟しないと。
「分かった。ダダビスだな」
……名前?
「はい」
それだけ?
主様の様子を見るが、それ以上は無い。
良かった。
何かあったのかもしれないが、許されたようだ。
あれ?
顔がどうしたんだろう?
手で顔をぺたぺた触っている主様を見る。
首を傾げて見ていると、なぜか力強く頷かれた。
……分からない。
とりあえず、隣の村へ案内しよう。
「では、ついて来てください」
馬には悪いが、急いで隣の村まで行こう。
馬の様子を窺う。
森の王に少し委縮しているが、問題なく走れそうだ。
首のあたりをポンポンと叩き、足で合図を送る。
どんどん加速させると、今までで一番早く走っている気がする。
主様と森の王たちを見る。
「すごいな、余裕がありそうだ」
「そうだな」
俺の言葉にカフィレットが答える。
キミールも後ろをさっと見て、頷いた。
この速さで余裕があるとは、さすがだ。
11月10日に3巻の発売されました。
皆様の応援のお陰です。
ありがとうございます。
2ヶ月連続発売記念のコラボ小説をアップしています。
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