11.怖くないよ~
「本当に、大丈夫なのか?」
何度も何度も遠慮したが、なぜか案内すると言ってきかない。
仕方ないので、案内してもらう事にしたが……。
後ろの1人は、体が震え始めているのが気になる。
仕方ない。
「ヒール」
3人に病気やけがを癒す魔法を掛ける。
光が3人を包み込むとすっと3人の中に消えていく。
「「「えっ!?」」」
3人の驚いた表情を見ながら様子を窺う。
良かった。
顔色が元に戻っているし、震えも無い。
ヒールの魔法は彼らにも効果がある。
クウヒ達に使用しているが、森の中と外では違うのではと不安だったのだが杞憂だったな。
「主の魔法はどれも強力だな」
コアのちょっと呆れた表情に、俺は首を傾げる。
強力?
そんなつもりはないが、今の魔法も強力だったんだろうか?
「あ~と、何か体に問題は無いか?」
強力だとコアが言うならそうなんだろうけど、癒したつもりが負担を掛けているなんて目も当てられない。
「大丈夫です。ありがとうございます」
ダダビスさんが、自分の体を少し動かして確かめてくれた。
他の2人も無言だが頷いているので大丈夫だろう。
「あの、失礼ですが」
ダダビスさんの後ろにいる、確か補佐を務めているカフィレットさんだったかな。
その彼から声を掛けられた。
「なんですか?」
「換金が出来ればいいのですか? それとも換金場所も探しているんですか?」
ん~、換金は絶対だ。
子供達の先生が必要だからな。
今は、先生は2人ぐらいを考えている。
この世界の常識と、読み書きに算数。
これがある程度進んだら、この世界の色々な事を学ばせたい。
となると、途中で先生を増やすことになるだろう。
先生を増やすとなると、またお金が必要となる。
つまり、換金場所も把握しておく必要がある。
ダダビスさんたちにまた会えるとも限らないし。
「場所も確認したい。次の換金の時にスムーズに出来るように」
俺の言葉にカフィレットさんが頷く。
「そうですか、では……馬には乗れますか?」
馬?
それは無理だな。
「主は我が乗せるので問題ない」
俺が答える前に、コアが気に入らないとばかりに少し牙を見せて答えてしまう。
「そ、そうでしたか。わら……我々は馬を取りに行ってきますので、ここで少し待っていてください」
やはりコアは怖いのか、思いっきり噛んだな。
まぁ、それは気にしない事にして、待つのはいいがここは道の真中だよな。
他の場所は……周りを見ると、少し離れたところに広場のような場所があり椅子が見えた。
「あの広場で待ってますね」
「分かりました。すぐに準備を整えてきますのでお待ちください」
ダダビスさんが、胸に手を当てて頭を深く下げると仲間たちの方へ走っていく。
やはり畏まられている。
打ち解けるのは、すぐには無理か。
「この広場は、椅子と机しかないんだな。……後は棒?」
子供の遊び道具である、ジャングルジムやシーソーが無い。
この世界にあるのかは不明だが。
子供が遊べそうな道具は置いていなかった。
代わりに長い棒が、広場のあちらこちらに突き刺さっている。
意味があるのかもしれないが、今のところ不明だ。
子供の遊び道具が見られないという事は、大人の憩いの場かな?
それにしては、花を植えた花壇などが無く殺風景だが。
ぼーっと広場を見ていると、馬の蹄の音が近づいて来るのが分かった。
広場から出ると、ダダビスさん3人だけで一緒にいた他の獣人達の姿がない。
「あれ? ダダビスさんたちだけ?」
「えっと、王に報告することがありましたので、先に帰るように言いました」
ダダビスさんが、焦った表情で言う。
もしかして忙しかったんだろうか?
でも、断っても大丈夫としか言わないしな。
……これはとっとと用事を終わらせて解放してあげた方がいいな。
次の村までどれくらいだろう?
「あの、私の事はダダビスとお呼びください。さん付けは必要ありませんので」
「えっ?」
でも、この国の騎士だよな?
俺は……この国では平民? 不法侵入者?
いや、不法侵入はないか。
この国の騎士であるダダビスさんが、案内してくれるんだし。
あっ、さっき森の神とか呼ばれて、コアが主と訂正して……。
俺っていったいどんな存在になってるんだ?
子供達のためにと思ったが、ちゃんと話し合った方がいいだろうか?
「あの、何か問題でも」
ん?
なんでまた顔色が悪くなっているんだ?
……もしかして緊張か?
俺ってかなり誤解されてないか?
あ~、どんどん悪くなる!
「分かった。ダダビスだな」
「はい」
あ~、すごく安堵された。
やばい。
俺ってかなりやばい存在として認識されているみたいだ。
俺ってそんな怖い顔をしているだろうか?
……普通だよな。
可もなく不可もなく……普通だ。
決して強面ではない!
「では、ついて来てください」
「あぁ」
コアに跨って、彼らの後を追うようについて行く。
コアの眉間に皺が寄る。
遅い……馬は速いイメージがあったけど、コアと比べるとかなり遅い。
もしかして、俺が自分で走った方が早いかなこれ?
「まぁ、急いでないしゆっくりと行こう、コア」
せっかく案内してくれているんだ、ゆっくりゆっくり。
「主がそう言うなら仕方ないな」
コアが諦めたように、小さくため息を吐いた。
それに苦笑してポンと頭を撫でる。
「それにしても、のどかな風景だな」
周りを見ると田畑が並んでいる。
まぁ、作業をしている人たちが唖然と俺たちを見ているので、のどかとは少し違うかもしれないが。
「この辺りは森が近い、森の恩恵を受けるのに最適な場所と言えるだろう」
森の恩恵?
そんなものがあるのか?
「恩恵って?」
「川だ」
川?
そう言えば、森から川が何本も村に流れ込んでいたな。
あれが森からの恩恵なんだ。
川の水が何か特別なのかな?
アメーバがいるぐらいだよな……ふぁ~眠いな。
そう言えば、川の水には魔力が含まれていたよな…………。
「主、見えて来たのではないか?」
チャイの言葉に、ふっと意識が戻る。
……寝てた?
コアの上に乗って寝るのは初めてだ。
ゆっくり走ると駄目だな。
揺れが眠気を誘う。
コアが魔法で、俺の体を支えている安心感もあるんだろうな。
「ふぁ~、あれか」
お~、木の外壁がある!
しかも立派な門まであるんだ。
村に入るには、チェックを受けないと駄目みたいだな。
今回はダダビスたちがいるから大丈夫だろうが、いない時はどうするべきかな。
「先に行って、通れるようにしてきます」
ダダビスが後ろの俺に声を掛けてから、少し速度を上げて門まで駆けていく。
なんだ、まだ速度はあげられたのか。
「随分と立派な門と外壁だな」
門は大きく、太い木を使用しているのかどっしりとしており重厚感を感じさせる。
そしてその門に連なるのは、門に使われている木と同じ色の木の板。
木の板もかなり高さがあり、それがずらりと並んで村への侵入を拒んでいるように見える。
外壁の先を見たが、ずっと続いていて端が分からなかった。
「あの」
「はい?」
彼は副団長のキミールだったな。
「別に戦争をしようとしているなどという事は、ありませんので」
えっ、今なんて言ったんだ?
確か戦争……しようとはしていないって事でいいのか?
焦っているのか、ちょっとおかしかったよな?
まぁ、どうも俺に緊張しているみたいだから仕方ないとして、どうして急にそんな話をしたんだ?
コアを見ると、なぜかじろりとキミールを睨みつけている。
え~……なんで?
何か戦争に関する物でもあったのか?
それを俺に見られたから焦っているって事か?
周りを見回すが、のどかな田園風景だ。
「あの……」
「大丈夫だ、この国が戦争をしようとしているなんて思っていないから。うん。戦争は無い方がいいからな」
何が何だかさっぱりだが、これで大丈夫だろう。
しかし、この世界は戦争が勃発する可能性があるのか?
えっ?
森の問題が終ったのに、次は戦争?
いやいや、無理無理。
「り、理解いただけてよかったです」
いや、理解してないよ。
もうさっぱり、何を言っているのかわかってないから。
これは訊くべきか?
でも……キミールを見ると、ものすごく安堵した表情をしている。
「お待たせしました」
びっくりした。
ダダビスか。
「すぐに通れますので、どうぞ」
「何かする必要はないのか?」
こんな不審者なのに、ノーチェック?
大丈夫か?
「そう言えば、上から侵入されるのはどう防ぐんだ?」
「「「えっ!」」」
俺の言葉に固まった3人。
……あ~、聞くんじゃなかったな。
ごめん。
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