08.俺の家はここだから!
「主、森を出るのか?」
昨日一つ目のサブリーダーと話した内容が、もう広まっているのか?
コアを見ると不安そうな表情で俺を見ている。
隣にいるチャイも似た表情をしているが、どうしたんだ?
何か、あったのか?
「子供たちに教師を雇いたくて、探しに行くつもりだ」
「子供たちにきょうし?」
教師が分からないかな?
「勉強を教える者の事だ」
「あぁ、教師か。知識としてはあったが、使わないからすぐに思い出せなかった」
納得したように頷くコア。
「主。どうして子供たちに教師が必要なんだ?」
「この世界の常識を知らないと、子供たちが森から出た時に大変だろ?」
「出た時?」
「あぁ、皆いつかは出ていくだろうから」
子供達は、いつかきっと森の外へ興味を持つはずだ。
そして、森から出て生活をしようとする子もいるだろう。
あれ?
コアが、なんとも言えない表情をしているな。
何か、間違った事を言っただろうか?
「あの子達は、ここから出ていかないと思うが……」
「えっ?」
出ていかない?
あっ、もしかして今はそう言ってくれているのかもしれないな。
だが、成長すれば考えも変わるだろう。
そのための準備なんだが、どういえば伝わるかな。
「今は森から出ないと言っていたとしても、成長していくと考えが変わることがあるんだ」
「考えが変わる?」
「あぁ」
森が住処のコア達には理解出来ないかな?
もっと心の変化を上手く説明出来たらいいんだけど、苦手なんだよな。
「主は森へ帰って来るのか?」
「えっ? 当たり前だろう? というか、俺の家はここなんだが」
「そうか」
コアの尻尾がくるくる回る。
もしかして、森から出たら帰って来ないと思われていたのか?
えっ、なんで?
何回か森から出たが、ちゃんと帰って来たのに?
よく分からないが、不安に思わせる事をしてしまったようだ。
……考えても原因が分からないな。
とりあえず、不安に思っているならちゃんと誤解を解かないと。
「コア、俺にとってここが家で帰ってくる場所だ。だからたとえ森から出てどこかの国へ行っても、それは用事があるからで、森から出ていくためではない。ずっとこの家で生活をしていくつもりだから」
「そうか! 分かった!」
尻尾の揺れが激しくなったな。
隣のチャイも同じ反応をしている。
かなり喜んでいるので、俺の気持ちは伝わったんだろう。
よかった。
それにしても、俺のどの行動が不安を煽ってしまったんだろう。
昨日の一つ目とした会話からだよな。
……やっぱり思い当たる事は無いな。
言葉がしっかり通じているのに、難しいな。
「そうだ、コア。チャイ」
「どうした?」
「どうかしたのか、主?」
チャイって必ずコアが話した後に話すよな。
コアの方の種が上位種だと言っていたから、それの関係か?
それともただ単に、コアの尻に敷かれているだけか?
コアとチャイをじっと見る。
チャイは俺を見ながら、ちらりとコアを何度か見る。
これは、後者だな。
「「主?」」
「あっ、悪い。えっと、獣人が多くいる国へ案内をしてほしいんだ」
「獣人達が多くいるところなら知っている。だが、あそこが国なのかは分からない」
まぁ、国なんて人や獣人が勝手に境界線を決めて作った物だろうから。
森にすむ者達には、興味が無いか。
「そうか。なら獣人が多くいる場所へ案内してくれないか? ウサとクウヒも一緒に勉強をさせたいから、獣人の教師を探したいんだ」
人間に虐げられていたんだから、人間の教師は止めた方がいいだろうからな。
俺の言葉にコアが頷く。
「分かった。森を2日ほど駆ければ、行ける距離だ」
2日ほどの場所なのか。
「すぐに教師を連れてくるのか?」
「いや、雇うには金が必要だから。まずは魔石がお金に替わるらしいから換金だな」
「金か。何をするにも、必要な物らしいな」
コアの言葉にチャイが頷く。
「あぁ」
コアもチャイも、お金の知識があるのか。
「この世界のお金の単位を知ってるか?」
俺の質問に、首を横に振るコア。
チャイも知らないようで、首を横に振る。
まぁ、コアもチャイも使う事がないからな。
「悪い。おかしな質問をしたな」
「構わない。でも、攫ってきたらお金は必要ないだろう?」
コアもか!
そしてチャイもか!
「それは駄目だ。この世界で円滑に生活するには、ちゃんと金で雇わないと」
「そうなのか? 人も獣人もエルフも面倒くさいな」
チャイが発した言葉に驚いて、思わずチャイを凝視してしまう。
「主?」
チャイの不思議そうな表情。
「あっ、悪い。この世界にはエルフがいるのか?」
「主は知らないのか?」
「あぁ。この世界の知識が皆無だからな。上から人や獣人を見に行ったが、エルフは見なかったと思う」
エルフという言葉は、しっかりと覚えている。
妹が嵌った乙女ゲームで、「推しが美しい」と何度も見せられた。
確か整った顔に尖った耳が特徴だったかな?
そして長命という設定だったはずだ。
ただこれは、地球で妹がやっていたゲーム内のエルフの設定だ。
本当の姿が違う可能性があるから、気を付けないと駄目だな。
「エルフの国があるのか?」
「あれがエルフの国なのかは分からないが、多くのエルフ達が住んでいるところなら知っている」
エルフが多くいるなら、エルフの国という認識でいいかな?
「で、主はどこに行きたいんだ?」
まずはウサとクウヒのためにも、獣人の教師だな。
「獣人が一番多いところに案内してくれ」
…………
「主、あそこだ」
コアに案内してもらう事1日とちょっと。
予定では2日と言っていたが、実際はそれほどかからなかった。
その原因はコア。
前より空を駆けるスピードが上がっていた。
悲鳴を上げなかった自分を褒めたい。
「主、ここから見えるのが獣人が多くいるところだ。ここはまだ少ないが、この道を進んでいくと獣人がいっぱいいた」
以前、コアに連れて行ってもらった場所は、一面に畑が広がっていた。
見事なほど見渡す限り畑で、そしてなぜか畑から魔力を感じた。
駄目だろうと、魔石の力を借りて魔力を取り除いたが、あの後ものすごく後悔した。
もしかしたら、わざと魔力を土に与えていたかもしれないのにと。
今回は余計な事はせずに、様子を見るだけにしようと思う。
ただ、持ってきた魔石を換金できればしたいところだが。
「コア、とりあえず……」
これってまた、密入国だよな。
でも、見える範囲で密入国を取り締まっている獣人はいないみたいなんだよな。
空からお邪魔するのは、失礼だよな。
これも前回の反省なんだけど。
「歩いて、村なのかな? 見て回ろうか」
「分かった」
後ろを見る。
今日はコアとチャイ、そしてコアの子供が2匹。
目立つかな?
あれ?
そう言えば、コアって森の王と呼ばれている存在じゃなかったかな?
確か、コアの事を聞いた時にそう言っていた気がする。
森の王が村を闊歩するのか?
……間違いなく目立つよな。
「あ~、村の人たちを驚かせたくないから、コアとチャイは待機をしてほしい」
「なぜ? それに守りが2匹になる。確かに私の子でそれなりに鍛えているが不安だ」
「コアって森の王と呼ばれる存在だろう? さすがに目立ちすぎると思うんだ」
「うぅ、そう言われると……」
コアの尻尾がだらんと垂れる。
悪いとは思うが、目立たない行動を取りたい。
「俺も駄目なのか?」
チャイが前足で地面を叩く。
「えっ! チャイはコアと一緒にいたいだろう?」
「……まぁ、そうだな」
ちょっと照れたチャイ。
が、コアに前足で頭を殴られた。
「ぐっ。コア、痛いんだが」
「ふざけた事を抜かすからだ」
あ~、コアの目が据わってる。
ほら、チャイの尻尾がちょっとお腹に回っているじゃないか。
「チャイも強いよな」
「あぁ、私が一から鍛えたからな」
「頑張った……ははっ」
えっと、何があったんだ?
チャイの目が遠くなったんだが。
これは、触れないほうがいいよな。
「護衛はチャイに頼むよ」
コアが満足そうに頷く。
チャイは、コアの機嫌が直ってホッとしているようだ。
よかった。




