04.元に戻った!
家に戻る途中、広場で特訓している皆の様子を見る。
元気だね。
そして、今日もいつもと変わらず火と水と雷の魔法の乱発合戦。
あれ?
今何かが通り過ぎたような……もしかして風魔法も混ざっているのかな?
見えないから気付かなかったな。
うん、今日もいつもと変わらないな。
「主、おはよう」
「ん? ふわふわか、おはよう。あれ?」
目の前に飛んで来た、2メートルほどに小さくなっているふわふわ。
何だろう?
何かが違うような気がする。
ん~、見た目はいつも通りだな。
何が違うんだ?
「あっ、魔力だ! ふわふわ、魔力が変わったのか?」
「主、気付いたのか?」
「あぁ、魔力から感じる強さがいつもと違う」
「そうなんだ! ようやく魔力が元に戻ったんだ」
そう言えば、ふわふわたち神獣はこの世界の維持のために力を使われていたんだったな。
その後は魔眼のせいで、残っていた力もかなり減って危険な状態だったと聞いた。
そうか、元に戻ったのか。
それにしても元に戻っただけなのか?
全く別の魔力になったと感じるほど力強いんだけど……そういうものなのかな?
まぁ、ふわふわが元気なら気にする事でもないか。
「よかったな」
「あぁ、主のおかげだ。ありがとう。主の魔力は俺たちを拒絶しない。だから思った以上に早く元に戻る事が出来たんだ」
ふわふわの言葉に苦笑が浮かぶ。
俺の魔力は、ここにいる皆にとってとても気持ちがよく相性がいいらしい。
話が出来るようになって、言われたが正直なところ実感はない。
なんせ勝手に垂れ流してる魔力だ。
どんな魔力だと言われてもな。
「でもよかったのか?」
「何がだ?」
「神獣なら元々神力なんだろう? 魔力のままでよかったのか?」
アイオン神は、希望すればいつでも祝福を授けると言っていた。
祝福を受けると神力が使えるらしい。
この辺りはさすが神様だよな。
普段この家にいる様子を見る限り、疲れ切ったサラリーマンに見えるけど。
いや、服装は神様っぽいからサラリーマンというより疲れ切った教祖?
「あぁ、その事か。もう既に体が魔力になれているしな。神力は確かに強いけど……主は神力の方が良い?」
「いや、俺はどっちでもいい。ふわふわが自分のために決めたらいいよ」
確か魔力には制限が結構あるが、神力には無いんだったかな?
アイオン神が説明してくれたが、興味がなかったから聞き流したんだよな。
「主は欲が無いな~。ここにいる神獣が全員神力をもったらすごいのに。なんでもできるよ」
「俺だって欲はあるが、別に神力は必要ないな。俺の力で出来る範囲でいいよ」
「主の出来る範囲って……」
ふわふわが俺の言葉に、呆れた雰囲気を出す。
ん?
あっ、そうか。
俺も結構色々出来る力を持っていたんだっけ?
最近使ってないから、忘れてた。
「主ほどの力を持っていたら、星の監視者にすぐなれるよ。もしかしたら星だって作れるかも」
「どちらも全然嬉しくない。だいたい、面倒くさいだけだろ監視なんて。星を作ってどうするんだよ」
俺の言葉にふわふわが笑う。
神様にとって監視者という立場は、なりたくてなれるものではないと聞いた。
なんでも星を任される事は、一人前の神として認められるという事らしいから。
神様の見習いたちは監視者を目指すと聞いた。
他にも、なんだったかな。
アイオン神が色々言っていたが、どれも聞くまでもなく却下だったので聞き流してしまった。
「あれ?」
「どうした?」
「あれって、毛糸玉だよな?」
ふわふわの視線を追うと、赤い龍がこちらに向かって飛んで来ている。
間違いなく毛糸玉だ。
が、赤い鱗がいつもと違う。
ところどころに黒い模様が浮かび上がっている。
「何か問題が起きたのか?」
心配になってふわふわの体にそっと手を当てる。
最近はのんびり過ごしていたから、ちょっと焦ってしまう。
「いや、あれは……進化だと思う」
進化?
龍って進化するのか?
龍が最終的な姿じゃないのか?
「えっと、進化って?」
「俺にも分からない。神力だったら、新たな力を手に入れる事になるけど、俺たちが扱うのは魔力だ。普通は進化しないと思うんだけど」
それって毛糸玉が普通ではない状態だという事になるのでは?
「こっちに来る」
「主~」
毛糸玉が嬉しそうにこちらに向かってくる。
途中で体の大きさを小さくしたので、今の大きさはふわふわと同じ2メートルぐらいだ。
「毛糸玉、大丈夫なのか?」
「ん? 何が?」
何がって、気付いていないのか?
いや、それは無いよな。
「毛糸玉、体に模様が浮かび上がっているぞ」
ふわふわの言葉に毛糸玉が、パッと嬉しそうな雰囲気になる。
「そうなんだよ! どうも進化をするみたいで。起きたらびっくりした」
興奮しているのか、いつもより砕けたしゃべり方になっている。
「体に異常はないのか? 毛糸玉も魔力を扱っているんだろう?」
「そうなんだよ。なのに進化。どうなるか楽しみなんだ」
毛糸玉の様子だと進化はそれほど問題が無いのか?
でも、普通ではないんだよな。
ふわふわを見ると、ちょっと困った感じ。
やはり、何か問題があるのか?
「毛糸玉。普通はあり得ないだろう?」
「なぜだ?」
毛糸玉の言葉にふわふわがため息を吐く。
ちょっと呆れた感じだ。
「俺たちが扱っているのは魔力だぞ。進化は神力でしか起きない」
「そうだけど、主の魔力を取り込んでいるし」
俺?
俺の魔力が原因なのか?
えっ、俺の魔力は龍たちを攻撃しないんだよな?
「ん? どういう事だ?」
ふわふわの言葉に毛糸玉が驚いた表情をする。
「ふわふわ、大丈夫か? 頭でも強打したか?」
毛糸玉がふわふわの頭を見て心配そうに訊く。
何気に失礼だよな?
「はぁ?」
そりゃ、ふわふわは怒るよな。
ふわふわが毛糸玉に向かって尻尾を振り上げる。
それをさっと避けた毛糸玉。
そのまま尻尾は地面を叩く。
「うわっ」
尻尾が地面を叩いたため、砂が舞い上がる。
とっさに腕で目元を隠し、衝撃を覚悟する。
が、パラパラと音はするが、砂ぼこりが襲い掛かってはこない。
どうも、俺が独自に張った結界が上手く作動したようだ。
良かった。
そっと目を開けて周りを確かめると、農業隊に尻尾を掴まれているふわふわがいた。
「あっ、そう言えばここ。畑に近かったな」
ふわふわを見ると、焦ったように体をバタバタ動かして逃げようとしている。
だが、農業隊は掴んだ尻尾を逃がさない。
どこにあれほどの力があるのか訊きたいが、絶対に外れない。
農業隊が「もういい」と思うまで。
毛糸玉がそっとふわふわから離れる。
「主~」
いや、俺も怖いから。
農業隊を怒らせたら怖いから!
「えっと、農業隊、ちょっと話が……」
俺の言葉に、冷たい風が返ってくる。
これは怒っているな。
悪いふわふわ、無理。
ふわふわに向かって首を横に振る。
「あるじ~」
無理だって。




