表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に落とされた…  作者: ほのぼのる500
番外編 光
241/672

5話 光

「話すのは久しぶりだね。大丈夫か?」


目の前にいるアイオン神に小さく頷く。

良かった、前みたいな事にはならないようだ。

俺がホッとした表情をすると、アイオン神も安堵した表情を見せた。

そのアイオン神の態度に、申し訳なくなる。


アイオン神に悪気は無かったのだ。

ただ、目の前に俺がいたからいつも通り挨拶をしただけだった。

だが俺はその時、神に強い恐怖心があり話しかけられた事でパニックになってしまった。

たまたま1人でいたのも、運が悪かったとしか言いようがない。

声が出ないため悲鳴こそあげなかったが、混乱した俺は大泣きし震えた。

その様子を見た親玉さんが、糸でアイオン神をぐるぐる巻きにすると俺から引き離した。

その間10秒ぐらい。

恐怖で震えていたが、目の前からアイオン神がどこかへ飛ばされた時は、震えるのも忘れて驚いてしまった。


俺が、アイオン神を怖がっていると皆に伝わると見事な連係プレーで、アイオン神に正面から会う事はなくなった。

でも、アイオン神はたびたびこの世界に来るのでその姿はよく目にした。

最初は目にするだけで怖かったが、よく観察するとふわふわや水色に悪戯されて水浸しだったり。

畑に落ちたために、畑を守っているゴーレム達に追い掛け回されたりと、なんだか大変そうだった。

俺が知っている神とはあまりにも違うその姿に、いつしか恐怖心は薄れていった。

この間なんて、理由は知らないが一つ目のゴーレム達に正座をさせられて1時間ほど説教をされていた。

主によれば、アイオン神は神様の中でも上の方の立場だと聞いていたけど、全く威厳は無かった。

周りの目を誤魔化すための演技なのかと怪しんだりもしたが、無駄な時間だった。

ここで過ごすアイオン神は、ただ気ままにそこにいて、皆と楽しく過ごしていた。

主曰く「上からも下からも問題を押し付けられて、ストレスが溜まっているのだろう」とのこと。

ストレスをためる神を想像したら、残っていた微かな恐怖心も無くなった。


「つらくないか? 怖かったらすぐに言え」


隣にいるチャイは、俺の様子をじっと見つめる。

それに笑顔で大丈夫と返す。

チャイの周りを見回すがコアがいない。

珍しいなと感じて、首を傾げる。


「光。コアはフェンリルだけの集まりがあって、ここにはいないんだ」


俺が何を疑問に思っているのか気付いた主が答えてくれる。

なるほど、だから別々なのか。

いつもよりチャイの耳がしょんぼりしているのはそのためか。

本当にコアとチャイは仲がいいよな。

これがおしどり夫婦というものなんだろうな。


「えっと、話をしていいか?」


アイオン神が俺を見て、少し情けない表情をした。

色々思い出していて、目の前にいるのを忘れていた。

もう一度、アイオン神に頷く。


「ありがとう。光を生まれた世界から誘拐した神と協力した神達、それと実験していた神とそれに関わったすべての神達は捕まえてある。今は創造神、神々の一番上の神が管理する地下牢に繋がれている状態だ。翔に相談したら、被害者である光が罰を決めるべきだと。だから、彼らをどうするのか決めて欲しいと思っている」


前に主にも聞いている話だ。

俺に色々していた奴は捕まえてあるから、俺がどうしたいのか決めて良いと。

その際、どんな事でも受け入れさせると。


「難しく考えなくていいぞ」


主の言葉に頷く。


「奴らの事を考えたくないなら、アイオン神に丸投げでもいい」


えっ? いいの?

その言葉に驚いて主を見る。

主は俺の頭にそっと手を乗せ、撫でてくれた。

伝わる熱が気持ちいい。


「なんでもいいんだ。光が後悔しないように決めた事なら」


そうか。

なんでもいいんだ。

重く考える必要はないのかな?

俺は、奴らをどうしたいんだろう?

考えると胸がムカムカする。

きっと目の前に来られたら、恐怖で悲鳴を上げると思う。

アイオン神は大丈夫になったけど、奴らは無理。

まだ怖い。

どうしたい?

二度と会いたくない。絶対に会いたくない。


「光、決まったらこの球に手を置いて気持ちを伝えて欲しい。これは、話せなくても相手に気持ちが伝わる伝玉(でんぎょく)というものだ」


「へ~、便利なアイテムがあるんだな」


主がアイオン神の持っている伝玉を見る。

透明の球に、青と黄色と緑の色が各1本入っている。

どこかで、似たようなものを見た気がする。

どこでだったかな?


「これ、ビー玉みたいだな」


主の言葉に、もう一度伝玉を見る。

確かに、3色の色が混じったビー玉のようだ。

懐かしいな……。

お母さんが、お姉ちゃんに袋に入ったビー玉を買ってきた事があったんだよな。

それを、「綺麗だよ」と、お姉ちゃんが見せてくれて……。

会いたいけど、もうきっといないんだろうな。

どれだけの月日を閉じ込められていたのか分からないけど、随分と長い間だったような気がする。

そうだ、何かをしてほしいとは思わない。

俺がやられた事をやり返したいという思いはあるけど、そこまで落ちたくない。

だけど、俺がされたように閉じ込められればいいと思う。

俺が閉じ込められた以上の長い時を、あの暗闇に……。


「決まったか?」


アイオン神が俺を見て、伝玉を差し出したのでそっと手を置く。

ひんやりした冷たさを感じて、ピクリと指が震えた。


「望みを」


アイオン神の言葉に頷くと、心の中で「俺が閉じ込められたような場所で、俺が閉じ込められた以上の時間を閉じ込めて欲しい」と願う。

伝玉から手を離すと、なぜか不安な気持ちが押し寄せた。

もしかしたら、すごくひどい事を願ってしまったのだろうか?

取り消した方が……。


「自業自得という言葉がある」


主の言葉に視線を向けると、俺を見て優しく笑った。


「被害者は光だけじゃない。恨みや悲しみを伝える事なく亡くなった者達も多い。首謀者の神も、手を貸した神達も罰を受けなければならない。光が決めた事がなんであれ、ひどい事ではない。と言っても、やめたいなら止めない」


俺以外の被害者。

覚えている。

皆、泣いて助けを求めて……なのに奴らは笑ってた。

そうだ、助けを求める俺たちを見て笑ってた。

別に怪我をさせるわけじゃない。

ただ、俺や彼らがいたあの暗闇に閉じ込めて欲しいと思っただけだ。

俺たちがされたように。

アイオン神を見て、頷く。

変えないしやめない。


「分かった。願いは必ず叶える」


アイオン神はそう言うと、すぐに立ち上がった。


「結果を知りたいか?」


アイオン神の質問に首を横に振る。

会いたくないし、知りたくもない。


「分かった。今の願いを翔に話しても大丈夫か? それとも秘密か?」


秘密?

そんな事をする必要があるのだろうか?

アイオン神の言葉に首を傾げると、アイオン神は首を横に振った。


「馬鹿な質問だったな。翔には俺から話しておく。翔、今から少し時間を貰えるか?」


「分かった。光は疲れただろうから、ゆっくりしていていいぞ」


主の言葉に頷く。

別に何かをしたわけでは無いが、どことなく疲れた気がする。

座っていた椅子から立ち上がって、周りを見る。

話が終った事に気付いたのか、風太が飛んでくる。


「光! 皆とおやつを食べよ!」


勢いよく飛んできた風太は、俺の周りをぐるぐると飛び回る。

この家には主が育てている子供達が数人いるが、この風太はなぜか俺に懐いてくれた。

最初の頃は戸惑った。

どうして懐いてくれたのかも、全く分からなかったからだ。

今も理由は分かっていないが、明るい風太が傍にいると笑みが浮かぶようになった。


「今日は、甘く焼いたパンに果物のソースをいっぱいかけたおやつだって。楽しみだね」


地面に降りた風太は、俺の手をギュッと握ると歩き出す。

風太に合わせてゆっくり歩くと、広場の隅にある湖に着いた。

そこには、簡易テーブルが組み立てられ、お菓子やジュースが用意されていた。


「怖くなかったか? 大丈夫だったか?」


親玉さんの言葉に、集まっていた皆の視線が集中する。

その視線の温かさに嬉しくなって、笑って大きく頷いた。

主のところに来て良かった。

生きてて良かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 主人公がまるで頼りになる大人みたいに錯覚しちゃいそう。 勇者のギフト無効にしてないんだから、同じ状態のはずなのに……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ