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異世界に落とされた…  作者: ほのぼのる500
番外編 光
238/672

2話

あれから何度か目が覚めた。

その度にあの一つ目と呼ばれる子たちが傍にいた。

目が覚めたと分かると手を振ってくれたり、ペタペタと顔に手を当てたりしてくれた。

なぜか、嬉しかった。

ずっと1人、暗い場所にいたからなのかな。

ここがどこかは分からないし、これからどうなるのか分からないけれど嬉しかった。

少しずつ体を動かすことが出来るようになっていく。

最初は手、次に肩まで動くようになって。

体を起こそうとすると一つ目たちが手伝ってくれた。

綺麗に整えられたベッドに寝ていると気が付いたのはこの時。

周りを見ると、不思議な空間だった。

あの暗い怖い部屋とは全く違った明るい部屋。

でも、記憶にある病院とも違うと感じた。


「…………?」


『ここはどこだろう?』と声に出したつもりだった。

なのに声が出ない。

口を何度もぱくぱくと動かす。

でも、ヒューヒューと何か嫌な音がするだけ。

怖くなってギュッと手を握り締める。


「大丈夫? 今主が来るよ」


「どこか痛いところでもありますか?」


2体の一つ目たちが俺の手を両サイドからギュッと握ってくれる。

一つ目たちは岩のようだなと思っていたけど、意識がはっきりして驚いた。

本当に岩だった。

ごつごつした肌触りで冷たいのに、温かいと感じた。


「凄いな、もう起きあがれるのか。ん? どうした? 何かあったのか?」


あたたかな風で包み込んでくれる男性が来た。

話したいと思った。

なのに声が出ない。

口をパクパク動かしてみるが、ヒューヒューと空気が出ていくだけ。


「もしかして声が出ないのか?」


男性の質問に頷く。


「そうか。ちょっと体に触るな」


男性がそっと俺の頭に手を置く。

そして、ふわっと体の中を何かが通り過ぎたのが分かった。


「ん? どこも問題ないみたいだな。ということは心かな」


よく分からないが、声が出ない原因を探してくれたみたいだ。

俺はどうなるの?

話せないと分かったら不要な者として捨てられる?

じっと男性を見る。


「大丈夫。話が出来なくても気持ちを伝える方法なんて色々あるし。ここにいる者たちは俺のせいでなれてるし。皆良い方に勘違いしてくれるしな。うん。気にするな」


どう言う意味だろう?

良い方に勘違いって何だろう?

とりあえず、捨てられないのかな。


「ゆっくり心を癒していったらいいよ。そうしたらまた話せるようになるだろう。焦る必要はないよ。俺なんて1年以上意思疎通が出来ない状態だったからな~」


男性も話せなかったのかな?

意思疎通が出来ないってそういう事だよね。

だったら、捨てられないよね。

グッと男性の手を握る。


「ん? 何か心配事か?」


「目が覚めたの?」


「あるじ~、目が覚めたって聞いたよ~」


「煩くすると子供に負担がかかるだろう。落ち着けお前たち!」


なんだ?

男性が来た方向を見るが、誰もいない。

不思議に思って男性を見ると、上を向いている。

つられて上を見て、一気に血の気が引いた。

3匹の巨大な蜘蛛が天井にいた。

怖い。

握っていた男性の手に力を籠める。

俺はもしかしてエサなのか?


「ん? あっ、大丈夫。彼らは仲間だ」


殺されるのか。

やっぱりここも怖いところなんだ!


「大丈夫」


腕を引っ張られてギュッと抱きしめられる。

そして背中を一定のリズムでやさしく撫でられる。


「怖がらせてごめんな。あの子たちは仲間なんだ。だから君に何かすることはない」


「怖がらせてごめんなさい。目が覚めたって聞いて様子を見たかったんだ。皆心配しているし」


「そんなに怖がらないで」


「怖くないよ~。元気になったら一緒に遊ぼう」


ぶらーんと天井からぶら下がる蜘蛛たち。

正直、怖い。

でも、よく見ると何だか怖さが薄れていく。

なぜだろうと思っていると、蜘蛛たちの目が優しい事に気が付く。

巨大な蜘蛛だから怖いけど、目は怖くない。

不思議な存在。


「こいつらは子蜘蛛たちだ」


こ蜘蛛?

その『こ』ってどういう『こ』だろう。

まさか『子供』という意味ではないよね?


「ん? どうした?」


えっと、どう伝えればいいんだろう。

蜘蛛たちを指して、大きさを両手を広げることで伝えてみる。


「あぁ大きさか?」


伝わった!

何度も頷く。

次はどう伝えればいいんだ?

えっと、「『こ』とは『子供』という意味ですか?」なんてどうやったら伝わるの?


「大きさを質問したわけではないよな。そうだ、親蜘蛛たちはもっと巨大なんだ。子蜘蛛たちの5倍以上ある親蜘蛛たちもいるからな。元気になったら乗せてもらって森を散歩してきたらいい」


親蜘蛛?

という事は、本当に子供という意味の『子』なんだ。

っていうか5倍以上?

そんな大きいの?


「あれ? 何か知らないけど解決した?」


男性に何度も頷く。


「そうか、よかった」


子蜘蛛たちを見る。

天井からぶ~らぶ~ら。

うん、怖くないな。


「ん~、やっぱりジェスチャーで伝えるのは難しいよな! 以心伝心で意思の疎通ができないかな?」


以心伝心?


「どうした? 以心伝心がわからないか? 心で思ったことを伝える事……だったはずだ。あれ? 間違った? いや、以心伝心でいいよな。うん、大丈夫だろう」


心で思ったことを伝える?

だったら、話せなくても俺の言いたいことが伝わるのかな?


「魔法を掛けてもいいか?」


魔法を?

俺の体に掛けるの?

正直、怖い。

でも、俺の言いたいことが伝わらないときっと困るよね。


「主、先ほども魔法を掛けていませんでしたか?」


そうだよ。

さっき体を調べる為に、魔法を掛けたし大丈夫だよね。


「さっき? あれは魔法を体に通しただけだろう? 掛けたとは言わないだろう」


「そうでしたか」


さっきの魔法とは違うのか。

ギュッと手を握って頷く。

痛くないといいな。


「じゃ、掛けるな。えっと、糸電話をイメージしてみたらいいかな……よし! 以心伝心」


男性から何かが俺に向かってくるような気配を感じた。

これが魔法なんだろうか。

さっきは体を通り抜けたのに、これは体の中に入ってくる。

怖い!


「あれ?」


男性の戸惑った声に、ギュッと閉じていた瞼を開ける。


「えっと、何か考えて俺に伝えようとしてくれる?」


何かを考えて伝えようとする?

『ありがとう』

伝わって、伝わって。

どう?

視線で問うと、男性は首を傾げる。


「どうやら失敗したみたいだな」


えっ、失敗。

俺のせいだ。

もっとちゃんと伝えようとすれば、もう一度今度は強くギュッと瞼を閉じると。

ポンと頭に温かい体温を感じた。

閉じた瞼を開けると、やさしい笑顔をした男性。


「ごめんな、俺が失敗したみたいだ。さっき魔法を掛けた時に手応えが感じられなかったんだよ」


男性のせい?

俺じゃないの?


「君のせいではないよ。そんなに泣きそうな顔しないでくれ」


「大丈夫? どこか痛いの?」


「俺たちで出来ることがあったら言ってくれ。手を貸すからな!」


天井からぶら下がっている子蜘蛛たちが心配そうに俺を見ている。

一つ目たちも俺をじっと見て、心配そうだ。

視界が滲む。


「「「あっ」」」


何だろう、周りが慌てているのがわかる。

でも、どうしてだろう。

周りが滲んでよく見えない。

目も悪くなっちゃたの?


「頑張ったな。もう大丈夫だ。好きなだけ泣いていいぞ」


そうか、俺泣いてるんだ。

男性が少し強めにギュッと抱きしめてくれた。

あとから、あとから出てくる涙。

背中に少しひんやりした冷たさを感じた。

きっと一つ目たちだ。

どれくらい泣き続けたのか呼吸が少し苦しくなる。


「大丈夫、ゆっくり深呼吸して。吸って、吐いて。吸って、吐いて」


声に従うように深呼吸を繰り返す。

しばらく続けていると、意識がふっと遠くなる感覚がした。


「ゆっくり休め。起きたら仲間たちを紹介するな。ちょっと個性的だけど、皆優しいから」


仲間たちがいるんだ。

楽しみだな。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです。好きです。 気づいたら夢中で読んでいました。 続きも楽しくゆっくり読みますね。 可愛くて面白いキャラクターがいっぱいで本当に楽しいです。
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