番外編 自業自得です
今日は週に1回のワインの日、通称『酒乱会』だ。
初めの頃に比べると皆の飲み方が落ち着いた。
数回の火柱が上がる事と雷が地面を横切るぐらいなのだから。
たまに、大量の水がアメーバたちによって降り注ぐが。
それぐらいだ。
うん、それなりに落ち着いた。
最近は、『酒乱会』を週2回にしようとお願いされる回数が増えてきた。
ずっと断っていたら、マシュマロが真剣な顔でお願いがあると言ってきた。
訊ねると、やはり『酒乱会』の回数を増やしてほしいという内容。
「週2回にしたら、ブドウ畑をもっと増やす必要がでてくる。ブドウ畑の面倒を見ている農業隊は他の果樹や野菜の畑の面倒も見ている。これ以上、仕事を増やすのは可哀想だ」
と言ったら、マシュマロに畑へ連れて行かれた。
そこには農業隊とアメーバたち、子蜘蛛さんたちファミリー、子アリさんたちファミリーが勢ぞろい。
皆に『任せろ!』と言われた。
お願いって逃げ場をなくしてからされるものだっけ? と少し頭を抱えたがこうなっては仕方がない。
頑張って新しいブドウ畑を作るために開拓した。
後で農業隊にはこれ以上畑を増やさないから、お願いされても断ってと懇願しておいた。
効果があるといいけどな。
のんびり飲んでいるとありえない現象が目に入った。
「どうして普通に飲めないかな?」
少し離れた所で、晴れているのに一部分だけ雨が降り出した。
その下では4匹の子蜘蛛たちが顔を突き合わせている。
あっ、違う1匹は子アリだ。
何か火花が散りだしたので、そっと視線をずらして見なかった事にした。
あれ?
子蜘蛛たちって火は得意だけど水は苦手ではなかったか?
克服したのか?
もう一度視線を戻すと、4匹を囲うように炎が燃え盛っていた。
周りにいた子たちは既に避難したようだ。
やっぱり水より火か。
それにしてもあの紫色の炎、何度ぐらいなんだろう。
俺が知っている炎の色じゃない。
「どうしたの~あるじ~」
後ろからコアの仲間のソアが、俺の頭に顔を乗せて凭れかかって来る。
かなり酔っているのか、いつもある力加減が少ない。
「潰れる、潰れる!」
頭の上の顔をぽんぽんと叩くと少しだけ、軽くなった。
「うひゃ~、ごめん」
「いや、大丈夫だけど退く気はないんだな……それにしても、相変わらずお酒を飲むと口調変わるな」
「へへ~」
ソアの雰囲気にちょっとほんわかした気分になる。
「なんだと!」
それを壊す、怒鳴り声
「ん?」
見ると先ほどまで機嫌よく飲んでいた、クロウとシオンが怒鳴りあっている。
ついさっきまで狩りの方法で盛り上がっていたのにな。
「俺の方が狩りは上手いと証明してやっただろうが! あ~」
「はっ、あの日はたまたま体調が悪かっただけだ!」
何と言うか、随分と幼稚な喧嘩だな。
それにしても俺の前では知性溢れる雰囲気があった2頭が、あんなに口が悪くなるなんて。
酒によっていろいろな箍が外れてしまっているようだ。
「あの馬鹿たち、主の言いつけ守らないで大量に狩ってたもんね~、駄目だよね~」
大量に狩ってた?
もしかして数日前の山になっていた魔物の事か?
あれは大変だった、子鬼たちだけでは無理だと思い手伝ったが、それでも真夜中までかかったもんな。
「俺の好きな肉を食いやがったくせに!」
「ふざけるな、お前が食ったんだろうが!」
今度は肉?
肉ならそれなりに食っているはずだが、何の話だ?
「主が作ってくれた肉を横取りしただろうが!」
「お前がしたんだろうが!」
いつの話だ?
「馬鹿だね~、私が食べたのに」
もたれ掛ってくるソアの言葉に力が抜ける。
つまりあの2匹は全く見当違いの事で言い争っているわけか、ちょっと可哀想だ。
「止めた方がいいかな?」
「ほっとけばいいよ~、主がわざわざ出て行く事なんてないよ~」
ソアは良く争いごとの仲裁に入ってくれたが、こっちが素なんだろうか?
「お互いに潰し合ってくれたらいいよ~。ウヒヒヒ」
素ではない!
きっと酔っているからだ!
「言いがかりだ!」
「それはお前だ!」
本当に止めた方がいいみたいだな。
背中にもたれ掛っているソアに少し移動をしてもらい。
立ち上がり、2匹に近づこうと足を動かすと。
「俺なんて壺1つ全部食ってやったからな!」
ん?
壺?
「なんだと、お前も食ったのか!」
壺?
肉の話だったから壺に入った肉?
もしかしてバーベキューの時に食べようと漬けておいた肉の事か?
そう言えば、一つ目たちが慌てていた時があった。
あの時はまだ話をすることが出来なかったので、理解するのが大変だった。
分かった事は、貯蔵庫に置いてあった漬けこんだ肉が壺ごと消えていたという事。
一つ目たちが収穫の手伝いで畑に行っている時にやられたみたいで、皆悲しい表情をしていた。
凄い落ち込み様で、慰めるのが大変だった。
「俺なんて1回じゃないからな! 2回だ!」
「俺だって2回だ!」
あ~、自慢したい事なのかもしれないが、気を付けた方がいいと思うぞ。
立っていた俺は2匹から離れた場所を探して、座る。
ソアも神妙な顔で俺について来る。
クロウとシオンの周りにいた子たちも、そっと2匹の傍を離れだした。
皆酔ってはいるようだが、2匹の話がやばい事に気が付いたようだ。
毛でおおわれているので、顔色などは分からないがどの子も神妙な顔をしている。
2匹はまだ気が付かない。
「ん?」
何かの気配を感じて横を向いて、速攻目を逸らした。
一つ目たちが、クロウとシオンを見つめている。
あ~、もっと早く止めておけばよかったな。
でも、まぁ盗み食いは悪い事だからな。
「化けて出るなよ」
ソアの言葉にぽかりと頭を軽く叩く。
思いっきり叩くと自分の手が痛くなるからだ。
「下手な事は言わない。一つ目たちだって加減は出来る」
「いや、あの目を見てそう思うか?」
ソアの言葉にそっと少し離れた所に並んだ一つ目たちを見る。
「ハハハ」
一つ目たちの表情に背中を冷たい汗が流れる。
それにしても、おかしいな。
一つ目たちには表情はないはずなのに。
何処からどう見てもブチ切れているのが分かる。
うん、ものすごく切れている。
「あ~、今度はワイ…………………………」
あっ、シオンが気が付いたみたいだ。
ものすごい目を見開いている。
あぁ、何とも愛嬌のある顔になったな。
クロウが言葉を切ったシオンを不思議に思ったのか、シオンの見ている方向を見て、固まった。
うん、すぐに謝れ。
速攻で謝れ。
そうすれば、まだ生きていられるはずだ!
……ん~、俺も酔っているのかな?
「「ひっ!」」
声が出ないのか、小さな悲鳴をだし2匹が立ち上がり毛を逆立てる。
あれって、猫だけができる威嚇だよな。
あいつ等ってコアの仲間だからフェンリルっていう種だよな。
聞いたことがなかったけど、猫種なのか?
見た目犬種なのに。
……猫種だったのか。
「爪とぎ用意した方がいいかな?」
「主、爪とぎって何?」
「ソアもコアと一緒だな。爪とぎいる?」
「ん~、何か分からないけど、たぶん要らないと思う」
猫種なのに要らないのか?
あ~、今日はちょっと飲み過ぎたな。
クロウとシオンが赤い光に覆われているように見える。
あれって魔法を発動する前振りだったっけ?
こんなところで何をするんだ?
それにしてもクロウもシオンも威嚇するか、ビビるかどちらかにすればいいのに。
毛が逆立っているから威嚇していると思うが、尻尾が完全に体に巻き込まれているし。
あれって犬が見せる怖がっているサインなんだよな。
あれ、という事は犬種か。
なら爪とぎは要らないな。
「「ぎゃgyrsyh」」
叫び声とよく分からない言葉が広場に響き渡る。
どうやら一つ目たちの威圧? を恐れて逃げ出したようだ。
でも、それは無駄だと思うぞ。
なんせ、一つ目ってあの体格でものすごく速いから。
作った俺が言うのもなんだけど、あの足の速さは異常だ。
「gyps#dぎゃshspあーーーーーーーーーーーー!」
森の何処かから、何語なのか全く理解できない叫びが届く。
「…………………………いい夜だな」
「…………………………あぁ」
か細い声にソアを見ると、なんでソアまで尻尾を巻き込んでいるんだ?
何気に周りを見ると、数匹がソアと同じ反応をしている。
「ばれる前に謝れよ」
「おっ、おう」
毛でおおわれて見えないが、ものすごく顔色が悪くなっている気がする。
それにしても、あのコアでさえ怒らせないように気を付けているのに、よく一つ目たちの大切にしている物に手を出す気になるよな。
番外編、遅くなり申し訳ありません。




