79.やられた……子育て中
泣き出した幼い男の子、太陽を抱き上げて背中を優しく撫でる。
遊んでいた木のおもちゃを他の子供に取られたようだ。
「一緒に遊ばないと駄目だろう? 雷?」
俺の言葉におもちゃを取った雷は口を小さく尖らせる。
その顔は可愛いが、人の物を許可なく取るのは駄目。
その事をゆっくりと説明する。
すると小さな頭が縦に揺れた。
分かってくれたのかは不明だが、まぁ信じておこう。
「主、桜が眠いみたいなんだけど、どうしよう」
クウヒの言葉に視線を向けると、クウヒに抱っこされた幼い女の子。
桜が大きな欠伸を繰り返して、目をこすっている。
「ありがとう。一つ目たちがベッドを用意してくれたから、そこに寝かせてくれるかな?」
「分かった」
「そうだ、お昼まだ食べていないだろう? 俺を待つ必要は無いから、ウサと一緒に食べてくれ」
「分かった」
「いつも、ありがとうな」
クウヒの頭を優しく撫でると、嬉しそうに笑う。
この頃、小さい子たちの面倒ばかりだったから、いろいろ我慢させてしまったかもしれない。
ウサもクウヒも、なかなか気持ちを口にしない子供たちだからな。
後で、アイに2人が無理をしていないか聞いてみるか。
アイの種族はクウヒとウサを特に気に入っている。
2人のことを見守ってくれていたはずだ。
しかし、やられた。
あの日、アイオン神が来た日。
お願いがあると言われたが、断った。
絶対に碌なことではないと思ったからだ。
だが、話だけでも聞いてほしいと1時間ぐらい粘られた。
いい加減鬱陶しく感じて、話だけならと言ったのが間違いだ。
あんなことを聞いて、無視など出来るわけがない。
「ギフトを上から重ねていったせいで、魔法陣が誤作動を起こしたらしい。それに気付かず勇者召喚を行った神たちがいて、翔のような存在が何人か生まれたのだ」
「はっ? 俺のような存在? 生きているのか?」
「死にそうだった。なので対処した」
「そうか」
「で、お願いがある」
正直断りたかったが、俺のような存在という事は未知の存在だ。
居場所があるのか不安に思ってしまった。
「なんだ?」
「彼らをこの星で受け入れてほしい」
つまり、居場所がないという事なんだろうな。
「創造神は? あっ、いないのか?」
「いや、次の創造神が既についている。だが、創造神もどうしていいのか判断しかねている、このままでは……」
そんな事を言われたら、無視できない。
……これは、俺の負けだ。
「はぁ~、何人だ?」
「いいのか? 7人だ」
いいのかって、この星以外に居場所はないんだろうが!
「7人? 多いな」
まぁでも、それぐらいなら引き受けても問題ないだろう。
「分かった。引き受ける」
「ありがとう、すぐに連れて来る」
そう言って、再度やってきたアイオン神を見て頭を抱えた。
7人。
確かに人数は合っているが、全員子供しかもまだまだ幼い子供だった。
確かに7人の年齢を聞かなかった俺も悪いのかもしれない。
まったくそんな気はしないが。
100歩譲って悪いとしよう。
だが、俺のような存在になったと言うのだから俺と似たような年齢を想像するだろうが!
「いや~、ありがとう。助かったよ」
「おい。なんで子供なんだ?」
「会いに行ったときは既に死にそうだった。だから体の時間を逆回転させた」
「逆回転」
「死にそうになる前に、戻そうと思ったんだ」
なるほど、確か時間を操れる神がいたな。
「だが、ギフトの魔法と相性が悪かったみたいで逆回転の魔法が暴走した。で、時間が戻りすぎてしまった。暴走している逆回転の魔法を止める魔法を発動させたんだが……何故か綺麗に記憶が消えてしまって……」
……何をやっているんだ……。
ちらりとアイオン神の部下だろう者たちが抱っこしている子供たちを見る。
一番幼い子は4歳ぐらいか?
もう少し大きいか?
「まぁ、一度引き受けたしな。で、彼らの名前と性別は?」
「男が4人で、女が3人。名前はない」
「ない?」
「ギフトで奪われてしまっているし、記憶もない」
「そうだったな。だが元の名前を何処かで思い出すかもしれないだろう?」
「いや、それはない」
断言できると言う事は何か理由があるんだろうけど、俺には無関係だな。
これ以上は関わるのは止めよう。
「そうか」
「……気にならないか?」
絶対今度こそ聞かない。
「気にならない」
俺がアイオン神と無駄な話をしていると、一つ目たちがやってきてアイオン神の部下から子供たちを引き受けている。
「気になる『さて、俺は忙しくなったからまたな』……ちっ!」
今、舌打ちしたよな?
よかった。
何かを回避できたような気がする。
「アイオン神も帰れよ」
「……はぁ、仕方ないか。次こそは」
「言っておくが、これ以上ややこしい問題を持って来るなよ」
「…………では、また様子を見に来る」
嫌な間だ。
次も気を付けて対応しよう。
あれから1週間。
この星の新しい仲間。
7人の子供の対応にてんやわんや。
ようやく一つ目たちも7人という子供たちに慣れたのか、対応でき始めている。
まぁ、ウサとクウヒだけではなく、子天使たちも手伝ってくれたからな。
「ん? うわ! 子天使、翼を下ろして。この子たちは誰も空を飛べないから!」
視線の先にはいつの間にか子天使2人に腕を抱えられて飛んでいる翼の姿。
慌てて抱っこしていた太陽を、近くにいた一つ目に託し子天使たちのもとへ行く。
手をあげて受け取るが、子天使達が不思議そうな表情をしている。
おそらく面倒を見てくれていたんだろうが、ちゃんと言っておかないとな。
「この子供たちは羽が無いから、飛べないんだ。まだ力も安定していないしな」
俺の言葉に首を傾げる子天使たち。
あれ?
理解できなかった? と思っていると、子天使2人が俺の後ろを指す。
つられてそちらを見ると……子供の1人、月がふわふわと飛んでいた。
「飛べるの?」
まさかのことに目を何度か瞬きしてしまった。
しかし現実の様だ。
「あ~。あの子は、まぁ特別だから。他の子は飛べないから……まだ」
全員飛べる可能性があるな。
断言は止めておこう。
子天使達は、ふわふわ浮いている月のもとへ。
手を繋いでくるくる周辺を飛び出した。
「危ない事はしないように。子天使たち、任せたからな」
俺が言うと、2人の子天使が嬉しそうに飛ぶ速度を上げる。
「いや、無理はさせないでくれ。月、喜ばない!」
駄目だ、かなり月が楽しんでいる。
これは止められないだろう。
……諦めるか。
それにしても。
男の子は4人、雷、太陽、翼、風太。
女の子は3人、桜、月、紅葉。
一気に7人の子育てをすることになるとは。
「『人生何があるか分からない』だな。誰の言葉だったかな?」
とりあえず、泣きだした風太をあやしに行きますか。
第2章はこちらで終了です。
これからは番外編となります。
ここまで読んでいただき、本当に本当にありがとうございます。
途中、うまく表現できず意味が分かりづらい部分があったと思います。
それなのに、ここまで付き合っていただき感謝です。
また、感想や誤字脱字報告ありがとうございます。
感想ですが返信が出来ず、すみません。
でも、温かい言葉にいつも励まされてきました。
感想を読んで気付かされることもいっぱいありました。
本当にありがとうございます。
番外編では、まだ答えが出ていない話をフォローしていく予定です。
ただ、更新は不定期となります。
気長によろしくお願いいたします。




