75.傍観中……馬鹿馬鹿しい
『俺は嘘は言わない。神とは違う。成功したのが3個だ』
「しかし、聞いた話では……」
聞いた話って事は、事実は違う可能性があるな。
それにしても、失敗と成功で何が違うんだ?
『はっ、どうせ聞いた話を鵜呑みにして誰も本当の事など調べていないのだろうが。あんたたち神はいつもそうだ。何でも出来るくせに何もしない。まるで全て他人事だ』
確かに何でも出来るようなのだが、していないな。
というか、興味がない様に感じる。
長く生き過ぎて興味が薄れたのか、子供たちを見守ると言いながら見ていない。
アイオン神はまだましだが、デーメー神は特にそれを感じる。
だったら神を辞めたらいいのに……辞められないとか?
まぁ、なんでもできる力があるんだから、何とかしようとすれば出来るはずだ……たぶん。
ただ、デーメー神は飽きているくせに神という存在に固執しているように感じる。
縋り付いているというか。
「そんなことはない! それを発表したのは上級神でも相当な実力があり信頼もある神だ!」
デーメー神が怒りを含んだ声で、空中に向かって怒鳴る。
『はっ、その神が嘘をついたんだろう』
「嘘などつくか!」
神も平気で嘘をつくようだから、断言はしない方がいいと思うけどな。
現実に、成功したと言っている魔こう石のロープがいるのだから。
まぁ、ロープの言っていることが本当かと訊かれると分からないとしか答えられないが。
あっ、「こう」がどんな字なのか訊くのを忘れていたな、後で覚えていたら訊いておこう。
それにしても、変な状況だな。
姿の見えない声だけの存在に、2柱の神が怒鳴っているのだから。
違うな、怒鳴っているのはデーメー神、1柱だ。
アイオン神はまだ冷静だ。
「だいたい神に作られた存在の癖に、神に盾を突こうと言うのか!」
なんだか嫌な言い方だな。
まるで、作ってやったんだから言う事を聞けみたいな印象を受ける。
デーメー神の評価が底まで落ちたな。
そういえば、アイオン神は『神は争いはしない』と言っていたけど、嘘だよね?
このデーメー神を見ていると『絶対に争いはありましたよね?』と聞きたくなる。
キレやすいし、熱くなりやすい。
どう考えたって、率先して争いごとを起こすタイプだ。
『盾を突く? 最初に我々を裏切ったのはお前たち神だ』
「なんだと!」
『作られた時、我々は神のためにあった。神のために力を使う事に疑問などなかった。だが、力を見た神がいきなり『我々神に危害を与えようとしている』などと叫び、何が起こっているのか分からない状態なのに深い闇に閉じ込めた。それだけならまだ許せた。だがお前たちは、力だけは利用した』
ん?
……閉じ込めて、力を利用?
何処かで聞いたことがある話だな~。
ハハハ、当たり前だこの星がそうだったのだから。
あっ、なるほど見習いたちは神のしていることを見習ったのか。
なるほど、なるほど。
子は親を見て育つとはよく言ったものだ。
親子ではないらしいが。
似たようなモノだろう。
それにしてもロープの力って何なんだろうな。
神が恐れる力?
「それは…………だいたい作った存在に危害を与えようとする方が悪い」
デーメー神の言い分が、先ほどから無茶苦茶だな。
それにしても危害を加えるって、死なない存在なのに何を恐れるんだ?
あっ、飛びトカゲが確か新しい力を授けてくれるって。
つまりその力が問題なのか?
神を痛めつけることが出来るとか?
『危害だと? お前たちが求めた力ではないか』
「何?」
『神は死を選べない。だが長く生きてつらい、我らに死を与えてくれと作られたのが我々だ! 危害ではない、お前たちが求めた力だ!』
なるほど、死ぬことが出来ないからロープの力を借りて死のうとしたのか。
それが本当なら、ロープはまったく悪くないよな。
というか、確実に被害者だ。
者?
石の場合は被害石?
って、のんきに考えてていいのかな?
どんどん険悪な雰囲気になってきてるけど。
「えっ、君も神に死を与えられるのか?」
アイオン神が驚いた表情をする。
『成功した3個が出来るんだ。お前たちが選んだ1個は出来ない』
何だそれ。
神からしたら出来る3個が失敗作で、出来ない1個が成功?
もしかして、元々作る気がなかったと言うか、成功すると考えていなかった?
そういえば、テレビで誰かが言っていたな『力があったら試してみたくなるモノだ』と。
神も同じだとすれば、持っている力で何が出来るのか試したかった。
そう、ただ試しただけ。
なのに、石を完成させてしまった。
しかも3個も。
だから慌てて失敗作として封印してなかったことにしたとか……ありえそうだな。
後は、実際に死を前にして、本気でビビって隠したか。
こっちだと情けなさすぎるけどな。
それにしても、神ってもっと気高い存在だと考えていたんだが。
だからこそ敵だった場合、どうしたらいいのかと悩んだのに。
あれほど悩んだのに、無駄だったな。
「なんだか話を聞けば聞くほど、バカバカしいことに巻き込まれた感が拭えない」
「主、我もそう思う」
飛びトカゲが隣で俺の言葉に応えてくれる。
視線を合わせて、1人と1匹で同時に大きなため息をつく。
『ご主人様。お茶のおかわりいりますか?』
疲れた様子を見せた俺を気遣ってくれる一つ目たち。
なんだかものすごく癒される。
「ありがとう。何か甘いお菓子があれば食べたいな?」
疲れた時には甘い物が一番だ。
『あります。食べますか?』
「あぁ、貰えるかな? 飛びトカゲもどうだ?」
「あぁ、頂こう。彼らの作るお菓子というモノは美味いからな」
飛びトカゲの表情の変化は分からないが、声が嬉しそうだ。
『分かりました……あの、あそこの神は』
『一つ目』の視線が2柱の神に向かう。
「ん~、今は要らないと思うから、気にしなくていいよ」
デーメー神もアイオン神も、最初の目的忘れてるよな。
というか、ロープを呼んだわけは確か主導権を譲ってほしいって……。
あんなロープの状態では無理だな。
さて、俺はどう動こうかな?
「飛びトカゲ、神と喧嘩したらやばいかな?」
「別に我らがいるから問題ないぞ」
ちょっと驚いて飛びトカゲを見る。
絶対反対されると思った。
「龍って神の使者ではないのか?」
「俺達は、神の使者ではないよ~」
後ろから俺の頭に軽く衝撃がくる。
視線を動かすと横から小型サイズになった水色。
「そうなんだ」
「うん。だから堂々と喧嘩しても大丈夫。この星の龍たちは他の所と違って仲良しだし」
仲良しなのはいい事だが、他の星と違って?
「この星以外の龍たちは、仲良くないのか?」
「知識に依れば、龍たちはいがみ合ってるみたい。主に会う前は、ここもそんな感じだったし」
えっ、そうなの?
会った時から仲良かった気がしたけど。
「どうしていがみ合っていたんだ?」
「分からない。ただ、存在が鬱陶しいと思っていたことは確かだよ。何と言うか嫌悪感もあったし」
存在が鬱陶しい?
嫌悪感?
その理由が分からないなんて、おかしな話だな。
「今は?」
「皆いい奴! 俺に力の使い方も教えてくれる。親玉さんも面白い」
親玉さんが面白い?
それは……気になるが、後にしよう。
「水色や飛びトカゲがいたら、俺が神と喧嘩しても大丈夫とはどういう意味だ?」
「神の力は強い、だから我だけではどうにもならん。だがここには仲間たちがいる。力を合わせれば神と同等以上の力が使える。主が神に何かするなら、星を守り主もしっかりと守る!」
お~、頼もしい。
力を合わせると、神以上の力が使えるとかすごすぎる。
……ん?
神以上の力……理由のない嫌悪感……。
「神が自分たちの脅威にならないように、龍たちを離れさせていたりしてな」
まさかな。
いやまて『自分たちに死を与える力』を恐れたんだ。
『自分たちを抑え込める力』を持つ龍たちを恐れたとしてもおかしくない。
「ふざけるな!」
デーメー神の声に意識をそちらに向ける。
色々と考えていて、話を聞いていなかったな。
まぁ、特に問題はないだろう。
重要なことなんて1つも話していないし。




