74.理解は無理……関係ないよね
ある程度のことは話し合えば理解しあえると思っていたけど、無理。
根本的な違いが大きすぎて、分かりあえそうにない。
話すだけ時間の無駄だ。
「はぁ~」
嬉しくない経験だな。
「どうかしたのか?」
「いや、なんでもない」
他の事を聞こう。
何があったかな?
「そういえば、俺は人間ではなくなったらしいが、何になったか分かったのか?」
前にデーメー神がこの星にきた時に、そんなことを言っていたよな。
人間から変化していると。
「それなんだが、前例がなくて未だ分からない状態だ」
神も前例とか考えるのか。
その辺りは、なんとなく俺達と似ているような。
というか、前例がない?
「まさか俺って未知の存在って事?」
「そうなる」
ハハハ、未知の存在か。
という事は、これ以上聞いても無駄かな。
なんとなくこの話も平行線になる予感がする。
後は……。
「驚かないのか?」
アイオン神が訊いてくるが、この神は何が知りたいんだ?
「いや、充分に驚いています」
「そうか。わるい」
驚いていないわけないだろうが。
でも、衝撃を受けたと同時にそれを抑え込むような『仕方ないな』という気持ちが湧きあがっている。
これがギフトの効果なのかな。
それにしても、もしかして神にとって俺って実験台とか言わないよな。
……まさかね。
「あっ、この星はどうなるんだ?」
そうだ、この星の安定をお願いしたい。
ロープが不安定だって言っていたから、不安だったんだよ。
「私がとりあえず星を管理することになった。それでお願いがある」
お願い?
「何を?」
「この星の主導権を私にもらいたい」
えっ?
そんなの神なんだから自由に取っていけばいいと思うけど。
「どうぞ」
「よかった。結界を外してもらえるか? 私の力で外そうとしたんだが、出来なかったんだ」
結界?
何のことだ?
それに主導権を持っているのはロープだぞ?
「俺に言うのはおかしくないか? 主導権を持っているのはロープなんだが」
「えっ!」
なんで2人とも俺が握っていると思ったんだ?
「ロープ?」
あれ?
知らないのか?
でも、時間を操れる神がこの星を調べたんだろ?
だったら知っていると思うんだが。
「君はおもしろい名前を付けるな」
げっ、名前の事か!
「気にしないでください」
って、そんな残念そうな顔をしないでほしい。
俺だって変えたい名前はあるんだ。
だが気に入ってしまって、他の名前を嫌がったから諦めて……。
まぁ、親玉さんとか、毛糸玉とかは俺も気に入っているけど……センスが無いのは知っている。
あ~、日本語が通じない事をいい事に好き勝手付けたからな。
文句が上がったら、誠心誠意謝ろう。
「そのロープという者はどこにいる?」
「知らない」
まだ居場所を確認していなかったな。
「知らない? そのロープというのは何者だ?」
「知らない」
「知らない?」
「まだ声だけの知り合いだ。姿は……巨大な石だな。おそらく」
飛びトカゲが見せてくれた映像とロープが一緒だという確認はしていないが。
しめ縄なんてこの星にいくつもないだろう。
無意識に俺が作っていたら知らないが。
あれ?
しめ縄をイメージしたのは1回ではないような……確か2回……まぁ、いいか。
「巨大な石?」
「あぁ」
そういえば、いつもロープから声が掛かるけどこちらからは無理なんだろうか?
えっと……しめ縄を巻いた巨大な石をイメージして、声が届くイメージを作って。
「ロープ、聞こえるか?」
「何をしている?」
説明せずに実行してしまったので、アイオン神が不思議そうに見つめてくる。
説明してからやればよかった。
何気に恥ずかしい。
後先考えずに思い立ったらすぐ実行は駄目だな。
本来の俺とは違う性格だから、ギフトの効果だろうがこれは少し考え物だ。
『主、呼んだか! 主から声が掛かるのは初めてだ!』
空中から、いきなり声が響き渡る。
呼んだのは俺なんだが、正直ビビった。
何か前触れが欲しいところだ。
「悪いな、今大丈夫か?」
『主が呼ぶなら、いつでも大丈夫だ』
「ありがとう」
ん?
神が静かだな。
2人を見ると、唖然とした表情をさらしている。
「どうかしたのか?」
「この気配、魔幸石か!」
まこうせき?
ま? って、魔?
こうってどんな字だろう。
好? 高? ……分からないな。
せきは石だろうな。
魔こう石?
「魔幸石か、まさか本当に?」
近くにいた飛びトカゲの声が耳に届く。
どうやら知っているようだ。
「知っているのか?」
「あぁ、知識としてだが『天界の子供の血と魔界の子供の血を魔幸石に捧げ、新たな力を授からん』と言われている神が作った力を持った石だ」
天界の子供の血?
それって天使達の血か?
魔界の子供……あっ、卵。
で、それを魔こう石に捧げると、新しい力が産まれるのか?
「ロープって魔こう石なのか?」
『……あぁ、そう呼ばれていたな。だがそれはすでに過去の事だ。今は主を守る御神木だ』
御神木?
いや、あれは木のことなんだが。
えっと、もしかして間違って覚えているのか?
これは訂正をするべきか?
あっ、その前に『こう』という字をどう書くのか聞こう。
「ロー『待て、どう言う事だ? どうして魔幸石が意思を持っているんだ?』…」
言葉がかぶってしまったな、後でいいか。
『主、見かけぬ者たちだが誰だ? すごく嫌な気配がする』
ん?
ロープにはこちらが見えているのか?
「主?」
ロープの聞こえてくる声が少し低くなる。
まるで何かを警戒しているようだ。
「悪い、この2柱は神で、デーメー神とアイオン神だ」
『…………』
ん?
声が聞こえなかったのか?
「ロープ?」
『主、神を信用しては駄目だぞ。奴らは自分たちのことしか考えない者たちだ』
なんだかロープの雰囲気が変わった。
声も冷たく感じるし。
神に何か恨みでもあるのか?
「神を侮辱するのか?」
デーメー神が声を荒げる。
この神、ちょっと短気だよな。
前の時は我慢していたのかね、いろいろと。
『侮辱ではない。本当の事を主に言っただけだ』
「なんだと!」
『本当の事を言われて頭にきたのか? 馬鹿が』
「貴様、魔幸石の分際で」
『はっ、ただの神に何が出来る?』
何だこれ。
なんでやりあってんの?
というか、神と巨大石が喧嘩って……。
「ロープ、止めろ。デーメー神もいい加減にしてくれ」
なんで俺が止めなければならないんだ。
アイオン神は何故か呆然としているし。
使えないな。
『ごめんよ、主。でも、神には良い印象が無いんだ。俺を作ったくせに不要だと閉じ込めたからな』
なるほど、それは恨むな。
でも、どういう経緯で閉じ込めたんだ?
……あまり知りたいとは思わないが、ロープのことだしな。
ロープやデーメー神より、アイオン神の方がまともに答えられるかな。
「アイオン神、そろそろ正気に戻ってほしい。で、説明してくれ」
アイオン神の視線が俺に向く。
何度か口を開け閉めしてから、ギュッと閉じられる。
それって話せないという事か?
『主、我は魔幸石という神に作られた強力な力を持った石だ』
ロープが説明をしてくれるらしい。
アイオン神がちょっと怖い顔をしているが、まぁどうでもいいか。
「で?」
『魔幸石は我も含めて4個作られた。が神が成功したと認定したのは1個だけ。ちなみに俺は失敗作だ』
失敗作ね。
『だが、それは神から見たモノで我らから見た結果は違う』
「どう違うんだ?」
『成功したのは3個で失敗したのは1個だ』
「なっ、そんなはずは。成功したのは1個のはずだ」
アイオン神が慌てて訂正をしてくる。
なんだかややこしい事になりそうだな。
というか、これって俺に関係ない事なのでは?




