73.ギフトは必要……俺に訊くな!
名前の事も含めてかなりすごい情報を聞いたはずなのだが、思ったより衝撃を受けていない。
これがギフトの効果なんだろうな。
元の俺だったら、名前が思い出せない辺りで混乱するだろう。
まぁ、混乱して対処できないよりましなんだろうが、納得できない部分は多々ある。
「そういえば、ギフトを跳ね除けたと、何処で判断したんだ?」
あの時『神だからか?』と訊かれたような気がする。
「言わなかったか?」
「あぁ、聞いていない」
「そうか、私にとってあれは口にしたくもない恥だからな」
何だ?
「ギフトには『神を絶対的に崇める』と言うものも含まれているんだ。力で強制するなど」
まぁ、そんな事だとは思ったけどな。
馬鹿らしい。
「そうですか」
「何も言わないんだな」
「予測出来ることでしたから」
「そうか」
一つ目たちがいれてくれた果実水を飲む。
甘い果実に柑橘系を足したのか後味がさっぱりしている。
美味しいな。
「……何も聞かないのか?」
果実水を楽しんでいると、アイオン神が訊いてくる。
訊きたいことは正直沢山ある。
ただ、何から訊いていけばいいのか……。
「魔王……勇者召喚のために魔王を作ったんですか?」
「それは違う!」
俺の質問に、いきなりデーメー神が立ち上がり大声で叫ぶ。
同時にデーメー神の神力が、ふわりと俺の体に絡みつく。
ピリピリと全身に感じる神力の力。
あれ?
神力で攻撃されているのに、恐怖を感じない?
……恐怖を感じる感覚が、昨日より鈍くなっているような……。
これっていい事なのか?
「何が違うんです?」
そういえば、ギフトは返すことが出来るのか?
いや待て。
ギフトなしで、俺はこの世界で生きていけるのか?
……ハハハ、絶対に無理。
怖がりな俺が、ギフトなしで生きられるはずがない。
何も言わず、ありがたく貰っておこう。
生きるためだ。
それにしても神力が鬱陶しいな、吹き飛ばすか。
体の中から外に向かって風を吹くイメージを作る。
「排除」
魔力が体の内側から外に向かって飛び出すと、体に絡みついていた神力が吹き飛ばされる。
ふっと軽くなる体。
どうやら上手く出来たみたいだ。
「何を!」
デーメー神の驚いた声に視線を向けると、目を大きく見開いている。
あ~、何かやってしまったのか?
「デーメー、座れ」
デーメー神は何か言いたそうにするが、アイオン神に睨まれてしまい大人しく座った。
「すごい魔力だな。濃度がかなり濃い」
ん?
魔力に濃度の濃さなんてあるのか?
俺のは濃いという事だが、いい事なのか?
「そうですか」
まぁ、どちらでもいいか。
今のところ、不便な状態にはなっていないし。
興味がわかない。
「……興味がなさそうだな」
「そうですね。どうでもいいです」
なんとなく色々なことに対する興味が薄くなっているな。
大丈夫か俺?
「そうか。魔王についてだがデーメーが言ったように、勇者召喚をするために作った訳では決して無い。それだけは信じて欲しい」
真剣な表情でじっと俺を見るアイオン神。
嘘をついているようには感じないが、神をどこまで信用するか。
「では、何のために?」
「子供たちを守るためだ」
……守る?
魔王は人間の敵ではないのか?
「子供たちが争う事を我々は特に嫌う。同じように愛している存在同士が争うんだ。正直見ているのがつらい」
まぁ、そうだろうな。
どちらかにすごい罪が無い限りは、つらいだろう。
「だからある神が考えたのだ。子供たちが争わない方法を」
争わない方法として、魔王が作られたという事か。
……あっ、もしかして。
「世界の共通の敵?」
世界の敵を作ってしまえば、共闘を組むことになる。
「そうだ、魔王という1つの国や1つの種族ではけっして倒せない存在を作ることで、子供達同士が争わない世界を作ろうとした」
まぁ、良い案ではある。
だが、人間だから分かる。
それぐらいでは子供たちの争いはなくならないだろう。
というか、違う争いが起こるはずだ。
「うまくいったんだ。ただ、すぐにそれまでとは違うことで争いだした」
だろうな。
どこが主導権を取って魔王を倒すか、他にもまぁいろいろと考えられる。
貪欲だからな、人間は。
他の子供たちと呼ばれる存在の性格などは知らないが、おそらく似たようなモノだろう。
「だから、魔王をもっと強くした」
強く?
意味があるのか?
「争っている暇などない様にな」
「それは、意味がないのでは?」
「あぁ。魔王をどんなに強くしても、争いは無くなることはなかった。ひどくなった場所はあったが」
だろうな。
魔王が強くなればなるほど、倒した者の所属する国もしくは種族に権力が集中する。
しばらくの間はそれでうまく行くかもしれないが、代が変わることで問題も起きてくる。
そうなれば、争いも起こるはずだ。
「どんな敵を作ろうと、どんな環境を作ろうと人間は争いを止めないと思うが」
他の種は知らないが。
「その通りだ。良く分かるな」
「人間だからな」
「……そうだったな」
「聞きたい。なぜ子供たちは争いを止めない? あんな意味の無い行為」
デーメー神の言葉に、アイオン神もじっと俺を見つめてくる。
そんなに見つめられると、居心地が悪くなるんだが……。
争いを止めない理由ね。
何だろう。
主導権を取りたいから?
お金が欲しいから?
エネルギーが欲しいから?
「他人より良い生活がしたいから」
「えっ? どういう意味だ?」
どう言う意味って、そのままなんだが。
「だから、隣の人たちより自分たちの方が豊かな生活をしたいから」
たぶん、これが争いが起こる一番の原因だよな?
あっ、まだ重要なのがあった。
「宗教の違いと肌の色の違いも争う原因だな。簡単に言えば自分とは違う者を排除しようとする傾向があるんだ……たぶんだけど」
「なぜ?」
デーメーが不思議な表情をする。
なぜって訊かれても。
「自分と違うから」
「……それは当たり前のことでは? 一緒の者などいませんよ」
ん~、まぁそうなんだけど。
「あ~、自分と考え方が違いすぎると怖いのかもな」
「そうなのか?」
「たぶんな」
俺は普通の一般人だ。
しかも、戦争の無い日本で生まれ生活してきた。
そんな俺に戦争の原因とか聞かれても、分かる訳ないだろうが。
「よく分からない。デーメーは、分かったか?」
「いや、分からない」
アイオン神もデーメー神も、俺の説明では理解できなかったようだ。
「だろうな」
俺も途中から、自分が何を言いたいのか分からなかったし。
アイオン神が俺の言葉に、眉間に皺を寄せる。
そんな顔されても、分からないモノは分からない。
「神が争う事はないのか?」
「我々が? 無いな」
すぐに無いと答えられたが、本当だろうか?
「絶対に?」
「あぁ、争う理由がない」
争う理由?
いや、あるだろう。
「勇者召喚には反対派と賛成派がいるんだろう? この2つの間で争いは起きないのか?」
「いずれ時間が解決する」
「時間?」
「待っていれば、いずれは結果がでる。なので待っていればいいだけだ」
結果?
それって勇者召喚で子供たちが争いを止めるか、止めないかって事か?
それだったら既に答えは出ているはずだが。
「どういう結果がでればいいんだ? それにどれくらいの時間待つんだ?」
「結果が出るまで待つ。結果は……特に決まっていないな」
アイオン神の返答に頭を抱えたくなる。
結果が決まっていない?
決まっていない結果を、待ち続けるって……。
「普通、結果を決めてから待つだろうが」
「いつでも決められるからな」
……駄目だ。
考えが違いすぎて合わない。
と言うか、時間が無限にあると言う事の弊害なんだろうか?




