72.神は最悪……ギフトも最悪
「この馬鹿、デーメーに土下座させるためにきた。あと話がしたい」
……は?
正直、目の前の女性が発した言葉に思えなかった。
なぜなら見た目、髪は俺からしたら奇抜だが清楚な印象の女性なのだ。
その女性から『この馬鹿に土下座』。
正直、似合わない。
「えっと、土下座をする理由は?」
「君を使って、この星を消そうとしたからだな」
あ~、やっぱり俺を使って消そうとしたのか。
なんだか、イラつくな。
「最初から関わっていたのですか?」
「いや、ここで君が生きていると知ってからだ」
俺が生きていると知ってから?
それって、俺は死んでいると思っていたわけか。
つまり、巻き込まれた人間がいたのは知っていたが、死ぬと思って放置したと。
で、俺が生きていたから利用してこの星を消そうとした。
「そうですか。でも必要ないです」
「相手が神だからか?」
「なんですか、それ。関係ないですよ」
「……見事に君は、ギフトを跳ね除けたんだな」
「ギフト?」
何のことだ?
ギフトって贈り物って意味だよな。
何かもらったのか、俺。
「すまなかった」
いきなり、目の前でデーメーという神が土下座する。
本気で土下座するとは思わなかったな。
これってどうしたらいいんだ?
だいたい謝られたところで、許せないと思ったから必要ないと言ったんだが……。
謝るのって相手に届かないと、自己満足なんだよな。
「謝る必要ないですよ」
「えっ?」
「許せないんで。俺に仲間を殺させようとしましたよね。これは絶対に許せないです」
「まぁ、そうだろうな。すまないな、もう少し早くこの場所が特定出来ていれば、ここまでひどい事にはならなかったのだが」
この場所の特定?
……もしかして、何らかの方法で隠されていたのか?
用意周到だな。
「デーメー許さないって。土下座を止めろ、見苦しいだけだ」
……この神、容赦はないな。
見た目で人は判断できないって事か。
人ではなく神だけど。
「それよりギフトとは?」
なんだか、ものすごく嫌な予感がする。
絶対碌な物ではないだろうな。
「説明をする前に、まずはお礼を言わせてほしい。あと、許されるなら謝罪も」
「はっ?」
お礼に謝罪?
こっちの神にはまだ何もされていないはずだし、とりあえず話を聞いてみるか。
「何に対してのお礼と謝罪ですか?」
「私はアイオンという、君の生きていた星の管理者だ。勇者召喚を止めることが出来なかった事の謝罪と君がこの星で助けた者たちは無事に私の星へ帰って来ることが出来た。そのお礼がしたい」
地球を管理する神なんだ。
勇者召喚を止める、か……確かにあれが原因だが別にこの神が謝る必要は無いよな。
悪いのは、見習いたちだ。
「謝る必要は無いでしょう。えっと、アイオン神? は関係ないのだから。悪いのは見習いたちでしょ?」
「あ~、そうとも言い切れないんだ」
言い切れない?
勇者召喚をしたのは見習いたちだよな。
これは声だけだったが、俺が自分で確認できている事だ。
「あの3人の見習いを、導いた神がいるんだ」
……神って最悪だな。
「なので、ある意味奴らも被害者と言えなくもないな。まぁ、やった事が全て許される事はないが、少しは罰の軽減にはなるだろう」
「どうしてそんな馬鹿なことを神が?」
「暇なんだよ。神っていうのは暇を持て余しているんだ。だから余計なことをしたくなる」
「もしかして、長生きだから?」
「長生きではなく、死というものがない」
「……それは最悪ですね」
死が無いのか。
考えただけでもぞっとする。
「謝罪は要らないとしても、お礼だけは言わせてほしい。消えた子供たちをずっと探していたんだ、助けてくれてありがとう」
スッと頭を下げるアイオン神。
この神は、何と言うか率直だな。
「お礼は受け取ります。魔法なんて馴染みが無い物だから、うまく行くとは正直思っていませんでしたが。無事だったんですね、良かった」
けっこう無茶苦茶なイメージで発動した魔法だったような気がする。
よくあれで無事だったよな。
「さて、ギフトの説明だな。これは少し長くなる」
「なら、座りませんか? ずっと立ち話もしんどいので」
「そうか? ありがとう。デーメーは見るのも嫌なら消すが」
消す?
えっ、殺すの?
「おい」
「なんだ? 文句を言える立場ではないだろう?」
「別にどうでもいいです」
許すつもりはないが、もうどうでもいい存在だ。
俺にとってどうでもいい存在はそこにいてもいないのと同じ。
「そうか? なら隣でおとなしくしていろ」
3人で椅子に座ると、すぐさま一つ目たちがお茶とお菓子を持って来る。
なんだかその姿に、ちょっとささくれ立っていた気分がふわっと軽くなる。
「勇者召喚にはギフトが必ず贈られる。……その前に1つ確認したい、名前を言えるか?」
はっ?
何を当たり前のことを言っているんだ?
「俺は…………」
あれ?
俺の名前って何だっけ?
……どうして、忘れている?
数十年共に過ごした名前だ、忘れるわけがない。
「やはり、消されているか」
「どう言う事です? 俺は……」
「天王 翔だ」
てんおうあきら?
てんおう……てんおう……あっ、天王
天王 あきら……翔。
そうだ、かけ兄さんと妹の華に呼ばれていた、天王翔だ。
「それもギフトの1つだ」
……名前を消すことが?
それってギフトではないだろう。
「勇者召喚がどういうモノか理解出来ているか?」
華が読んでいたラノベの世界のモノでいいのか?
「過ごしていた星からいきなり召喚され、人間の敵である魔王を殺せってお願いされるんですよね」
確かこんな話だったはずだ。
聞いた時は、随分とぶっ飛んだ話だなと思った事を記憶している。
「大まかに正解だな」
「現実にあると思いませんでしたが……」
こんなのは、物語だから楽しめるのだ。
現実では絶対に無いと、信じているから。
「ハハハ、だろうな。あぁ、言っておくが私は『勇者召喚』反対派だ」
そんなものがあるのか。
人間と感覚的なことが似ている事もあるんだな。
「普通に生きてきた子供が、子供とは君のような人間の事だ。その子供たちがいきなり違う世界に飛ばされて、命を奪ってくれと言われて対応できるか」
「無理でしょう」
「そう、無理だ。普通なら絶対に。もし話に絆されて、勇者になったとしても命を奪っていけば心がいつかは壊れるだろう。だがそれを出来るように変えるのがギフトなんだ」
いったい何を変えたら、壊れず命を奪えるようになるんだ?
「性格を豪快にそして正義感溢れるものに。細かく言っていくと命を奪う事へ対する拒否感の軽減、罪の意識の軽減。正義を遂行することへの悦楽」
性格を変えるのか……俺の性格が変わったのもギフトのせいだったのか。
「肉体面は体力を増加、俊敏や知力の増加、免疫力強化、修復力強化。他にも」
まだあるのか?
まぁ、体力と俊敏が増加したのは感謝だな。
元の俺だと、おそらく1年も耐えられなかっただろうからな。
それにしてもギフトって……。
「先の事は考えない無防備さ、矛盾に対する鈍感性。幸運、遭遇、直感レベルもギフトであげられている」
……何と言うか。
「元の星に対しての執着を薄れさせるために、名前の変更、家族構成の変更」
…………。
「共に召喚された者たちへの強固な仲間意識。召喚された星への愛着。魔王、魔物への憎悪」
ギフトって、人を完全に作り変える物だな。
というか、ギフトを全て贈られたら元の性格なんて無くなるだろう。
「人格の破壊ですか?」
「これだけしなければ、安全な世界で生きてきた者が魔王に立ち向かうことは出来ないんだよ」
「そもそも、なんで魔王なんているんです? 神の力でどうにかできないので?」
「魔王は、子供たちの争いを止めるために神が作った存在だ」
なんだそれ、神が作ったのかよ。
そういえば、ギフトを跳ね除けたって……除けられて無いよな。
性格変わったと思うし。
「俺、ギフトを跳ね除けられていませんよね?」
「いや、君の場合は必要な物だけを選んで使っているようだ。まぁ名前に関しては消されていたが、思い出すことが出来ただろう? 普通は思い出すことは無い」
選んで使っている?
マジで?
「そういえば、家族構成の変更がありましたが、俺の中の記憶は大丈夫ですか?」
記憶を信じたいが、ちょっと不安だ。
「名前が思い出せたので問題ない。本物の記憶だ」
……信じるしかないか。
それにしても、ものすごいことに巻き込まれてたんだな。
ただそう思うのに、ギフトのお蔭なのかそれほど問題だと思っていないんだよな。




