71.2日間!……敵なのか味方なのか
「う……う~。あっ?」
なんだ?
腰や背中が……これって、あれだ。
寝過ぎた時になるやつだ。
そんなに長く寝た覚えはないが……。
『ご主人様。目が覚めましたか、よかった!』
「はっ?」
主の次はご主人様?
なんだか、ものすごく違和感が。
ん?
目が覚めましたか?
目を瞬かせながらベッド周辺を見ると、一つ目たちが3体。
じっと俺を見つめている。
「大丈夫。ちゃんと起きたから」
『よかったです。ここ2日間、目が覚めなかったので。今、どうしようかと相談していたところでした』
3体のうちの1体が寝室から出ていく後ろ姿を見送る。
2日、そうか2日も寝ていたら体が痛くなって当たり前だな。
「えっ! 2日?」
『はい。昨日はどんなに起こしても起きてくださらず、心配しました』
2体の一つ目たちが心配げに俺の様子を窺ってくる。
その様子をじっと見て少し首を傾げる。
一つ目たち岩人形たちにはあまり表情の変化はなかったはず。
なのに、今見ているこの子たちにははっきりと表情がある。
また、独自に進化したのだろう。
すごいな。
って今はその感動に浸っている場合ではないな。
2日間も眠っていたらしいからな。
しかしなんでそんなに眠っていたんだ?
何が原因だ?
……あ~、分からない事だらけなので考えるのも面倒くさくなってきたな。
問題も山積みになり過ぎると、どうでもよくなってくるよな~。
えっ?
俺ってこんな性格だったか?
『ご主人様?』
「あっ、大丈夫だ。心配かけて悪いな、もう大丈夫だから」
本当に大丈夫なのかは、ちょっと疑問だが。
とりあえず、ここ数日感じていた眠気は消えている。
性格の問題は……後回しにしておこう。
『よかったです。ウサとクウヒがものすごく心配して、昨日は眠れていません。今もご飯を食べず、1階でうろうろ歩き回っています』
ぅわ、これは急いで会いに行った方が良さそうだな。
「分かった。今は……朝でいいのか?」
窓から入る光の強さから朝だとは思うが。
『はい、朝です』
「分かった、ありがとう。急いで降りるよ。2人と一緒にご飯を食べるから用意をお願いしても良いかな?」
『分かりました! お任せください』
何だ?
今、一つ目たちのテンションが上がった気がするが。
「えっと、よろしく」
2体の一つ目たちが寝室から出ていく姿を見送ってから、すぐに服を着替える。
「う~、完全に寝過ぎだな。体のあちこちが……」
痛みを訴える体を、軽くストレッチをしてほぐしていく。
「これって、魔法で解決した方が早かったか? まぁ、いいか」
どことなく体は重いが、節々の痛みは軽くなってくれたな。
それにしても、2日も寝ているなんて……大人になってから初めてだな。
力の影響?
「おはよう、ウサ、クウヒ心配かけてごめんな」
「「あるじぃ~」」
あっ、泣いてしまった。
子供が泣くのは苦手なんだよな。
「主。大丈夫なのか?」
後ろから聞こえる声に視線を向けると、コアの心配げな表情があった。
「あぁ、大丈夫。少し寝過ぎただけだ」
「そうか?」
さすがに誤魔化せないかな?
ただ何が起こっているのか俺自身が分かっていないからな、説明が出来ないんだよ。
なので貫き通すしかないんだが。
「コア、本当に大丈夫だ」
「……ならばいいが」
説明できずに悪いな。
ウッドデッキに続く窓を見れば、仲間達が心配そうに顔を覗かせている。
「心配かけたな、もう大丈夫だから。ありがとう」
仲間達の表情が、少しホッとしたモノに変わる。
詳しく説明していないので、少し不安が残っているがそれは仕方ない。
諦めてくれ。
俺も誰かに説明してほしい立場だから。
『ご主人様。準備が出来ました』
「ありがとう。ほらウサ、クウヒご飯を食べようか。お腹空いているだろう?」
そういえば2日間寝ていたのにあまりお腹が空いていないな。
こういうモノか?
「「「いただきます」」」
ふわふわのパンを口に入れる。
……お腹は空いていないが、美味しさはわかる。
一つ目たちは、料理というかパン作りの腕をまたあげたようだ。
不思議だな。
一つ目たちには味覚が無いのに、どうして美味しいモノが作れるのだろう?
彼らの作った朝ごはんを堪能していると、リビングの大きな窓から風がスーッと流れ込んでくる。
「あれ? 今何か……」
風を感じた瞬間、仲間のモノとは異なる力を感じた。
ただその力、何処かで感じたことがあるような……何処でだ?
『ご主人様、庭に誰かおります』
「えっ!」
急いで一つ目たちが見ている窓の外に視線を向ける。
そこには2人の人の姿。
1人は白髪の若い男、何処かで見たような気がするが……。
もう1人は、長い……水色の長い髪の女のようだ。
あれって地毛なんだろうか?
リビングからウッドデッキへ出て2人の傍に近づく。
が、途中で立ち止まる。
この力、神力だ。
つまり2人は神という事になる。
あれ?
男の方の力は、仙人みたいな神とおなじ?
本人ではないようだけど、子供か?
「すまない、いきなり来てしまって。話がしたいのだが」
話?
まぁ、こちらも話は色々としたいのだが、信じていいのか?
「そう、警戒をしないでほしいところだが、無理だろうな。今までの事を思えば」
「知っているのか?」
「あぁ、時の神。時間を操れる神がいるのだが、その神に協力してもらい、この星について調べてきた」
時の神?
時間を操れるとか、随分と恐ろしい神がいるもんだな。
まぁ人を星から星へ移動できる神がいるのだから何でもありか。
「はぁ、ところで隣の男は? 前にここにきた仙人みたいな神の子供か? 顔も似ているし力もそっくりだ」
1つ1つ、状況を知っていくか。
相手を知っておかないと、とっさの対処も不可能だ。
とはいえ神が何かしたとして、防げるとは思わないが。
「主、大丈夫か?」
そっと隣に飛びトカゲが来てくれる。
その姿に体に入っていた余分な力が抜ける。
「大丈夫だ。飛びトカゲは彼らが誰かわかるのか?」
「いや、ただ力から考えて上級神だとは思う」
力で上級とはわかるのか、すごいな。
今度見分け方を教えてもらおう。
「とびとかげ?」
女の神が眉間に皺を寄せて、複雑そうな顔をしている。
しまった。
日本語が分からない事をいい事に、ちょっと残念な名前が多いのだった。
今さら変えられないし、皆名前の意味を知ったら怒るかな?
でも、俺だって変えようとしたことはあるんだ。
ただなぜか気に入ってしまっていたため、変えさせてくれなかったが。
名前について突っ込まれる前に、何か話……。
「それで、あなたはあの人の親族なんですか?」
「いや、違う」
何だ、違うのか。
それにしても似ている。
「本人だ」
「あぁ、本人だったんですか。えっ! 本人?」
いやいや、年齢的に無理があるだろう。
どうして老人が若くなるんだ。
あっ、もしかして自由自在に姿形を変えられる?
「すまない、だますつもりはなかったんだが、これが俺の本当の姿なんだ」
本当の姿。
そういえば、話し方も変わっている。
以前は少し個性的な話し方をしていたからな。
「そうですか。まぁ、もうそれは良いです」
本当に見た目など、どうでもいい事だ。
それよりも、この世界の問題を見落としたのか、それとも放置したのか。
……俺達を殺すつもりだったのか!……。
ふ~、落ち着こう。
興奮してもいい事はない。
「今日は何をしにここへ?」
とりあえず、この目の前の存在が敵なのか、味方なのか。
それだけは確認したいところだな。




