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異世界に落とされた…  作者: ほのぼのる500
片付けは隅から隅まで!
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70.……どこかの天で……3

-ある場所で、アイオンとデーメーの会話-


「で、諸悪の根源は誰だ? それともこちらで調べた方がいいのか?」


デーメーは完全に項垂れている。

時の上級神までこちらに協力するとは思っていなかったのだろうな。

時間を操れる上級神は創造神の直轄で、特別な存在だ。


「……タンタスだ」


タンタス。

確か問題の星の近くにある星を、見守っている上級神だったな。

そう言えば奴は。


「数十年前にも何かやらかしたことがあったな」


あの時は、星や子供達には被害はなかった。

だから、軽めの罰で済んだはず。

今回は、未来を担う見習いを利用するだけでなく星にも、子供たちにも被害が出た。

また神獣の被害も報告されている。

相当重い罰になるだろう。


「まぁ、奴の事はどうでもいい。デーメー、なぜ規律を破った?」


私が気になるのはデーメーだ。

タンタスの事は他の上級神がどうにかするだろう。

あいつには上司がいたはずだ。


私の質問に、じっと視線を合わせるデーメー。

見つめ合っていると、不意に苦笑を浮かべた。

そして、デーメーが一瞬光に包まれる。

そして次に見えた時には見た目が変わっていた。


「久々だな、その姿」


目の前には、長い白髪に長い髭の年老いた老人の姿ではなく、短い白髪の若い男性の姿。


「そうだな。この姿になるのは久しぶりだ」


デーメーは何時の頃からか、見た目と話し方を変えていた。

見た目は時を重ねた年配の老人に、そして少し個性的な話し方に。

初めて見た時は驚いた。


なぜ、見た目と話し方を変えたのか。

その理由は、なんとなくわかる。

神は、ずっと姿が変わることがない。

おそらくデーメーは時を刻む変化が欲しかったのだ。

私も前に1度、老いる経験がしたくなり見た目を変えたことがあった。

空しく感じたので、1度だけだが。


「見習いたちを見つけた時は、既に勇者召喚を行った後だった。失敗に終わったが、5人の子供たちが巻き込まれていた。4人は元の星へ帰ったのを見送ったが、残った1人が目の前で消えてしまった」


それが星で生き延びている彼だな。


「すぐに探しに行こうと思ったんだ、だが彼には勇者召喚のギフトが既に贈られていた。それが確認できたから……」


勇者召喚ギフト、ただの人を勇者へと変化させるための贈り物。

まぁ、私が思うにあれは縛りだ。

無理やり勇者を作り上げるための。


「だから、既に死んでいると思った。勇者召喚が失敗している以上あの子供では、ギフトには耐えられない。たとえ耐えたとしても、すぐに力が暴走して死ぬと考えた」


確かに普通の子供では、ギフトに詰まった膨大な力の解放に耐えられるはずがない。

だから勇者召喚には、ギフトに耐えられるように体を作り変える法術が組み込まれている。

召喚に失敗した以上、体は子供本来のままだっただろう。

デーメーが死ぬと考えるのも普通の事だ。


だが、そこが不思議だ。

なぜギフト解放に、彼は耐えられたのか。

しかも4人分の勇者召喚のギフトになれば、見習いでも耐えられるかどうか。

力の暴走については、まるで奇跡のように力を発散する機会があった。

だから生き延びられた理由は説明がつく。

だが、初めてのギフト解放に耐えられた原因は調べたが分からなかった。


「だから、探すのはやめた」


「……そうか」


昔のデーメーなら、きっと探したんだろうな。


「だから驚いたよ。見習いたちを監視していたら、まったく新しい星が存在しているし、その星には死んだと思っていた子供が生きていたのだから」


何を思い出したのか、ふっと笑って首を横に振るデーメーをじっと見る。

若い姿に戻ったはずなのに、目が疲れた老人みたいだ。


「あの子供には、とっさに何も知らない振りをしてしまった。その後は、アイオンの言った通りだ。最初の判断ミスを隠したかった」


ミスを隠すために、星を消そうと?


「本当にそうか?」


「……ふっ、さすが長い付き合いだな。確かにミスなど、どうでもいい事だ」


「デーメー?」


「アイオン、長く生き過ぎたと思わないか? 俺は星も子供たちも、愛せなくなってしまった」


確かに、長く生き過ぎたと思う。

私の場合はまだ、星にも子供たちにも愛情はあるが。


「姿を変えてその事からずっと目を背けてきた。なのにあの子供を見た瞬間、憎しみが溢れそうになったんだ。子供は何も悪くない。ただ俺を見て安堵した、ただそれだけだ。でも、その表情が何故か憎く感じて。だからあの子供に、どうにもならない事があるんだと思い知らせたかった」


……心が壊れかけているのか、デーメー。


神という存在は、不滅なので死が訪れることは無い。

寿命がある者から見れば、羨ましい事なのかもしれないが現実は地獄だ。

なぜなら、終わりがないからだ。

不滅なのだから当たり前だが、終わりがないという事は想像以上にきつい。


見習い期間が終わり、神として新たに生まれ変わる時に不老不死であり不滅の存在となる。

老いる事も無く、病気もしない。

最初の頃はしっかりと自分の立っている場所を把握できていた。

そして神として歩むその先の道も。

自分の星を持つことがどれほどうれしかったか、子供たちが少しでも良い環境で過ごせるように色々と考えて力を使い、日々が充実していた。

だが、時が流れその時が長くなればなるほど、見えていたはずの道が見えなくなってくる。

自分は神として何処へ向かっているのか。

過去を振り返って思い出そうとしても、その過去はあまりに遠すぎてそれが正しいのかさえ分からない。

長く生き過ぎて、心が疲弊してしまうのだ。


「アイオン、子供達はどうして争いを止めない?」


デーメーの表情に子供たちに対しての苛立ちや憎しみが見える。


「さぁ、どうしてだろうな」


「私は色々と頑張ってきた、あの子たちが皆で生きられる道へと導いてきた。なのに、何度も何度も裏切って同族で殺し合う。あいつ等は何なんだ!」


心が疲弊する原因の1つは、子供たちだ。

子供たちの中でも特に、人間、獣人、ドワーフ、エルフ、キメラなどが問題となる。

別に愛情を与えているのだから、それに報いろと言っているわけではない。

導いた方向と違う方向へむかうことも、特に問題ない。


心が疲れてしまうのは、同族同士の殺し合いや見た目が違うというだけの殺し合いだ。

食物連鎖とは違う、色々なことが絡み合ったモノだが神の視点からでは無意味に見える殺し合い。

そこに生きる子供達には意味があるのだろうが、私達にとっては本当に疲れる行為なのだ。

それは、どちらを有利にして争いを終わらせたら星や世界のためになるか考えるからだ。

……見捨てる子供たちを決める時でもある。

最初の頃は、自分の何が悪かったのかと自暴自棄になった時期があったな。

まぁ、昔過ぎてその時の感情は覚えていないが、今でも苦痛に感じるのだから初めの頃は相当辛かったはずだ。


「難しいな。なぜだろうな? ただ、あの子供たちも私たちが作った存在の1つだという事だ」


「……そうだな、私も可愛いと思っていた時期もあるさ。でも、それはあまりにも昔だ」


デーメーがスッと私と視線を合わせる。


「アイオンは、まだ子供たちを愛せているのか?」


「あぁ、まだその感情は残っているよ」


「そうか。少し羨ましく感じるよ。そう言えば、あの子供はまだ生きているのか?」


あの子供?

星にいる彼の事か?


「あぁ、だが数日前に星の主導権が取られ、今は強力な結界が張られ外からでは中が見えないがな」


私の言葉に首を傾げるデーメー。

何だ?

何かおかしな事でも言っただろうか?


「おかしいな、修正したはずなのに……」


修正?

時の神に、星の過去を見せてもらったので全て把握しているつもりだったが、まだ何かあるのか?。

強力な結界が生まれた事と何か関係が?


「何を修正したんだ?」


「勇者召喚のギフトが、しっかり働くようにしただけだ」


「なっ、なんてことをしたんだ!」


「すまない」


彼は無事か?

いや、今まで何とかなっていたのだから、信じるしかないな。


「はぁ、魔幸石について何か知っているか?」


「あれは問題ないよ。アイオン」


「なぜ?」


神を殺せる唯一の力を持つ魔幸石だ。

問題ないわけがない。


「あの星にあるのは、失敗作の1個だ。ただ、力があるだけの石だ」


「そうなのか?」


「あぁ、さすがにタンタスでも、本物の魔幸石は持ち出せなかったそうだ。だから失敗作の1個」


確かに、神を殺せる魔幸石でなかった事は良かった。

だが、魔幸石としては使いものにならなくとも、膨大な力がある。

あの力が悪用されれば、その周辺の星にだって影響がある。


「それでも、問題だろうが」


「……そうだな」


苦笑を浮かべるデーメー。

若いはずなのに、疲れ切った老人みたいだ。


「そろそろ行くよ」


「駄目だ。デーメーにはついて来てもらう」


「えっ?」


「あの星へ行く。彼に謝れ、お前の責務だ」


少し目を見開いたデーメーは、寂しそうに笑って頷いた。

その姿を見て、未来の自分が重なる。

今はまだ、子供たちに愛情はある。

だが、昔に比べればその愛情には温度差がある。

いつまで私は、ここにいられるのだろうな。


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― 新着の感想 ―
[一言] そもそも、神様って言ってるけど、特別寿命が長い人間じゃない?これ。 精神構造が人間と大差ないと思う。 むしろ主人公の精神構造の方が理解不能まである。
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